GHQの検閲・諜報・宣伝工作
占領下,日本人の言論活動はどんな制限を受けていたのか.隠されてきたGHQによる検閲の実態がいま明らかに.
戦後の日本ではそれまでの内務省による検閲に代わり,GHQによる検閲と宣伝工作が展開された.アメリカで完全な形で保存されてきた検閲資料を丹念に調査し,検閲組織とシステムを明らかにしたうえで,朝日新聞とNHKといった組織や,緒方竹虎や永井荷風らが,占領下の検閲・諜報・宣伝活動に関わった実態を描き出す.
■編集部からのメッセージ
2013年6月,元CIA職員がネット上のメールを収集する極秘プログラムがあることや1日数百万件の通話記録を傍受していた事実を告発した.NSA(米国家安全保障局)による通信傍受の対象には,日本の政府機関も含まれている.そのニュースは,以前から,エシュロンなど巨大な軍事傍受システムの存在は知られていたのでさもありなんと受けとめた.だが,じつはアメリカはすでにGHQとして日本を占領していたときから,その精緻にして巨大な傍受システムを日本列島の津々浦々に張りめぐらしていたのである.そのことを山本武利先生の研究で知って,度肝をぬかした.
出版物の検閲をしていたことは,江藤淳の『閉ざされた言語空間』がすでに明らかにしている.でも,本や雑誌だけでなく,業界紙やPTAの会報や紙芝居に至るまで検閲をし,電話を傍受し,郵便検閲までしていたというのだ.それら検閲を掌るCCD(民間検閲局)で働く日本人は8000人余りもいたというのである.ならば検閲をしたことの事実は,その詳細に至るまで国民の常識となっていてもおかしくないのに,今日に至るまで,当時検閲に関わった日本人の証言はごくわずかしか得られていないのである.ましてや出版物が検閲されることは織り込まれていたとしても,郵便検閲や通信傍受までされていたこと,そこでの情報が盗聴され利用されていたことを知っていた日本人は極めて少なかっただろう.しかも,CCDの検閲は実に巧妙で,検閲をした痕跡を残すことや,検閲官の指示により手を入れたことが分かるような修正を決して許さなかった.その意味では,戦時中の伏字だらけの日本の出版物の方が,検閲をしていたことが分かるだけでも,書き手や出版社からすれば,まだ手の打ちようがあるということなのかもしれない.
そういえば黒澤明の戦後間もなく撮られた映画『素晴らしき日曜日』や『酔いどれ天使』には東京の雑踏が舞台だったにもかかわらず,MPが全く出ていなかった.これも占領しても軍事的占領の実態を可視化させないという検閲コードに依るものだったのかもしれない…….
馬場公彦
■ 関連書
● 『延安リポート――アメリカ戦時情報局の対日軍事工作』 山本武利 編訳,高杉忠明 訳
● 『占領期雑誌資料大系 大衆文化編(全5巻)』 山本武利,石井仁志,谷川建司,原田健一 編
● 『領期雑誌資料大系 文学編(全5巻)』 山本武利,川崎賢子,十重田裕一,宗像和重 編
● 『増補版 敗北を抱きしめて(全2冊)』 ジョン・ダワー/三浦陽一,高杉忠明,田代泰子 訳
● 『評伝 緒方竹虎――激動の昭和を生きた保守政治家』【岩波現代文庫】 三好 徹
■編集部からのメッセージ
2013年6月,元CIA職員がネット上のメールを収集する極秘プログラムがあることや1日数百万件の通話記録を傍受していた事実を告発した.NSA(米国家安全保障局)による通信傍受の対象には,日本の政府機関も含まれている.そのニュースは,以前から,エシュロンなど巨大な軍事傍受システムの存在は知られていたのでさもありなんと受けとめた.だが,じつはアメリカはすでにGHQとして日本を占領していたときから,その精緻にして巨大な傍受システムを日本列島の津々浦々に張りめぐらしていたのである.そのことを山本武利先生の研究で知って,度肝をぬかした.
出版物の検閲をしていたことは,江藤淳の『閉ざされた言語空間』がすでに明らかにしている.でも,本や雑誌だけでなく,業界紙やPTAの会報や紙芝居に至るまで検閲をし,電話を傍受し,郵便検閲までしていたというのだ.それら検閲を掌るCCD(民間検閲局)で働く日本人は8000人余りもいたというのである.ならば検閲をしたことの事実は,その詳細に至るまで国民の常識となっていてもおかしくないのに,今日に至るまで,当時検閲に関わった日本人の証言はごくわずかしか得られていないのである.ましてや出版物が検閲されることは織り込まれていたとしても,郵便検閲や通信傍受までされていたこと,そこでの情報が盗聴され利用されていたことを知っていた日本人は極めて少なかっただろう.しかも,CCDの検閲は実に巧妙で,検閲をした痕跡を残すことや,検閲官の指示により手を入れたことが分かるような修正を決して許さなかった.その意味では,戦時中の伏字だらけの日本の出版物の方が,検閲をしていたことが分かるだけでも,書き手や出版社からすれば,まだ手の打ちようがあるということなのかもしれない.
そういえば黒澤明の戦後間もなく撮られた映画『素晴らしき日曜日』や『酔いどれ天使』には東京の雑踏が舞台だったにもかかわらず,MPが全く出ていなかった.これも占領しても軍事的占領の実態を可視化させないという検閲コードに依るものだったのかもしれない…….
馬場公彦
■ 関連書
● 『延安リポート――アメリカ戦時情報局の対日軍事工作』 山本武利 編訳,高杉忠明 訳
● 『占領期雑誌資料大系 大衆文化編(全5巻)』 山本武利,石井仁志,谷川建司,原田健一 編
● 『領期雑誌資料大系 文学編(全5巻)』 山本武利,川崎賢子,十重田裕一,宗像和重 編
● 『増補版 敗北を抱きしめて(全2冊)』 ジョン・ダワー/三浦陽一,高杉忠明,田代泰子 訳
● 『評伝 緒方竹虎――激動の昭和を生きた保守政治家』【岩波現代文庫】 三好 徹
山本武利(やまもと たけとし)
1940年愛媛県生まれ.一橋大学商学部を卒業後,同大学大学院社会学研究科に進学.歴史学,社会心理学を学ぶ.早稲田大学名誉教授.一橋大学名誉教授.現在,「20世紀メディア情報データベース」を運営するNPO法人インテリジェンス研究所理事長.
著者に『近代日本の新聞読者層』(法政大学出版局,1981年),『広告の社会史』(法政大学出版局,1984年),『占領期メディア分析』(法政大学出版局,1996年),『紙芝居――街角のメディア』(吉川弘文館,2000年),『日本兵捕虜は何をしゃべったか』(文春新書,2001年),『ブラック・プロパガンダ――謀略のラジオ』(岩波書店,2002年),『朝日新聞の中国侵略』(文藝春秋,2011年),『占領期雑誌資料大系』(編者代表,大衆文化編Ⅰ―Ⅴ,文学編Ⅰ―Ⅴ,全10冊,岩波書店,2008年―2010年)など
1940年愛媛県生まれ.一橋大学商学部を卒業後,同大学大学院社会学研究科に進学.歴史学,社会心理学を学ぶ.早稲田大学名誉教授.一橋大学名誉教授.現在,「20世紀メディア情報データベース」を運営するNPO法人インテリジェンス研究所理事長.
著者に『近代日本の新聞読者層』(法政大学出版局,1981年),『広告の社会史』(法政大学出版局,1984年),『占領期メディア分析』(法政大学出版局,1996年),『紙芝居――街角のメディア』(吉川弘文館,2000年),『日本兵捕虜は何をしゃべったか』(文春新書,2001年),『ブラック・プロパガンダ――謀略のラジオ』(岩波書店,2002年),『朝日新聞の中国侵略』(文藝春秋,2011年),『占領期雑誌資料大系』(編者代表,大衆文化編Ⅰ―Ⅴ,文学編Ⅰ―Ⅴ,全10冊,岩波書店,2008年―2010年)など
書評情報
朝日新聞(朝刊) 2019年10月26日(評者:志田陽子さん)
産経新聞 2013年11月16日
ミステリマガジン 2013年11月号
朝日新聞(朝刊) 2013年9月15日
毎日新聞(夕刊) 2013年7月30日
産経新聞 2013年11月16日
ミステリマガジン 2013年11月号
朝日新聞(朝刊) 2013年9月15日
毎日新聞(夕刊) 2013年7月30日