NHK夫婦別姓特集、たぶん夫婦別姓になっても不幸だぞ

2/13、NHKの夫婦別姓特集が放送されました。

話題になったのは、番組のラストに出てきた夫婦別姓反対派の亀井静香の古臭い保守的な価値観に、セクハラじみた無礼な態度。夫婦別姓に賛成寄りの人が興味を持って番組を見るわけですから、反対派の亀井静香の話には多くの視聴者が反感を持ちますよね。

亀井静香のあまりのインパクトにより忘れ去られてしまったのですが、番組で取り上げられた夫婦にも少し疑問を抱くところがありました。

それをようやく言語化できたので、番組のあらすじを多少交えながら説明していこうと思います。

www.nhk.jp

 

あらすじ

番組は、結婚できず困っている事実婚夫婦二人の会話、実家の親との話し合い、夫婦別姓関連の取材の3種類のシーンを行き来しながら進行されてゆきます。

 

主な登場人物は以下の4人。

 

高橋氏:夫。40歳。NHKのディレクターであり、自分自身を撮影するセルフドキュメンタリーとしてこの番組を作成した。38歳の時に妻にプロポーズをするが、妻が改姓を嫌がる。ならばと自分が神野姓を名乗ろうとしたところ、「縁を切る」「孫が出来ても顔を出すな」と両親から尋常でないレベルで反対され、事実婚のまま現在に至る。

 

神野氏:妻。27歳。幼少期に両親が離婚しており、かつての父親の姓が『高橋』だったため、自身が高橋姓を名乗ることに抵抗を感じている。夫の取材に同行し、初対面であるはずの大学教授や亀井静香にさりげなくタメ口をきく豪胆。

 

高橋母:パワフルな母ちゃん。最初は息子が高橋の姓を捨てようとしていることに強く反発したが、時間が経つにつれ、別姓婚ならOKを出すという立場に変わった。

 

高橋父:息子が妻の神野姓を名乗ることは親子の縁を切るぐらい嫌悪しており、別姓婚にも反対している。「今の世は男尊女卑だと思ってるだろ、実態は女の方が上だよ」と男女平等を阻むお決まりのフレーズを言い放つが、この家庭では実際高橋母の方が強いんだろうな、と思わせるものがある。

 

まとめると、彼らの希望する結婚の形は以下の通りです。

 

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この図を見る限り別姓にするのが一番角が立たないように思えます。高橋母さえ説得できれば、高橋父も結婚式ぐらいは(高橋母に引き摺られて)渋々顔を出しそうな気がします。だからきっと、彼ら夫婦は選択的夫婦別姓が実現できれば結婚生活が上手くいくのだ、と願っているのだと思います。

 

でも、そうだろうか。僕はテレビで放映された数十分だけから彼らの立場を勝手に憶測します。本当は、この図はこうなんじゃないか。

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別姓にした場合の子供の姓を分岐させ、また、評価方法を「結婚する条件」から「その結婚が成立した後の気持ち」に変更しました。夫の姓での結婚は妻が反対して結婚自体が成立しないのでグレーにしてあります。

 

まず、息子の改姓に口出す人間が、孫の姓に口を出さないわけがないので、別姓にしようが孫は夫の姓にしろと言うに決まっています(憶測)。

 

この事態は神野氏も想定しているでしょうから、子供の姓は高橋でもいいと思っているのかもしれません。しかし、僕が一番疑っているのはここです。高橋くんのお母さんは、何をどうしたって「高橋さん」と呼ばれると思うのです。

例えば小学校の集まりに顔を出した時。例えば子供を病院に連れていったとき。あまり親しくない間柄で何の説明もしていなければ、類推して神野氏を「高橋さん」と呼ぶひとがきっとこの先もいるんだろうな、と思います。

研究者夫婦が互いの仕事のために別姓にしたい、というのとはここらへんが少し違う点で、「高橋」と呼ばれること自体にトラウマがあるという理由ならば、子供の姓も神野に揃えた方が毎日を楽に過ごせると思うのです。

 

別姓にした時の高橋氏を両方△にしたのは、番組中で語られていた、子供の姓への懸念を考慮しました。

夫婦別姓の実現を目指す市民団体の会合に取材に行った際、事実婚をしている他の当事者の話を聞いて、高橋氏はようやくあることに気づきます。「親と苗字が違うと子供が困るのでは?」

家に帰ってから、子供がいじめられたりしたら……と内心を吐露したところ、結局多数派に居たいだけではないか、自分の子供が少数派になった時のことを考えていないのではないか、と妻の正論パンチを食らいます。南無三。

高橋氏は、そうでないと結婚してくれないから別姓や妻の姓を受け入れるだけで、当人はやや保守的に見えます。NHKだし。

 

 

勝部元気先生が指摘して『味方を後ろから撃つな』とまで言われていましたが、実際別姓になって困るのは子供の姓だと思います。反対派は導入された後の世界の個々の事例を重視しないせいで、あまりこういう表現での指摘をしません(家族の一体感というフレーズに内包されます)。

 

子供の姓まで考えた場合、高橋氏、神野氏、高橋母の3人ともが納得できる状況というのは無いのではないでしょうか。

 

いぬのきもち、ねこのきもち、反対派のきもち

選択的夫婦別姓はあくまで選択だから誰の不利益にもならない、というのは反対派にとってあんまり響かない意見です。自分じゃない他人にも夫婦同姓でいてほしいからです。

それを説明するのはどうにも難しいのですが、異性愛者でも同性婚に賛成しているし、それができていない社会に怒る感覚とでも言えばいいのでしょうか。自分の支持するイデオロギーが社会で実現されていてほしいのです。

不条理と言えば不条理だけど、お守りをハサミで切り刻んでいる他人を見て不快になるぐらいには心の奥に根付いてる強固な信念です。

 

世間様がどうであれ、自分の子供の結婚相手についてだけは干渉したいという気持ちも理解できます。

たぶん僕も、自分の子供の婚約相手が宗教に入っていて、子供が改宗してでも結婚したいと言った場合は説教してしまいそうです。「あなたはいいけど、孫が宗教2世になるのは心底可愛そうだ」とか言うと思う。絶対言う。(※婚約相手が石原さとみだった場合を除く)

 

サザエさん一家の話

番組の終盤、「理想の家族の形ってどんなの」と高橋氏が両親に尋ねると、高橋父は「サザエさんのテレビみたいなのだよ」と答えたエピソードがあります。しかも両親らは、マスオさんがお婿さんに入ったから家族全員が同じ苗字なのだと勘違いしていました。このくだりを私は非常に面白く感じました。

これは、サザエさん一家の家庭環境自体を望ましいと思っているから、同じく自分にとって望ましいものである同姓を名乗っているはずだ、と自分の都合の良い方向に捻じ曲げてしまったが故の勘違いなのではないかと思います。

 

普通、サザエさん一家で一番特徴的なのはマスオさんです。「マスオさん」が妻の実家で暮らす夫の代名詞として用いられるぐらいです。でも、この両親は別に自分の息子に嫁の実家で暮らしてほしいわけではないでしょう。孫の面倒だのなんだの言いだすぐらいですし、息子が神野姓で結婚する(≒婿入りする)ことも認めていないのですから。

 

そうなると、この両親がやりたいことというのは、二人して波平のポジションに落ち着くことなのです。高橋母はフネというよりは波平寄りな気がします。波平×2。

サザエさん一家は、波平というキレやすくて面倒くさいオヤジを抱えながらも、フネとマスオが奇跡的なまでに温厚なために衝突せずに済んでいます。あと、身内にはキレる波平も、男であるマスオには一線を引いた大人の付き合いをしているというのもありますが。

そりゃ、自分たちが年長者として敬われながら、自分の子供や孫と暮らす生活は楽しいでしょうよ。一番気を遣うポジションがマスオ――嫁である神野氏であることを除けば。

 

高橋両親の言う「サザエさんみたいな家庭が良い」というのは、突き詰めると自分たちに従う嫁が欲しいという意味になります。オエッ。

 

さっさと妻の姓で結婚しよう。

僕がおススメするのは妻の姓での結婚です。

親にも認めてもらいたいのはわかります。でも無理だったのです。離婚した昔の父親と同じ苗字がイヤだ、という至極真っ当な気持ちに寄り添えないの大概ですよ。

 高橋氏の年齢が40歳ということで、ご両親も70歳前後なんだと思うのですよね。その年齢で考えを変えてもらうことはなかなか難しいので、腹をくくってください。

 

妻と親が対立したら、最終的には一緒に住む妻の味方をするしか構造的に許されてないと鬼女板にも書いてある。

高橋氏は親に「(高橋姓を捨てるなら)孫の面倒は見ない」と言われてビビッていましたが、夫の両親が子育てに積極的に関わってくる方がイヤなんだよ。外孫こそ手放しに可愛がれる時代だぞ。

 

いやもう、この番組が放送された時点で、彼らの守るべき世間体はおおよそ木端微塵に吹き飛んだのです。

全国放送の地上波でイチャつくわ、夫は40にもなってイマイチ頼りにならないし、両親の知人だって「認めてあげればいいじゃないの」と思う人はいるでしょうし、あるいは保守的でも「息子が結婚していないのか」という立場だってあります。

 

正直、40歳は結婚できるラストチャンスだと思うので、親は諦めて結婚認めるしかないと思うのですが。苗字をさっさと諦めないと息子が未婚のままだぞ!相手がいないだけでも結婚は出来ないんだぞ!

 

神野氏は「(事実婚だと言えない)女の子は色々面倒くさい。苗字は?式は?子供は?って言われるのも面倒くさい」と言っていましたが、少なくとも事実婚であることは番組によって世に広められました。

割とセキララに家庭事情が暴かれてしまったせいで、なんかもう、誰もが羨む結婚では無くなってしまったけど、夫の親が厄介なのは皆わかったと思うんで、親無しの結婚式挙げても友人たちは理解してくれる気がするよ。

 

親を説得できないという家庭問題を別姓の問題にしてしまうと、社会制度が整備されるまで結婚を先送りにした挙句、別姓婚の制度が出来た後でもやっぱり親と揉めることになるので、何にも得しないと思います。

どうせ揉めるなら、さっさと妻の姓で籍入れてさっさと結婚式やってさっさと新婚旅行行ってさっさと子供作るっていう結婚幸せ詰め合わせパックやろうよ。こんなの本当は全部籍入れなくてもできるんだけどさ。

 

別姓という「進んだ」解決策を探そうとしているけれど、古めかしい価値観であっても「親と縁を切ってでも妻を守るぞ」っていう男の甲斐性の方がよほど問題を解決するのでないかしら。