映画『犬王』湯浅政明監督に訊く、オススメアニメーション4選

『犬王』で湯浅監督を知り、衝撃を受けた人へ。監督がオススメするアニメーション作品をご紹介。

【『犬王』湯浅監督インタビューを読む】

『犬王』で湯浅作品を知り、アニメーション表現に衝撃を受ける観客は少なくないだろう。これからアニメーションに興味を持ち、アニメーション表現の豊かな世界へと分け入っていこうと思う読者に向けて、湯浅監督の個人的なオススメ作品を訊いた。

「ウォレスとグルミット」シリーズのニック・パーク (Photo by Franziska Krug/Getty Images)

■『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』(1992年)

「とても出来が良くて、キャラは可愛らしいし、小道具に至るまで、よく考えられていて、演出のお手本のようです。クレイアニメだけどスピード感もありますし、美しい照明もあります」(湯浅)

本作を含む「ウォレスとグルミット」シリーズや、「ひつじのショーン」シリーズで世界的に愛されているイギリスのアニメーター、ニック・パーク。シリーズ第2作めになる本作は、1993年に英国アカデミー賞短編アニメ賞に選ばれている(第3作『危機一髪』も『ペンギンに気をつけろ!』の翌々年に同賞を受賞)。

あらゆる動きが目に楽しいが、選曲のセンスにも湯浅作品に通じるものがあるのではないだろうか。

湯浅政明監督

■劇場版『エースをねらえ!』(1979年)

「取り上げられることの少ない気がする巨匠・出崎統監督の作品でも、1番好きな作品。テニス漫画で2度シリーズアニメ化されていますが、その劇場版新作。長いストーリーのエッセンスを断片的に切り取りながら、間に挟まるエピソードの内容、切り取り方がカッコイイ! 最もカッコいいアニメと思っています」(湯浅)

山本鈴美香原作のマンガのアニメ化作品。監督は、本作のテレビ版やアニメ版『あしたのジョー』などをはじめ、昭和日本アニメをテレビアニメと劇場アニメの双方で支えた出崎統。

「動かす」ことに目を奪われがちなアニメーション表現だが、だからこそ、ここぞという場面で絵を止めてしまうことで強烈な印象を作り出せる。出崎作品の魅力はひとことでは言い尽くせないが、まずはどの場面をどのように「止めて」いるかに注目してみてもいいだろう。出崎作品は画面を止めるほかに無数の演出技術が動員されており、本作はその集大成とも言える。

また本作で美術監督にクレジットされている小林七郎は、出先監督作品『元祖天才バカボン』、宮崎駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』でも美術を手がけた奇才。両作はやはり湯浅監督のお気に入り作品でもある。

■『銀河鉄道の夜』(1985年)

「宮沢賢治の映像化で最も成功していると思います。大人向けの感じがしますが、当時は小学生にも人気で大ヒットしました。キャラクターは猫で、細野晴臣の音楽もとてもいいです」(湯浅)

宮沢賢治の代表作を原作に、ますむらひろしがマンガ化した作品の映像化。二足歩行の猫型キャラクターが暮らす世界が舞台になっているが、その非現実感をさらに凌駕する宮沢賢治の壮大な幻想世界が展開されていく。

湯浅作品は、細部のトリッキーな動きや演出が特徴的だという印象を持たれるかもしれないが、死生観や幻想的な場面の表現は本作の系譜にあるといえるかもしれない。

■『ユニコ魔法の島へ』(1983年)

「ストーリーは弱いですが、魔法使いククルック、弟子の造形がとてもいいです」(湯浅)

いわずと知れた「神様」手塚治虫の生み出した「ユニコ」というキャラクターを主人公に、手塚が書き下ろしたシナリオを映像化した作品。「ユニコ」の長編映画としては2本目にあたる(短編も含めると3本目)。本作を含むサンリオ映画アニメーション部門には知られざる傑作が多い。

湯浅監督のコメントにもあるとおり、キャラクターの造形が素晴らしく愛くるしい。

『犬王』

5月28日(土) 全国ロードショー
©2021 “INU-OH” Film Partners
配給:アニプレックス、アスミック・エース
公式ホームページ:https://inuoh-anime.com/

湯浅政明(ゆあさ まさあき)
PROFILE
アニメーション監督。映画『マインド・ゲーム』で2004年に監督デビュー。第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第59回毎日映画コンクール大藤信郎賞、2005年モントリオール・ファンタジア映画祭 アニメーション部門最優秀賞、監督賞、脚本賞ほか六部門を受賞。映画『夜明け告げるルーのうた』では、アヌシー国際アニメーション映画祭にて最高賞にあたるクリスタル賞を受賞。映画『きみと、波にのれたら』では上海国際映画祭 金爵賞アニメーション最優秀作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭長編アニメーション部門最優秀賞を受賞。その他の代表作には「映像研には手を出すな!」「ピンポン THE ANIMATION」、『夜は短し歩けよ乙女』、「DEVILMAN crybaby」「日本沈没2020」などがある。

聞き手・永田希、まとめ・永田希、横山芙美(GQ)、写真・三川キミ

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