生殖医療ポケットマニュアル 第2版
少子化の現況下、激動の真っ只中にある生殖医療の定本、待望の第2版
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近年、妊孕性温存や妊娠帰結に寄与する可能性を持つ新知見や新技術が陸続と開発されている。生殖医療に携わる専攻医、さらには生殖医療専門医を目指す医師、そして看護師、胚培養士などの方々にも、臨床の現場で携えて頂くための実践マニュアル、7年ぶりの改訂第2版である。日進月歩する昨今の生殖医療を鑑み、日常臨床での実践を通して得た知識を整斉するために、ぜひポケットに入れてご活用頂きたい。
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序文
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第2版の序
わが国の少子化は世界に類をみないスピードで進行している。高学歴化とともに社会で活躍する女性が増え,晩婚化から出産開始年齢が遅くなっており,少産化や未婚化も相まって少子化に拍車がかかっている。少子高齢化による人口構成の変化は,社会に大きな歪みをもたらすことになる。国は様々な子育て支援策を打ち出し,待機児童の解消や子育てと仕事の両立のための働き方改革を積極的に進めようとしている。しかしながら,社会が,そして国が子どもを育ててゆくという考え方に転換していかなければ,現在の出生率の改善を望むことは到底できない。
少子化の状況下で,生殖医療も激動の真っ只中にある。これまで上昇基調にあったわが国の生殖補助医療の治療周期数や出生児数も,生殖年齢にある女性の減少によりここ数年高止まりの状況にある。今来の生殖医療は,クライエントの年齢や病態を考慮し,医療技術には様々な改良が加えられ,個別化医療として発展してきたが,2022年4月より公的医療保険の適用となる。しかし,治療技術や科学的手法の開発には,安全性や経済性のみならず,倫理的妥当性も評価されなければならない。生殖医療は形而上学ではなく,実践を通して学んでいく学問ではあるが,ヒトを利用した実験的医療の側面も有しており,可能なかぎりエビデンスに基づく医療が提供できるような慎重な対応が望まれる。
第三者の精子や卵子を利用した生殖補助医療で生まれた子について,20年もの歳月を経て親子法を定める民法特例法が成立し,第三者からの精子提供による治療に同意した夫が父であり,卵子提供で出産した女性が母であることが明記された。明治時代にできた民法は,第三者が関わる生殖医療を想定しておらず,親子関係を巡る訴訟の回避には法制化の必要性が指摘されていたことから,生まれてくる子の福祉を考える上で極めて意義深い。さらに国は,第三期がん対策推進基本計画において,がん治療に伴う生殖機能への影響など,世代に応じた問題について,医療従事者が患者に対して治療前に正確な情報提供を行い,必要に応じて適切な生殖医療を専門とする施設に紹介できるための体制を構築するとし,小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業を開始した。このようながん・生殖医療に対する経済的支援は,がん治療のみならず,生殖医療の発展に負うところ至大である。
生殖医療は次世代に向けた未来志向型の医療であることから,国の全世代型社会保障会議も少子化対策の一環として生殖医療に注目している。今後は,医療技術の進歩のみならず治療と仕事の両立ができる職場環境の整備や支援など,社会的機運の醸成を図ることも大切となる。少子高齢化社会にあって,生殖医療も変革を迫られている。近年の生殖医療においても,妊孕性温存や妊娠帰結に寄与する可能性を持つ新知見や新技術が陸続と開発されている。
7年以上も前に,生殖医療に携わる専攻医,さらには生殖医療専門医を目指す医師や看護師,胚培養士などの方々に,臨床の現場で携えていただくための実践マニュアルともいうべき本書を刊行した。令和になり,わが国の生殖医療制度はこれまでにない動きをみせている。日進月歩する近年の生殖医療をも鑑み,日常臨床での実践を通して得た知識を整斉するためにも,本ポケットマニュアルを改訂することとした。
終わりに臨み,本書の改訂作業に献身的に御尽力いただいた大須賀穣先生,京野廣一先生,久慈直昭先生,辰巳賢一先生,市川智彦先生,御執筆いただいた諸先生ならびに医学書院書籍編集部の安藤恵氏に,深甚なる謝意を申し上げる。
2022年4月
慶應義塾大学名誉教授/福島県立医科大学副学長
吉村泰典
目次
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A 妊娠と不妊
I 不妊症の定義
II 妊娠のメカニズム
III 不妊症の原因
A 女性不妊症の原因
B 男性不妊症の原因
IV 年齢と妊孕力
V 不妊症,近年の傾向とその臨床的意義
B 不妊診断・治療の実際
I 診断の進め方
[1] 不妊症検査の流れ
[2] 不妊患者の初診時の取り扱い
[3] スクリーニング検査
A 基礎体温
B 超音波検査
C 子宮卵管造影検査・ソノヒステログラフィー
D クラミジア感染の診断法
E 精液検査
F Huhner テスト
[4] 女性患者の特殊検査
A 卵巣予備能の検査(FSH,AFC,AMH)
B 各種ホルモン測定・負荷テスト
C 腹腔鏡検査
D 子宮鏡検査
E 子宮内膜症の検査・診断
[5] 男性患者の特殊検査
A 高度乏精子症・無精子症に行う検査
II 治療の進め方
[1] 治療の流れ
① 不妊治療における注意すべきポイント
② 最適な治療計画とART 治療選択に際して考慮する点
[2] 不妊原因別の治療方針とART へのstep up
① 内分泌治療
② 卵管性不妊症
③ 男性不妊症
④ 免疫性不妊症
⑤ 原因不明不妊症
⑥ 人工授精(AIH)
[3] 不妊治療の実際
A 排卵障害(卵巣因子)
① 排卵障害(卵巣因子)
② 中枢性障害(視床下部・下垂体機能障害)
③ 多囊胞性卵巣症候群(PCOS)
④ 卵巣予備能低下
⑤ 高プロラクチン血症
B 卵管因子
① 選択的卵管通水検査/卵管鏡下卵管形成術(FT)
② 手術療法:卵管開口術・吻合術
③ 体外受精
C 男性因子
① 薬物療法
② 手術療法
③ 人工授精
④ 体外受精・顕微授精
⑤ 顕微鏡下精巣内精子採取術
⑥ 勃起障害・射精障害に対する治療
D 免疫因子(抗精子抗体検査を含む)
E 原因不明不妊
① 原因不明不妊症とは
② タイミング療法
③ 人工授精
④ プレコンセプションケア(女性)
⑤ プレコンセプションケア(男性)
F 子宮内膜症・子宮筋腫
① 子宮内膜症
② 子宮筋腫
③ 子宮腺筋症
④ 子宮内膜ポリープ
⑤ 黄体機能不全
III 生殖補助医療
[1] 体外受精の適応
[2] 調節卵巣刺激法
[3] 採卵
[4] 体外受精の実際(精子調整と媒精,胚培養法)
[5] 顕微授精(ICSI)
A ICSI の方法
B 人工的卵子活性化法
[6] 生殖補助医療における精子選別・調整法
[7] 胚培養・胚発育の評価
A 胚培養
B 胚評価
[8] 胚移植
[9] ART における黄体補充
[10] 胚凍結保存と凍結融解胚移植
[11] 生殖補助医療の副作用・合併症
[12] 生殖補助医療を受ける患者へのインフォームド・コンセント
[13] 生殖補助医療を用いた新しい診断・治療法
A IVM
B PGT-A
C PGT-M
D 子宮内環境検査:内膜成熟度の判定(ERA 検査)
E 子宮内細菌叢と妊孕性
F 菲薄化内膜への多血小板血漿(PRP)注入
G 反復着床不全への免疫的治療
IV 終結を考慮するタイミング
V 患者サポートの実際
[1] 患者のストレスとうつ
[2] 治療終結時の精神的サポート
[3] 生殖医療における助成制度
C 不育症
I 不育症の定義・頻度・原因
II 不育症の検査・診断・治療
[1] 染色体異常とPGT-SR
[2] 抗リン脂質抗体症候群・凝固異常
[3] 先天性子宮形態異常
[4] 頸管無力症
[5] 内分泌・代謝因子
D 妊孕性保存法
[1] がん・生殖医療
[2] 妊孕性保存法の適応
[3] 精子・精巣凍結保存
[4] 卵子・受精卵凍結保存
[5] 卵巣凍結保存
E 配偶子提供・代理懐胎と社会・倫理およびその法的問題点
[1] 配偶子提供
[2] 代理懐胎
[3] 社会的適応による卵子凍結
[4] 生殖医療と法整備
F 生殖医療の基礎と最新知見
[1] 性分化疾患
[2] 女性内分泌
[3] 精子形成の新知見
G 生殖医療にかかわる資格制度
[1] 生殖医療専門医の今後の展望
[2] 生殖医療コーディネーター
[3] 胚培養士
[4] 日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医
[5] 日本産科婦人科内視鏡学会認定技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)
[6] 臨床遺伝専門医
付録I 生殖医療にかかわる主な法令・会告
付録II 生殖医療ガイドライン
索引
書評
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臨床に役立つ必携の一冊
書評者:藤澤 正人(神戸大学長)
生殖医療に携わる医師のみならず,看護師や胚培養士といったメディカルスタッフから臨床現場の身近な情報源として愛用されてきた『生殖医療ポケットマニュアル』がこのたび改訂され,第2版が出版された。初版から約8年を経ての改訂であるが,この間にも日本の少子高齢化はさらに進んでおり,出生率の低下はわが国の将来に対する大きな問題となり,生殖医療への社会的関心や期待はますます大きくなっている。
このような背景の中,国としても少子化問題への取り組みを加速させており,折しも2022年4月より体外受精や顕微授精といった生殖補助医療や精巣内精子採取術など,これまで助成金制度はあったが患者負担で行われてきた治療が公的医療保険の適応となった。個別化医療として発展してきた生殖医療の保険適応化にはさまざまな課題が残されているが,生殖医療への門戸がより広くなり,これまで以上に医療機関への患者受診が増えることが予測され,医療者側としてもこれまでにも増して最新の医療知識と医療における倫理観が求められるとともに,新しい生殖医療専門医の育成も重要である。
第2版となる本書は,国内の生殖医療の第一線で活躍されている先生方により,生殖医療の実臨床で必要とされる基本的項目から最新知見までを網羅した内容で構成されている。社会的に認識が広がりつつある男性不妊症についての項目も充実され,大幅にアップデートされた。また,治療の実際や治療手技のコツ,インフォームド・コンセントのポイントなどが適切な項目に配置されており,実臨床での理解を深める上において大いに役立つものとなっている。さらに,配偶子提供などに関する法的問題点や生殖医療にかかわる資格制度についてもわかりやすく解説されている。本書のタイトル通り,ポケットに収まるサイズで,生殖医療に携わる医療者に必要十分な内容が,コンパクトかつわかりやすくまとめられており,日常臨床に役立つことは間違いなく,必携の一冊である。また,制度変革に伴い生殖医療へのニーズがより大きくなる中で,多忙な診療業務の合間でも白衣のポケットから本書を手に取ることにより,情報の整理や患者への説明のために非常に役立つものである。
生殖医療に従事する医師のみならず,看護師,胚培養士などのメディカルスタッフにも非常に価値のあるマニュアルと考える。ぜひ手にしていただきたい。