TOPICSプロダクツトピックス NEWSニュースリリース

博報堂プロダクツの各コア事業が追求している専門技術を駆使した新しい取り組み、
最新ソリューションおよびプロフェッショナル人材などを紹介します。

博報堂プロダクツが向き合う“生成AI”の現在と未来

2名の写真、左から熊谷周太さん、石﨑優さん

 

猛烈な勢いで進化し続ける「生成AI」。技術の面白さだけを学んで満足する時期は過ぎ、広告コミュニケーションという場でも、取り入れられることも多くなってきました。博報堂プロダクツでは生成AIとどう向き合っているのか、生成AI活用の現状と課題、今後数年での期待感などをPromotion X 室の石﨑 優と、デジタルプロモーション事業本部の熊谷 周太が“プロフェッショナル”として語り合います。

プロフィールはこちら

 

【目次】

・生成AIは枠外の思考を促す

・アンコントローラブルな状況はしばらく続く

・リアルとバーチャルの線引きを決めるのは人間自身

 

 ç”ŸæˆAIは枠外の思考を促す 

──博報堂プロダクツにおける生成AIの活用状況について教えてください。

 

熊谷:デジタルプロモーション事業本部での生成AIの活用には、主に2つの側面があると思います。1つ目は制作のプロセスにおける活用、2つ目はAIを体験の一部として組み込む使い方です。

石﨑 :Promotion X室では、社内のDX推進をミッションに掲げており、生成AIを使うだけでなく、どうすれば広く使ってもらえるかについても考えています。

熊谷:制作スタッフは既にLLM(大規模言語モデル)を使いこなしている印象です。特に若手は技術的な問題があれば、検索ツールで調べる前に生成AIに聞くことも多いですね。企画立案における利用は未だ局所的ですが、プロジェクトのプロトタイピングを作成したり、テスト用のダミーデータを生成したりする際に活用しています。

石﨑 :議事録や報告書のドラフト作成には、非常に便利なのでよく活用していますね。最近では、LLMを特定の業務に合わせてカスタマイズすることもあり、ダイバーシティの観点──例えば、環境活動家の視点でアウトプットに何らかの問題がないかを確認する際にも役立っています。

熊谷:自分一人では気づきにくい点を補完するために生成AIを使うのは理にかなっていますね。制作の現場でも、先入観や枠組みを超えて思考の枠を広げるのに役立っています。また、外部の視点や偶発的な要素をクリエイティブに取り入れることで、新たな体験が生まれますし、それは生活者にとっても同様の効果があると考えています。

 

 ã‚¢ãƒ³ã‚³ãƒ³ãƒˆãƒ­ãƒ¼ãƒ©ãƒ–ルな状況はしばらく続く 

──2024年の生成AIのトレンド傾向はいかがでしたでしょうか。

 

熊谷:進化のスピードが非常に速いことは、皆さんも感じているところだと思います。ここで問題となるのは、生成AIを使ったことがある人と、まだ触れていない人との間でリテラシーのギャップが生まれている点ではないでしょうか。昨年までは生成AIを「使うこと」自体が目的であるケースも多かったですが、現在はそのフェーズを超えています。潜在的なリスクも含めて生成AIをどう使うのか、使わなければならない場合は、その理由までが問われる時代になっていると思います。

石﨑:当初、生成AIが新しいトレンドとして活気づいてきたころは、サービスとして提供しているのはある程度限られていて、それを活用すればあらゆる問題が解決できると思われがちでした。しかし、いまでは、他にもさまざまな生成モデルやサービスが存在し、場合によってはRAG(LLMに外部情報の検索を組み合わせる技術)などのカスタマイズが必要であることも知られるようになってきました。

 

執行役員 兼 Promotion X室 室長 石﨑 優さんの写真

執行役員 兼 Promotion X 室 室長 石﨑 優

熊谷:サービスごとに得意・不得意があり、生成された出力の正確性をどこまで求めるべきかは、目的次第で異なりますね。

石﨑:また、多くのLLMは英語を前提に学習されているため、日本市場ではまだその真価を発揮していると言えず、インパクトが限定的な印象です。しかし、テキストだけでなく、音声や画像、動画を含むマルチモーダル対応が進み、無限の使い方が生まれるようになると状況は大きく変わるかもしれません。

熊谷:進化の方向性はいろいろと想像できますが、いい意味で「生成AIの手綱を握れないアンコントローラブル」な状況はしばらく続くと思います。それが3年なのか5年なのかは分かりませんが、個人的にはこの変化を楽しんでいきたいです。

石﨑:現時点でも、生成AIを活用した議事録作成が、思い通りにいかないといったことはあります。普段から生成AIを使っていない人ほど、過度な期待を抱きがちですが、こうした限界も認識する必要があります。ただし、見方次第では、エキスパートの代替というよりも、非エンジニアが基本的なアプリを作れるとか、絵を描けない人でも資料の挿絵が作れるといった、業務の可能性を広げる点に注目したいですね。

 

 ãƒªã‚¢ãƒ«ã¨ãƒãƒ¼ãƒãƒ£ãƒ«ã®ç·šå¼•ãã‚’決めるのは人間自身 

──生成AIを活用する際に現場で直面する課題や、その向き合い方についてどうお考えですか?

 

熊谷:クリエイティブの現場では、生成AIの導入によって思考プロセスを意識的に変えることはあまりないと思います。今後は生成AIのアウトプットのクオリティが高まるかもしれませんが、課題に対してコンテクストを整理し、点と線をつなげていく作業は未だ人間のほうが速いです。私たちが目指すのは、生成AIを利用しつつも、その上位レイヤーで人間の強みを発揮し今までのやり方をより高次元へと引き上げることです。

石﨑:現時点で生成AIを無理してまで習得することはないのかなと感じることもあります。先ほど熊谷が話したように、生成AIの進化は非常に速く、習得したプロンプトテクニックもすぐに陳腐化してしまいます。変化を楽しめる人であれば問題ないでしょうが、義務感で使いこなそうとすると、生成AIに対して苦手意識が強くでてくるかもしれませんね。

熊谷:確かに、生成AIは義務感で使うものではありませんし、ハウツーがすぐに形骸化しうる点にも同感です。ただ、今後は各種サービスが裏側で生成AIの機能を使用するようになるかもしれません。例えば、最近では検索ツール結果に生成AIによる回答が表示されるようになっていますが、これがいつ統一されてもおかしくありません。

 

デジタルプロモーション事業本部 テクニカルディレクション部 部長 熊谷周大さんの写真

デジタルプロモーション事業本部 テクニカルディレクション部 部長 熊谷周大

石﨑:そのような流れが進めば、生成AIの使い方を意識しなくても自然に使いこなせる時代が来るかもしれませんね。

熊谷:もちろん、現在の技術的な課題がいずれ解決されるとしても、業務において生成AIを使う以上、直面するリスクを知り、その対応策を考えていく必要があります。手間に思えるかもしれませんが、この手順を正しく行わないと結果として「ディープフェイク」として受け取られる危険が想定されるからです。

石﨑:生成AIの登場により、バーチャルとリアルの境界線が曖昧になってきましたね。私はこれを「ファジーバーチャル」と呼んでいますが、現在、この曖昧な領域でのクリエイティブ表現が増えてきています。人間とAIの線引きをどこに設定するかは、AI倫理の問題として人間がコントロールしていくべきだと考えています。私自身、博報堂DYグループの研究機関である「Human-Centered AI Institute」の事務局にも関わっており、そこで「人間中心アプローチのAI」について議論しています。

熊谷:普段から石﨑とも情報共有をしていますが、今回改めてリアルに話をしてみて、同じ問題意識を持っていてもAIに対する価値観が微妙に違うことを実感しました。このように、AIに対する考え方や倫理観は人それぞれで、正解がないことも当たり前のように感じます。しかし、私たちとしては、生成AIを新しいアイデアや考え方の幅を広げるために使うべきだという認識を、再確認しながら向き合っていきたいと思います。

 

 

【プロフィール(取材時)】

石﨑 優

執行役員 兼 Promotion X 室 室長

博報堂プロダクツのIT/DX領域を担当し、社内外のDX・システム構築・AI活用の責任者として従事。博報堂DYホールディングスのHCAI研究所、 creative technology lab beatの活動にも参画し、クリエイティブ領域へのテクノロジー活用を推進。外資系コンサル企業勤務の後、タイで映像制作会社を創業、博報堂プロダクツとの資本業務提携を経て現職 。

 

熊谷 周太

デジタルプロモーション事業本部 テクニカルディレクション部 部長 

テクノロジーを活用した体験やコミュニケーションの企画/実装に数多く従事。デジタルやテクノロジー全方位の知見を、クリエイティブや体験設計の知見と掛け合わせて企画・ディレクション。モットーは「全方位UX脳で考える」。Web、アプリ、XR、イベントコンテンツ・演出など、制作領域は多岐にわたる。