なぜ人は“録音”よりも“ライブ演奏”で感動するのか スイスの研究者が解明 MRI内で音楽鑑賞して実験:Innovative Tech
スイスのチューリッヒ大学に所属する研究者らは、ライブで聞く音楽は録音された音楽よりも強く感情を動かすことを示した研究報告を発表した。
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このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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スイスのチューリッヒ大学に所属する研究者らが発表した論文「Live music stimulates the affective brain and emotionally entrains listeners in real time」は、ライブで聞く音楽は録音された音楽よりも強く感情を動かすことを示した研究報告である。
研究チームは、楽しい感情と不快な感情を引き起こすことを目的とした、30秒間のピアノ音楽12曲(否定的な6曲と肯定的な6曲)を作成した。音楽訓練を受けていない27人の参加者が、これらの音楽を「ライブで演奏するバージョン」と「録音音源のバージョン」の両方を聴取した。参加者は磁気共鳴機能画像法(fMRI)内で音楽を聴きながら、脳活動がモニタリングされた。
実験の結果、否定的でも肯定的でも、ライブ演奏の音楽は一貫して脳の左側の扁桃体の活動を増加させた。左側の扁桃体は、音やその他の感覚刺激を特定の感情に関連付ける役割がある。対照的に、録音した音楽は左側の扁桃体での活動がはるかに少なく、不規則であった。これは参加者が実験後に各音楽をどれだけ感動的だと評価したかと一致している。
ライブ演奏は、参加者には伝えられていない状態で、演奏者がリアルタイムで参加者の脳活動に基づいて演奏を調整するという特殊な設定で行われた。このため、ライブ演奏は音楽とリスナーの脳の間のダイナミックな結び付きを生み出し、音楽の感情的な影響を強化することを示唆した。
Source and Image Credits: Wiebke Trost, Caitlyn Trevor, Natalia Fernandez, Florence Steiner, Sascha Fruhholz. Live music stimulates the affective brain and emotionally entrains listeners in real time.
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