東京大学、海洋研究開発機構、群馬大学、製品評価技術基盤機構、産業技術総合研究所、日本バイオプラスチック協会は、神奈川県の三崎沖(水深757 m)、静岡県の初島沖(水深855 m)、伊豆小笠原弧の明神海丘(水深1,292m)、黒潮続流域直下の深海平原(水深5,503 m)、日本最東端の南鳥島沖(水深5,552 m)の全ての深海で、様々な生分解性プラスチック(ポリ乳酸を除く)が微生物により分解(生分解※)されることを世界で初めて明らかにしました。
深海底にはプラスチックごみが多く蓄積していることがJAMSTECの過去の研究(2021年3月30日付既報 及び2023年10月10日付既報)からも明らかになっています。このような問題の解決に向け、海洋の微生物によって分解が進む海洋生分解性プラスチックの研究開発が盛んです。しかし、プラスチックごみが蓄積する深海底は水温が低く微生物の量も少ないため、既存の生分解性プラスチックは深海において分解しないかもしれないという恐れがありました。生分解性プラスチックの深海における生分解性を正確に評価するためには、実際の深海に長期間暴露する必要があります。そこで、海洋研究開発機構が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「ハイパードルフィン」や「KM-ROV」、フリーフォール型ランダー「江戸っ子1号」といったさまざまなファシリティを駆使し、生分解性プラスチック試料の継続した設置・回収、精度の高い分析を実現しました。
深海から回収された生分解性プラスチック表面には無数の微生物がびっしりと付着し、時間と共にサンプル表面に粗い凸凹ができて、生分解が進行する様子が観察されました(図1)。深海における生分解速度は水深が深くなるにつれて遅くなるものの、今回試験を行った全ての深海底で試験片が生分解されました。水深約1,000 mの深海底では、本研究で用いた生分解性プラスチックで作製したレジ袋は、3週間から2ヶ月間で生分解される計算になります。
さらに、16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを用いた菌叢解析により、プラスチック上に固有の微生物群が集積することを明らかにしました。その後、この微生物群集のメタゲノム解析を行ったところ、深海から新たな生分解性プラスチック分解微生物を多数発見することにも成功しました。発見した分解微生物は、世界中のさまざまな海底堆積物にも生息していることが明らかになり、分解が実証された生分解性プラスチックは、世界中のさまざまな深海でも分解されると考えられます。
本研究成果により、将来の海洋プラスチック汚染の抑制に貢献する優れた素材として、生分解性プラスチックの研究開発の進展が期待されます。
本研究成果は、国際科学専門誌「Nature Communications」オンライン版(日本時間2024年01月25日)に掲載されました。
生分解
自然環境中に存在する微生物が分泌する分解酵素により、水に可溶な低分子化合物にまで分解されたのち微生物体内に取り込まれ、最終的に二酸化炭素と水にまで完全に分解されること。
詳細は 東京大学のサイトをご覧ください。