寺門寛さん(修士課程2回生 地球・生命環境講座 石村豊穂研究室)が,2024年9月20日に日本地球化学会第71回年会にて「スルメイカ平衡石の高解像度安定同位体分析法の開発と回遊生態推定の試み」について講演し,学生奨励賞を受賞しました。
研究概要:「スルメイカ平衡石の高解像度安定同位体分析法の開発と回遊生態推定の試み」
日本の主要水産資源の1つであるスルメイカは,近年漁獲量が激減しており,その要因解明と資源保護方法の検討が重要視されています。しかし,スルメイカ自体の生態や回遊履歴は完全には理解されておらず,当該研究の障壁となっていました。
スルメイカは頭部に平衡感覚をつかさどる一対の平衡石(炭酸カルシウム)を形成します。平衡石は付加成長する(内部を保ったまま表面に新たな層を作りながら成長する)ため,スルメイカが経験した水温の情報を酸素安定同位体比(δ18O)として時系列で記録することが知られています。本研究では日本周辺海域において漁獲された小型のスルメイカから摘出した平衡石(最大約1mm)を包埋・研磨・日齢査定した後に,微小領域切削装置を用いて成長輪に沿って切削し,微量炭酸塩安定同位体分析システム(MICAL3c)を用いてδ18Oを定量しました。さらに LA-ICP質量分析計を用いて微量元素濃度分析を行うことで,より詳細な海域識別指標の構築を試みました。
δ18O履歴から推定した経験水温の解析から,成長に伴う南北方向への回遊の様子が明確に識別できたものの,東西方向の海域判別の指標としての活用には至りませんでした。しかし微量元素分析では,Ba濃度は日本海側個体の方が太平洋側個体よりも高い傾向が示されました。これは,日本海側の海水中のBa濃度は太平洋側と比べて高いという先行研究と一致するもので,海域判別に活用できる可能性を示します。以上のことから,今後δ18Oと微量元素分析の併用によってスルメイカの回遊海域識別と回遊生態の理解が進むと期待されます。
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