消化器外科のリハビリテーション医学・医療テキスト
安全に、確実に、患者の予後を改善するリハビリテーションの導入をめざして
もっと見る
消化器外科手術における積極的なリハビリテーション導入が、治療成績を大きく左右する。本書ではリハビリテーション医と消化器外科医がタッグを組み、消化器外科手術を受ける患者へのリハビリテーション医療・医学の実際を1冊にまとめた。消化器外科手術による患者の変化に細やかに対応し、安全に確実に患者の予後を改善する戦略を解説する。消化器外科患者に携わる医療者必携のテキスト。
シリーズ | リハビリテーション医学・医療 |
---|---|
監修 | 日本リハビリテーション医学教育推進機構 (一般社団法人) / 日本リハビリテーション医学会 (公益社団法人) |
総編集 | 久保 俊一 / 山上 裕機 |
編集 | 安保 雅博 / 城戸 顕 / 酒井 良忠 / 篠田 裕介 / 田島 文博 / 西田 佳弘 / 三上 幸夫 / 美津島 隆 |
発行 | 2024年10月判型:B5頁:308 |
ISBN | 978-4-260-05345-7 |
定価 | 4,950円 (本体4,500円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
はじめに
近年の消化器外科の進歩には目を見張るものがある.内視鏡下手術,ロボット支援下手術などの新しい技術の開発とともに消化器がんに対する化学療法も進化している.
一方,対象となるがんを中心とする消化器疾患の重症度は高まり,高齢での手術も稀ではなくなっている.病巣部を取り除くだけではなく,身体の活動性の維持を図ることも消化器外科で重要な課題となっている.このような状況のもと,消化器外科領域におけるリハビリテーション医学・医療の活用が注目されている.
リハビリテーション医学・医療は「活動を育む医学・医療」と定義される.すなわち,疾病・外傷で低下した身体的・精神的機能を回復させ,障害を克服するという従来の解釈の上に立って,ヒトの営みの基本である「活動」に着目し,その賦活化を図り,よりよいADL(activities of daily living)・QOL(quality of life)を目指す過程がリハビリテーション医学・医療の中心であるとする考え方を示している.「日常での活動」としてあげられる,起き上がる,座る,立つ,歩く,手を使う,見る,聞く,話す,考える,衣服を着る,食事をする,排泄する,寝る,などが組み合わさり,掃除・洗濯・料理・買い物などの「家庭での活動」,就学・就労・スポーツ活動・地域活動などの「社会での活動」につながっていく.国際生活機能分類(ICF)における参加は「社会での活動」に相当する.
リハビリテーション医学という学術的な裏づけのもとにエビデンスが蓄えられ根拠のある質の高いリハビリテーション医療が実践される.リハビリテーション医療の中核がリハビリテーション診療であり,診断・治療・支援の3つのポイントがある.急性期・回復期・生活期(維持期)を通して,ヒトの活動に着目し,病歴,診察,評価,検査などから活動の現状を把握し,問題点を明らかにして,活動の予後を予測する.これがリハビリテーション診断である.そして,理学療法,作業療法,言語聴覚療法,義肢装具療法など各種治療法を組み合わせて活動を最良にするのがリハビリテーション治療である.さらに,リハビリテーション治療と並行して,環境調整や社会資源の有効利用などにより活動を社会的に支援していくのがリハビリテーション支援である.
リハビリテーション診療を担うリハビリテーション科は2002年,日本専門医機構において18基本領域(現在19基本領域)の1つに認定され,臨床における重要な診療科として位置づけられた.リハビリテーション医学・医療をしっかりとバランスよく学ぶことはきわめて重要な課題になっており,そのためには体系立ったテキストが必要である.その嚆矢となったのが2018年に発刊された『リハビリテーション医学・医療コアテキスト』である.それ以来,日本リハビリテーション医学教育推進機構と日本リハビリテーション医学会が中心となって,リハビリテーション医学・医療テキストシリーズの作成が続けられている.
総合的なテキストとして『リハビリテーション医学・医療コアテキスト(第2版)』『総合力がつくリハビリテーション医学・医療テキスト』が,フェーズ別のテキストとして『急性期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『回復期のリハビリテーション医学・医療テキスト』『生活期のリハビリテーション医学・医療テキスト』が,疾患別のテキストとして『脳血管障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』『運動器疾患・外傷のリハビリテーション医学・医療テキスト』『内部障害のリハビリテーション医学・医療テキスト』『耳鼻咽喉科頭頸部外科領域のリハビリテーション医学・医療テキスト』が,テーマ別のテキストとして『リハビリテーション医学・医療における栄養管理テキスト』『社会活動支援のためのリハビリテーション医学・医療テキスト』『リハビリテーション医学・医療における処方作成テキスト』がすでに発刊されている.そのような状況の中で急性期のリハビリテーション医学・医療において重きをなす消化器外科をテーマに企画されたのが本テキストである.
本テキストは,消化器外科疾患のリハビリテーション診療を行っていくうえで,必要となる基礎的な事柄から術前術後の具体的内容までわかりやすく解説している.編集および執筆は,この分野に精通する先生方にお願いした.本書の作成にご尽力いただいた方々に深く感謝する.
医師や関連する専門の職種をはじめとした消化器外科のリハビリテーション医学・医療に関係する方々の日々の診療に役立つ実践書となっている.日常診療で是非活用していただきたいテキストである.
2024年10月
一般社団法人日本リハビリテーション医学教育推進機構 理事長
京都府立医科大学特任教授
久保 俊一
一般社団法人日本リハビリテーション医学教育推進機構 学術理事
昭和大学特任教授
山上 裕機
目次
開く
I.リハビリテーション医学・医療と消化器外科
1 リハビリテーション医学・医療総論
1 リハビリテーション医学・医療の意義──活動を育む医学──
2 「活動を育む」とは
3 消化器外科領域におけるリハビリテーション医学・医療の位置づけ
2 わが国の消化器外科の現況
1 食道がんの治療
2 胃がんの治療
3 大腸がんの治療
4 肝がんの治療
5 胆道がんの治療
6 膵がんの治療
3 消化器外科周術期におけるリハビリテーション医療
1 周術期のリハビリテーション診療
2 術前のリハビリテーション治療
3 術後のリハビリテーション治療
4 高齢者など特に配慮が必要な場合の注意点・工夫
II.周術期のリハビリテーション医学・医療
1 安静と臥床の病態生理
1 筋萎縮・サルコペニア
2 骨萎縮
3 関節拘縮
4 起立性低血圧
5 心肺機能(運動耐容能)低下
6 深部静脈血栓症・肺塞栓症
7 便秘症
8 せん妄
2 抗重力位(座位・立位)の生理学的意義
1 循環器に及ぼす影響
2 呼吸器に及ぼす影響
3 意識障害に及ぼす影響
3 周術期の循環・呼吸生理の基礎
1 周術期の循環生理の基礎
2 周術期の呼吸生理の基礎
3 全身麻酔下における循環・呼吸の変化
4 免疫──病原体センサーによる認識
1 病原体を認識する病原体センサーの発見
2 病原体センサーによる内因性物質の認識
3 内因性物質による病原体センサー活性化の病理的意義
5 サイトカイン
1 炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカイン
2 サイトカインの役割
3 サイトカインの治療への応用
4 サイトカインとがん
5 サイトカインと手術
6 運動と免疫・サイトカイン
1 運動負荷による免疫系への影響
2 運動によるサイトカイン変動
3 マイオカインの種類と作用
7 運動療法の意義
1 骨格筋に対する効果
2 心肺機能(運動耐容能)に対する効果
3 脳血管障害に対する効果
4 内部障害(循環器疾患・呼吸器疾患・腎疾患)に対する効果
5 生活習慣病に対する効果
6 がんの周術期に対する効果
8 栄養の基本
1 栄養素の分類
2 糖質の消化・吸収と代謝
3 脂質の消化・吸収と代謝
4 タンパク質の消化・吸収と代謝
5 エネルギー必要量
6 ビタミンとミネラル
7 生体内の水分平衡
9 周術期の栄養管理
1 術前の栄養管理
2 術後の栄養管理
III.周術期のリハビリテーション診療の実際
1 受診時からのリハビリテーション診療(診断・治療・支援)の流れ
1 術前の診断(診察・評価・検査)
2 術前の化学療法中のリハビリテーション治療
3 術後のリハビリテーション治療
4 リハビリテーション支援
2 インフォームド・コンセント
1 リハビリテーション実施計画書・総合実施計画書の作成
2 術前の化学療法入院時のインフォームド・コンセント
3 術前の外来通院時のインフォームド・コンセント
4 入院時のインフォームド・コンセント
3 術前のリハビリテーション診断(評価・検査)
1 消化器がん(食道がん)の状況・既往歴
2 心身機能の評価
3 リスク評価
4 術前のリハビリテーション治療
1 外来でのリハビリテーション治療
2 手術前入院中のリハビリテーション治療
5 注意すべき術後の合併症
A 呼吸器
1 術後呼吸不全
2 ARDS
3 人工呼吸器関連肺炎
4 血気胸,膿胸,乳び胸
5 気管支喘息の急性増悪,気管支攣縮
6 COPDの増悪
7 危険因子(個人因子)
8 危険因子(手術関連)
9 術後肺合併症リスク評価ツール
10 術前からの対策
11 術中・術後の対策
B 血栓症
1 DVT
2 肺血栓塞栓症
C 低栄養
1 手術侵襲による代謝の変化
2 栄養管理(栄養評価と栄養療法)
3 各消化器がんにおける留意点
4 低栄養と運動療法
6 術直後のリハビリテーション診療
A 人工呼吸器の管理
1 呼吸器の解剖と生理
2 呼吸の臨床生理
3 人工呼吸の概要
4 人工呼吸器の設定
5 人工呼吸器管理における合併症
6 人工呼吸器管理下でのリハビリテーション治療の意義
7 人工呼吸器管理下でのリハビリテーション治療の実際
8 再挿管を回避するためのリハビリテーション治療の実際
B ドレーンの管理
1 留置ドレーンの種類
2 ドレーン留置下でのリハビリテーション治療
3 留置ドレーンの管理
C 中心静脈・末梢静脈カテーテルの管理
1 中心静脈栄養と末梢静脈栄養の特徴
2 カテーテルの挿入部位とリスク
3 輸液・栄養への活用
4 留置カテーテルのトラブル時の対応
5 中心静脈カテーテル留置下における訓練の実際
6 末梢静脈カテーテル留置下における訓練の実際
D 疼痛の管理
1 疼痛の評価
2 術後の疼痛管理
3 術後の疼痛管理に用いる鎮痛薬
4 術後疼痛管理とリハビリテーション治療
E イレウス・排泄の管理
1 術後イレウス
2 排泄管理
F 術後せん妄・認知症の管理
1 術後せん妄
2 せん妄の概要
3 認知症の概要
4 術後せん妄・認知症に対するリハビリテーション治療
7 感染予防
1 SSIの症状と治療
2 RIの症状と治療
3 術後感染症の予防とリハビリテーション治療
8 術後の活動促進
1 術後の活動を阻害する因子
2 疼痛への対応
3 医療デバイスの対応
4 自主訓練
9 化学療法時のリハビリテーション診療
1 化学療法中のリハビリテーション診断
2 PSと化学療法
3 化学療法中の不動による合併症
4 化学療法中の持久力訓練(有酸素運動)
5 化学療法中の筋力増強訓練
6 化学療法時のリハビリテーション治療の注意点
IV.周術期以降のリハビリテーション治療
1 周術期から回復期へのリハビリテーション治療
2 生活期(在宅)に向けたリハビリテーション診療
1 在宅に向けたリハビリテーションチーム診療
2 退院前カンファレンス
3 消化管ストーマ
V.代表的な消化器外科の概要と治療法
1 食道がん
2 胃がん
3 結腸がん
4 直腸がん
5 肝がん
6 胆道がん
7 膵がん
8 肝移植
9 がん薬物療法
1 がんに対する4大治療法
2 化学療法の歴史と現状
3 がん免疫療法の歴史と現状
4 がん薬物療法におけるリハビリテーション治療の重要性
10 漢方薬治療
1 消化器外科と漢方薬治療
2 食道がん
3 胃がん
4 肝切除
5 肝移植
6 化学療法
7 その他
VI.代表的な消化器がんリハビリテーション診療の実際
1 食道がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 食道がんのリハビリテーション診療(周術期早期離床プログラム)
2 胃がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 胃がん治療の現状
2 高齢者の胃がんにおけるリハビリテーション診療のポイント
3 肥満患者におけるリハビリテーション診療のポイント
4 ERAS概念に沿ったクリニカルパス
3 結腸がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 リハビリテーション治療は合併症を減少させるだけでなく,予後も改善する
2 結腸がんのリハビリテーション診療のポイント
4 直腸がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 直腸がんのリハビリテーション診療(周術期早期離床プログラム)
2 直腸がん手術の合併症
3 低位前方切除後症候群(LARS)
4 バイオフィードバック療法
5 骨盤底筋訓練
6 排便機能低下に対するリハビリテーション治療の効果
5 肝がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 肝細胞がんの特徴
2 高齢肝細胞がんの術前診断(評価)
3 肝細胞がんの周術期のリハビリテーション治療
6 膵がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 膵がんにおけるリハビリテーション診療の意義
2 膵がん手術におけるリハビリテーション治療の実際
7 肝胆膵がんにおけるリハビリテーション診療のポイントと取り組み
1 肝胆膵がんにおけるリハビリテーション診療
2 術前筋量が術後経過に及ぼす影響
3 術前運動能力が術後経過に及ぼす影響
4 術前のリハビリテーション治療への取り組み(名古屋大学プレハビリテーション)
5 術前の運動量が術後合併症発生に及ぼす影響
6 これからの展開
8 術後補助化学療法と運動療法
1 日常身体的活動量とがん死亡率
2 運動療法を併用した膵がん術後補助治療の有用性に関する第II相試験(UMIN000030124)
3 術後補助化学療法前後の患者評価と運動療法の有用性
リハビリテーション医学・医療便覧(用語解説)
索引
書評
開く
知識を整理し,治療の現場に生かす
書評者:水間 正澄(医療法人社団輝生会理事長)
書評を見る閉じる
リハビリテーション医療は,回復期リハビリテーション病棟の制度化を機に急速に広がりを見せてきた。しかし,急性期病院でのリハビリテーション医療提供体制は十分とはいえず課題とされてきた。診療報酬においても急性期での早期リハビリテーション治療を促す改定がなされ,がん医療では「がん患者リハビリテーション料」が認められ,その要件としての研修事業によって全国の急性期病院におけるがん患者の外科手術後のリハビリテーション医療の普及が図られてきた。近年は急性期治療後の速やかな在宅復帰が一層重視され,入院における早期かつ集中的なリハビリテーション医療提供体制の充実に期待が寄せられている。
このような現状において,本書の刊行は消化器外科領域における術後の速やかな在宅復帰をめざした早期からのリハビリテーション医療の充実という課題解決に向けて時宜を得たものであるといえる。
本書では,リハビリテーション医学・医療の最新の知見から始まり,外科手術の術前術後にリハビリテーション医学・医療がかかわるべき内容をさまざまな側面からわかりやすく解説されている。消化器外科の先生方には術前および術後早期からのリハビリテーション医療がなぜ必要で,どのような効果をもたらすのかが理解いただけるであろう。さらには,周術期以降の回復期そして在宅生活に向けたリハビリテーション医療の取り組みも取り上げられており,回復期のリハビリテーション医療機関との連携や退院後の診療などにも役に立つ内容も含まれている。
本書は,消化器外科患者のリハビリテーション治療に携わるリハビリテーション科医をはじめチームスタッフにとっては,消化器外科の概要と治療法の現状を知り,知識を整理し,治療の現場に生かすことができるであろう。代表的な消化器がん患者の術後リハビリテーションにおける重要なポイントが簡潔にまとめられており,消化器外科治療チームとリハビリテーション治療チームとが共有することにより,よりよいチーム医療の実践にもつながる。
本書を通して,消化器外科チームの医師やスタッフには,活動を育む医療であるリハビリテーション医療の幅広い役割とその効果について認識を深めていただきたい。リハビリテーション医療チームの医師やスタッフには,日々進歩する消化器外科の最新情報をもとに,術前および術後早期からのリハビリテーション医療がより安全かつ効果的に実践されることを願っている。
消化器外科とリハビリテーション科が一体となって取り組むために
書評者:島田 洋一(日本リハビリテーション医学会前副理事長/医療法人久幸会常務理事)
書評を見る閉じる
消化器外科領域では,腹腔鏡手術やロボット支援手術の導入による低侵襲化と,化学療法や放射線療法の進歩に伴い,患者が得られる医療レベルと生命予後が向上しています。さらに,高齢患者の増加により手術の適応年齢が高くなり,超高齢者に対する手術も増えています。そのため,さまざまな併存症やサルコペニア,フレイルによる身体・認知機能の低下などがあり,治療に難渋することもあります。
消化器外科では,周術期,いわゆる術前・術中・術後から急性期病院を退院するまでの期間が主な対象となります。しかし,周術期後の期間が,患者の身体的・精神的機能,日常,家庭,社会での活動に最も大きな比重を占めます。そのため,予後把握とゴール設定が重要となります。急性期病院を退院後,回復期病棟で集中的に行われるリハビリテーション医療は,患者の身体的・精神的機能を最大限に向上させるために行われます。リハビリテーション科医師を中心に,多くの専門職があらゆる面から患者の障害をとらえ,総合的にプログラムを施行し,最善の医療を提供します。リハビリテーション医療と並行して行われる環境調整や社会資源の活用により『活動』を社会的に支援するリハビリテーション支援は,生活期において極めて有用です。各フェーズに合わせた医療機関・施設の紹介,介護保険によるリハビリテーションマネージメントの導入など,患者が生活を送る上で大きな支えとなります。
Cancer Rehabilitationの概念は約60年前に提唱されていますが,がんのリハビリテーションが本邦で本格的に導入され,専門職種の教育と実臨床が始まったのは最近のことです。『がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版』では,消化器がんに対する術前・術後の運動療法が推奨されています。さらには,疲労の改善,幸福感の向上,QOLの向上に効果があります。運動療法は,マイオカインの作用による腫瘍抑制効果,運動継続による生存率の向上も報告されています。
このように消化器外科とリハビリテーション科が一体となって患者の医療に取り組むことの意義は大きく,久保俊一先生と山上裕機先生が総編集した本書は,それぞれの分野における第一人者によって構成されています。消化器外科患者にかかわるあらゆる医療者にとって両分野の嚆矢となる本書は必携と考えます。一人でも多くの患者に本書の内容が実践され,新たな高みに至ることを祈念いたします。
消化器外科手術にかかわる全ての医療者,必携の書
書評者:調 憲(群馬大教授・肝胆膵外科/群馬大医学部長/日本消化器外科学会理事長)
書評を見る閉じる
日本リハビリテーション医学教育推進機構・日本リハビリテーション医学会の久保俊一先生と卓越した外科医である山上裕機先生,リハビリテーションと外科手術のトップランナーが総編集した本書は,消化器手術の周術期のリハビリテーションに必要な知識を遍く網羅し,一流の執筆者によって構成されています。
山上先生は,現代においても難治がんの代表である膵がんとの闘いに生涯を捧げてこられた先生です。山上先生はレベルの高い基礎研究の成果から,その知見を基にトランスレーショナルリサーチを行い,さらには外科医としてメスで膵がんと戦ってこられたわけですが,基礎から臨床まで山上先生は格別な業績を上げてこられました。先生の外科医として難治がんへの戦略は理にかなっており,私ども,後へ続く者たちへのメッセージはいつも説得力のあるものと思います。今回はリハビリテーションと本当に八面六臂のご活躍です。
超高齢社会の到来によって本邦における消化器がんの罹患数は毎年40万人を超え,手術を受ける患者さんの高齢化も著しいことは皆さん感じておられることと思います。10年前には考えられなかった80歳を超える患者さんに対する高難度手術も日常的に行われるようになっています。ただ,膵がんやその他の消化器がんの手術はいまだ高侵襲の手術であり,術後の合併症は高頻度にみられ,患者さんの生命を脅かすこともあります。
加齢に伴うサルコペニアやフレイルといった病態は最近特に注目を集めるようになりました。こうした病態を持つ高齢の患者さんは栄養や身体活動性の低下などを有しており,それらに対する対策の要点は周術期のリハビリテーションと栄養療法であることは衆目の一致するところでしょう。高齢の患者さんに術後合併症が起これば,重篤化による術後死亡はもちろんのこと,たとえ救命し得たとしても長期的なQOLの低下が憂慮されます。高齢者の常として,いったん低下したQOLを持ち上げるのは容易ではなく,術前や術直後からのリハビリテーションによる予防やその回復は極めて重要です。しかしながら,消化器外科におけるリハビリテーションに主眼を置いた体系的なテキストは今日まで十分ではなく,本書はその嚆矢といえるでしょう。
本書はリハビリテーション医や消化器外科医はもちろん,消化器外科手術にかかわる全ての医療者の必携の書と考えられます。一人でも多くの医療者が手に取り,学ぶことで多くの消化器外科の手術を受ける患者さんの福音となることを願ってやみません。
手に取ったその日から臨床に役立つ
書評者:武冨 紹信(日本外科学会理事長/北大大学院教授・消化器外科学)
書評を見る閉じる
本書は,消化器外科周術期患者に対するリハビリテーションを総論および各論にまとめたものです。リハビリテーションの基礎知識と具体的な評価法・訓練法を経験豊富なエキスパートが代表的な消化器外科疾患別に解説しており,本書を手に取ったその日から臨床に役立つ内容に整理されています。
消化器外科においては,開腹手術から,腹腔鏡下手術やロボット支援手術へと,手術方法が様変わりしています。また,対象患者が高齢化し,それに伴い糖尿病や高血圧,呼吸器疾患や心血管疾患などのあらゆる併存症を抱える患者が多くなってきました。薬物療法や放射線治療の進歩に伴い,術前治療後の消化器外科手術も多くなり,その侵襲は大きくなるばかりです。手術はうまくいったけれど術後回復がなかなか進まない症例を経験することも多く,周術期リハビリテーションの重要性がますます増加しています。
本書の前半部分では,周術期の呼吸・循環・栄養などの生理学について概説され,その病態を基礎から復習することができるように工夫されています。中盤部分では周術期リハビリテーションとして,術前評価から術後のリハビリテーションの実際(人工呼吸管理,ドレーン管理,疼痛管理,せん妄・認知症管理,感染予防など)について詳述されています。また,後半部分では食道がん,胃がん,結腸がん,直腸がん,肝がん,膵がん,肝移植などの代表的な消化器外科手術ごとに,手術や周術期管理,術後管理について記載されており,さらに,各疾患別のリハビリテーション診療のポイントと取り組み事例が紹介されています。本書は,消化器外科医師を含めた患者周術期管理に携わる多職種の医療者にとって,とても読みやすく,日常診療に直結した構成となっているのが特徴です。
できるだけ早く術前と同様の生活に戻っていただくことが,消化器外科周術期管理の第一の目的です。そのためにも,科学的考察に基づく周術期リハビリテーションの実施は,手術にもまして重要です。本書の発刊がきっかけとなり,消化器外科周術期リハビリテーションの概念が広く行きわたり,実践されることを願っています。