■北海学園大経済学部・札幌LRTの会主催の「札幌都心交通再考フォーラム」から(11月23日、札幌市)
人口52万人の宇都宮市と工業地帯の芳賀町を結ぶ次世代型路面電車LRTが昨年8月に誕生しました。日本で最も新しいLRTです。
路面電車は長年、「古い」「のろい」「ダサい」と言われてきました。1960年代、急激に増えた自動車が路面電車の軌道に進入し、渋滞で身動きが取れない状況に陥りました。利用者は徐々に減少し、さらに「渋滞の元凶である路面電車を廃止しろ」との声も強まったのです。
私が広島電鉄に入社したのはそうした時期でした。広島電鉄は広島市内に路面電車を走らせているほか、世界遺産の宮島に郊外線を持っています。電車部長が広島県警察に日参し「軌道(線路)に自動車が入れないようにしてほしい」と繰り返し訴えました。
路面電車を廃止すると、電車1両に対しバス3台が必要で、まずます渋滞が激化し、排ガスの問題も深刻になります。
こうした状況を理解した県警は、県公安委員会に働きかけて67年10月、自動車の軌道進入禁止を実現させました。電車の定時性と速達性が確保され、お客さんが戻りました。
最盛期に全国で65事業体あった路面電車は、19事業体に減りましたが、新しく生まれ変わりつつあります。
20番目の宇都宮ライトレールはJR宇都宮駅から、内陸部としては全国有数の工業団地を結ぶ14.6キロを運行しています。沿線で4万~5万人が働いていますが、LRTは通勤時間帯も渋滞に巻き込まれず時間通りに走っています。電車の車高を低くして段差をなくし、高齢者もベビーカーのお母さん方にも好評です。
JRの乗り換えもスムーズです。JR線の東西を結ぶ自由通路のすぐ下に乗り入れていますので。
線路や駅などのインフラを行政が所有する「上下分離方式」です。建設事業費は684億円、1キロ当たり47億円でした。地下鉄の300億円、道路の50億~90億円と比べ、安価です。開業効果ですが、沿線の地価は商業地、住宅地とも上昇しました。宇都宮市全体が下落しているのとは対照的です。固定資産税や都市計画税の増加で、投資の元は十分取れるのです。
札幌の印象ですが、JR札幌駅を降りてから地下鉄に乗り換えるまでが一苦労です。どこを通れば近いか、旅行者には非常にわかりにくい。エレベーターを使うには遠回りだったり、エスカレーターが途切れ数十段の階段が待っていたり。高齢者にはつらいです。
札幌市電は(中心部をぐるぐる回る)環状運転で路面電車としては全国唯一です。まちの中をとても分かりやすく、便利に結んでいます。ぜひJR札幌駅前に延ばすべきでしょう。初めて訪れた人でも迷わずまちに出られる交通のあり方を考えてほしいです。
なかお・まさとし 1944年、広島市生まれ。67年に広島電鉄に入社し、取締役電車部長、常務取締役電車カンパニープレジデントなどを歴任。2015年、宇都宮ライトレール設立時に常務取締役に就任。
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