Nike Air Max, Name of Tax Haven

「エア・マックス」という名のペーパーカンパニー

「大西洋のバミューダ諸島」と聞いたら何を思い出すだろうか。子どもの頃なら、飛行機が入り込むと行方不明になる「魔の三角地帯」を想起しただろう。しかし、近年は多国籍企業の稼いだ利益が姿を消す「タックス・ヘイヴン」として知られるようになった。
「エア・マックス」という名のペーパーカンパニー

「大西洋のバミューダ諸島」と聞いたら何を思い出すだろうか。子どもの頃なら、飛行機が入り込むと行方不明になる「魔の三角地帯」を想起しただろう。しかし、近年は多国籍企業の稼いだ利益が姿を消す「タックス・ヘイヴン」として知られるようになった。

文: 三国大洋(taiyomikuni.com)

1995年の日本ではスニーカーブームが過熱。「エア・マックス95」に20万円の価格がついた。しかし、いまやその商品名はペーパーカンパニーの名前でもある Photo:Fujifotos / AFLO
ニュースのポイント

米国の多国籍企業は、法人税をギリギリまで圧縮するために国外に登記したペーパーカンパニーを利用している。この手法はGoogleやAppleも活用して有名になったが、そんな海外法人に自社のヒット商品の名前を付けた著名スポーツブランドがある。ナイキだ。

押しも押されもせぬトップブランド

スポーツ分野ではトップブランドともいえるナイキは、いまや年間売り上げ240億ドル(2013年度)の巨大企業である。バスケットボール分野では、「エア・ジョーダン」ブランドが有名だが、オリジナルを発売して以来、バスケットシューズの代名詞にもなっている。米国ではバスケシューズ市場でシェア9割とも言われているからだ。2014年のワールドカップでも、アディダスやプーマとともに、ナイキのロゴが付いたジャージやスパイクがテレビの画面に溢れていた。

そんなナイキは、1968年の創業から現在までに多くのヒット商品を生み出してきた。「エア・ジョーダン」や「エア・マックス」はスポーツを超えて流行のファッション・アイテムにまでなった。また、「コルテッツ」なんて名前を目にして感慨にむせぶ読者もいるだろう。

さて、企業としてのナイキは、節税対策のためにバミューダ諸島にさまざまな法人を登記している。面白いのは、企業名にヒット商品の名前を付けているというところだ。

米「Citizen for Tax Justice(CJT)」および「Quartz」によると、ナイキがバミューダ諸島に置く子会社は全部で12社あり、そのうちの10社に自社の商品ブランド名を与えているようだ。

たとえば、「Nike Force」「Nike Huarache」「Nike Air Max Limited」「Nike Pegasus」「Nike Jump」「Nike Lava Dome」「Nike Tailwind」「Nike Air Max」「Nike Waffle」といった具合に。

具体的な節税手法だが、米国内での事業活動で生み出した知的財産(IP)をこれらのペーパーカンパニーに移した上で、各国の現地法人がバミューダ法人に知的財産の使用料を支払う形にして、それぞれの地域での課税利益額を圧縮する、というもの。Quartzの記事によると、ナイキが保有する現金(短期流動性資金)38億ドルのうち25億ドルが米国外にあるとされる。また、CTJには、この種の利益が過去1年で12億ドル増加して合計67億ドルになったこと、ししてこの利益を米国内に持ち込むと約22億ドルの法人税が課される、と書いてある。

米国外で塩漬けにされる利益が膨大な額になっていることは、以前に「税金を払わないグローバル企業」で示した通り。GEは1100億ドル、Microsoftは764億ドル、Appleは544億ドルの利益を海外にため込んでいる。裏返して言えば、課税されるので米国に持ち込めない、という状況である。

これほど大きな数字と比べれば、ナイキの67億ドルというのはまだかわいらしい程度。しかし、たとえばフライニット製法のようなハイテク技術の開発が進んでいることを考えると、今後もこうした知財移転=節税額が増えていく可能性は高いだろう。

この記事も気になるはず?……編集部から

税金を払わないグローバル企業

税金を払わないグローバル企業の問題が、米国で再燃しようとしている。くすぶり続ける問題に、ふたたび火をつけたのはオバマ大統領だ。