専攻分野の意義を高めるためにこそ、専門以外の分野にもっと幅広い関心を持つように教育が行われなければならない。日本の学生は重要な問題を広範で複雑なコンテキストの中で考える必要がある。
注:「未来をきり拓く大学」(武田清子著)等、ICU創立当時に関わる各種史資料から博士の考えをまとめたものである。
名称の由来となった故モーリス・トロイヤー博士は、戦後まもなく著名な教育学者として来日し、ICUの大学構想に貢献しました。
トロイヤー記念アーツ・サイエンス館で“出会う”
3つのストーリー
トロイヤー記念アーツ・サイエンス館は、多様で異なる学問分野との出会いを生み出す、まさにリベラルアーツのための学び場です。
偶然の出会いと交流を通じて、深い知性と人間性を育みます。
5つの人文・社会科学系の研究所が移転するほか、大教室が設けられ、全てのメジャーの学生が訪れる場となります。
自然科学系の研究室や実験室が備えられます。実験室はガラス張りになっており、全学生がその様子を見ることができます。
くつろぎの場や学習スペース、セミナールームなどが設けられます。多様なメジャーの学生・教員をつなぐ、出会いの場となるでしょう。
リベラルアーツは、多様な知のネットワークを自分の中に作り、それを社会の中にも構築して、新しい価値やシステムや物を創造していく営みの基盤となる柔軟な教育システムです。T館の中を私たちが行き交うとき、そこに生成する回路の中に不規則に出現するシナプス的出会いの場。その非連続的な接触のうちに教職員と学生がつながりながら、思考や感覚を放出し受容するとても面白い場所。T館はそんな空間だと思います。自由な対話がICUの魅力。その魅力が四季折々の美しさに包まれながら深まっていけばと思います。
専攻分野の意義を高めるためにこそ、専門以外の分野にもっと幅広い関心を持つように教育が行われなければならない。日本の学生は重要な問題を広範で複雑なコンテキストの中で考える必要がある。
注:「未来をきり拓く大学」(武田清子著)等、ICU創立当時に関わる各種史資料から博士の考えをまとめたものである。
名称の由来となった故モーリス・トロイヤー博士は、戦後まもなく著名な教育学者として来日し、ICUの大学構想に貢献しました。
各階を巡る「Discovery Tour」と、1日を体感する「A Day at T-kan」。
トロイヤー記念アーツ・サイエンス館(通称T館)について、2つの視点からより深く知るコンテンツです。
アーツとサイエンスのさらなる融合を実現し、ICUのリベラルアーツに深化をもたらすT館の全貌に迫ります。
さまざまな工夫が詰め込まれたT館をツアー形式で巡ってみましょう。
本館西側と理学館をつなぐ位置に立地するT館。
本館と理学館の機能を兼ね備え、さらに強化された環境が、メジャーを超えて教員や学生の交流を促し、
「知の融合」を生み出します。10,027m2という延床面積は、本館を超えてICU最大となります。
建物の特徴の一つが、木材を利用した巨大な庇。一般的な庇のイメージを打ち破る、出幅約7メートルというサイズは圧巻です。木の温もりを感じさせるだけでなく、その下に人々が集い、憩いの場として利用できる設計となっています。
1階に設置された「ハブセントラル」は、多様な学生が集い、さまざまな用途で使用できる交流空間。随所にテーブルやソファ、造作家具が設置されており、自然発生的な出会いや協働を生み出します。
ハブセントラルの一角にはセルフレジシステムを導入したキャッシュレス決済型カフェ「Café ILION /カフェ・イリオン」を設置。建物の名前にある「トロイヤー」が、ギリシャ神話に登場する「トロイア王国」を連想させるため、その別名である「イリオン」が店名となりました。
収容人数300人を誇る大教室では、一般教育科目など大規模授業や講演などが行われます。大教室であってもICUの対話を通じた学びは健在です。授業中、折に触れて学生と教員がディスカッションを行ったり、学生同士でグループワークに取り組んだりする姿が見られます。異なる専門やバックグラウンドを持つ学生が集うからこそ、新たな視点の獲得につながります。
T館の特徴の一つが、ガラス張りの実験室です。これまで理学館に設置されていた自然科学系の実験施設が移転し、中の様子が見える設計に。気軽にサイエンスに触れられる環境が、学生の新たな興味をかき立て、思いがけないアイデアを生み出します。
自然科学施設管理責任者を務める岡野健教授(担当メジャー:物理学、環境研究)は次のように話します。「この実験室で扱う物理学や化学といった分野に、ハードルを感じてしまう学生がいるのも事実です。しかし、オープンな環境になり、ガラスの向こうから中を覗く学生の姿も多く見られます。興味を持ってもらうことが『知の融合』への第一歩だと感じます」
教養学部4年
メジャー:物理学 マイナー:経営学
半導体の研究に取り組んでおり、主に卒業研究の実験を行うためにガラス張りの実験室を使用しています。実験室が理学館にあった時は、自然科学系メジャー以外の学生となかなか接点を持てなかったのですが、今の場所に移ってからは多様なメジャーの学生と交流ができるようになりました。他メジャーの友人が実験室の前を通りかかって、挨拶をしてくれるとモチベーションが高まります。
教養学部3年
メジャー:言語教育 マイナー:公共政策
T館で行われる授業を履修し、週に数回、こちらに足を運んでいます。今まで自然科学系分野への関心はあまり高くなかったのですが、ガラス張りの実験室があることで、一段と身近に感じられるようになりました。これを機に興味が湧いた自然科学分野の授業を今後履修してみたいと思っています。多様な知が融合するこの空間で、人脈も知見も広げていきたいですね。
T館の2・3階にある研究室では、オフィスアワーを利用して教員を訪ねる学生の姿が多く見られます。講義内容に関する質問やディスカッションの他、メジャー選択や課外活動、卒業後の進路の相談など、その内容は幅広いです。
建設に先立ち行われた埋蔵文化財発掘調査の一環として剥ぎ取った土層を、3階と4階をつなぐ中央階段部分に展示。土層の最下層部分は約40,000年前、人類が初めて日本列島に登場した頃のもの。その大きさから、積み重ねてきた歳月を感じることができます。
T館の室名板やフロアマップは木材で作られており、建設時に伐採されたヒマラヤスギが再利用されています。長年、ICUとともに過ごした木々が、形を変えて、建物内にぬくもりを与えています。
これまで本館にあった5つの研究所を、T館の4階に集約。研究所の前には対話スペースが設けられ、さらなる学際的な交流が期待されます。ここでは各研究所所長によるT館へ寄せる思いなどを紹介します。(肩書きは2023年7月時点のものです)
キリスト教と文化研究所
伊藤 亜紀 教授
担当メジャー:
美術・文化財研究
キリスト教学および関連する諸分野から個々のテーマを追究し、講演会やシンポジウム、紀要『人文科学研究(キリスト教と文化)』などで成果を発信しています。T館はいわば「知的サロン」です。交流を通じて、己の専門を超えた知識と思索を深める場となるでしょう。
アジア文化研究所
菊池 秀明 教授
担当メジャー:
歴史学、アジア研究
アジアの歴史と文化を幅広い視野から理解し、紀要『アジア文化研究』や、300回以上にのぼる公開講演会などを通じて成果を発信しています。T館は、ICUが目指す「対話」の場としての魅力にあふれています。アジアの多様な言語に精通したスタッフがお待ちしています。
教育研究所
大川 洋 教授
担当メジャー:
教育学、日本研究
1953年にICU最初の研究所として発足した本研究所では、教育に関する基礎的・応用的研究を行い、その成果を紀要『教育研究』やイベントを通じて社会に発信しています。T館では研究所同士の繋がりが強固になり、また学生が立ち寄る機会も増えて喜ばしく思います。
社会科学研究所
毛利 勝彦 教授
担当メジャー:
国際関係学、グローバル研究、政治学
紀要『社会科学ジャーナル』の発行に加え、公開講座や共同研究プロジェクトを実施。社会科学における学術交流や情報交換の国際拠点となることを目指しています。人文科学系や自然科学系の分野との融合もさらに進め、ダイナミックな学際的研究を展開していきます。
平和研究所
サイモンズ, クリストファー
E. J. 上級准教授担当
メジャー:文学、ジェンダー・セクシュアリティ研究、平和研究
本研究所ではICUの使命に基づき、世界平和を追求する学際的な研究に取り組んでいます。自然と調和する美しいT館で、他の研究機関との協力をさらに進め、質の高い研究成果を生み出します。そして、世界中の優秀な学生や研究者を惹き付けたいと考えています。
研究戦略支援センター長
担当メジャー:人類学、アジア研究、
ジェンダー・セクシュアリティ研究
ICUでは、異なる背景や使命を持つ多様な研究所・センターが、それぞれに歩みを進めてきました。そうした研究組織や研究者へのサポートを拡充するべく、研究戦略支援センターは2016年に発足。研究資金の獲得に関する支援をはじめ、研究活動のさらなる活性化を目指したサポートを行っています。
研究は一つの視点から見るよりも、多様な分野の専門家が協働することで、新たな価値を生み出すケースがよくあります。そのためには、他の研究者がどのような研究を行っているのか日頃から興味を持つことが大切です。その意味で、研究所間の物理的な距離が縮まり、交流が必然的に促進されるような環境になったことは意義が大きいと感じます。
大学において教育と研究は“両輪”と言われますが、教育に熱心なICUだからこそ研究の役割は重要だと考えます。教員は常に自身の研究をアップデートして教育に反映しなければ、意欲の高いICU生の熱意には応えられません。この新しい環境が、研究者の探究心をかき立て、さらなる融合を生み出し、ICUが「明日の大学」であり続ける原動力になればうれしいですね。
建築家。1990年に隈研吾建築都市設計事務所設立。これまで20か国超の国々で建築を設計し、日本建築学会賞、フィンランド・国際木の建築賞、イタリア・国際石の建築賞などを受賞。国際基督教大学のキャンパス・グランド・デザインにおいて設計を担当。
2023年6月6日、T館開館を記念して学長主催による特別講演が行われました。隈氏は古代ギリシャ・ローマ時代の建築や近年手掛けた建築プロジェクトを題材に、大学における「広場(クアドラングル)」やT館で採用された「回廊」の意義を強調。「固定観念に縛られた都市から距離を置く『反・都市性』を持つICUのキャンパス。文系・理系の枠組みから解き放ち、自由な対話が生まれる開かれた広場になってほしい」と期待を込めました。
※T館開館記念特別講演
ICUのリベラルアーツは、授業だけで育まれるのではありません。
ランチタイムや放課後など、キャンパス内での対話を通じて異なる他者の視点に気づき、視野が広がっていくのです。
さまざまな「人」と「学び」との出会いが、知の融合につながり、リベラルアーツの深化を促します。
異なる専門やバックグラウンドを持つ学生が集うICU最大規模の「大教室」。授業中はもちろん、休憩や移動時間に生まれる「対話」が、異なる視点を獲得するきっかけに。
2・3階に設置される自然科学系の研究室。自由に教員と話せるオフィスアワーを利用して、気になる研究をしている教員を訪ねよう。卒業研究に新たな視点を見出せることも。
多様な学生が集うオープンスペースは、絶好の「交流の場」。カフェスペースが設置された屋内の「ハブセントラル」や、新たな中庭「クアドラングル」で、リフレッシュしよう。
実験室はすべてガラス張り。中の実験風景が見えることで、気軽にサイエンスに触れられる設計に。オープンラボを覗くたびに、新たな興味がかきたてられるはず。
屋上のガーデンスペースは、環境研究に活用予定。座学でのインプットに留まらず、実際に自分で手を動かして、五感で学ぶ「リアルな体験」を大切に。
[建物名称]
トロイヤー記念アーツ・サイエンス館
Troyer Memorial Arts and Sciences Hall
[建築主]
学校法人国際基督教大学
[基本・実施設計]
株式会社日本設計・隈研吾建築都市設計事務所
[建築階数]
地上4階
[設備概要]
1階:Hub Central、大教室(約300人収容)、実験室、オープンラボスペース、ヘルスケアオフィス、事務室、カフェ、会議室、セミナールームなど
2・3階:大教室(180人規模)×2、実験室、研究室、オープンラボスペース、会議室、セミナールームなど
4階:研究所、実験室、屋上ガーデンスペースなど
本館の奥に見える、大きな木の庇の建物。
そして教員たちと「出会う」ため、設計された学び場。
どんな対話が繰り広げられているのでしょうか。