2023年の「説明がつかない暑さ」の理由が明らかに

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  • author Kenji P. Miyajima
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2023年の「説明がつかない暑さ」の理由が明らかに
Image: Creative Travel Projects / Shutterstock

説明がついたらついたでまた不安が...。

2023年は、当初の予想に反して観測史上最も暑い年になりました。エルニーニョ現象、温暖化、船舶燃料の規制強化による大気汚染物質の減少、フンガトンガ火山噴火による水蒸気、活発化している太陽活動などなど。2023年の暑さにはこうしたさまざまな要因があるわけですが、約0.2度の気温上昇についてはこれまで原因がわからないままでした。気候科学者たちは、この想定外の暑さの原因を探し続けてきたのです。

結局、どうしてもその理由を説明できないまま2024年も終わるのかと思っていたら、ここにきてようやく「説明がつかない0.2度」を説明してくれる研究結果が発表されました。

過去最低のアルベド

科学誌Scienceに掲載された新たな論文で、アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)とヨーロッパ中期気象予報センター(ECMWF)からなる研究チームは、その0.2度のギャップを埋めるために、米航空宇宙局(NASA)の衛星データとECMWFの再解析データを分析しました。

その結果、2023年はアルベド地球が太陽放射を反射する割合)が1940年以降で最も低くなった可能性があることが判明しました。明るい表面はより多くの太陽エネルギーを反射し、暗い表面はより吸収するため、アルベドが低くなるのはまずいのです。

研究チームによると、アルベドは1970年代から低下しているそうです。気温上昇が続いているため、グリーンランドと南極大陸の氷床や、北極海と南大洋の海氷などの明るい表面の減少が原因として考えられますが、極地域におけるアルベドの低下は、地球全体の15%にすぎないのだとか。意外と少ない。

他の地域のアルベドも分析したところ、2020年12月以降のアルベド低下がなければ、2023年の世界平均気温は0.23度低かったことが明らかになったといいます。説明がつかない0.2度とほぼほぼ一致。

アルベド低下の原因は、低層雲

そして研究チームは、アルベド低下の原因が北半球の中緯度地域と熱帯地域における低層雲の減少であることを突き止めました。

AWIのHelge Goessling氏は、この現象について以下のように述べています。

世界平均気温が急激に上昇している主要因のひとつである北大西洋東部では、2023年だけでなく、過去10年間にわたって低層雲が大幅に減少しています。

また、データによると、中層と高層の雲はわずかに減少しているだけとのこと。これはまずい。

というのも、トータルでみると、高層の雲は地表から宇宙へ出て行くはずの赤外放射を地表に跳ね返します。逆に、低層の雲は地表へ向かう太陽放射を宇宙に反射します。前者には温室効果が、後者には冷却効果があります。

とにかく、地表に近い場所にある明るい色の雲が減るのは、雪や氷がなくなるのと同じです。低層雲が少なくなればなるほど、地球は冷却効果を失い、気温が上昇してしまいます。

低層雲減少の原因

「説明がつかない0.2度」の答えがアルベドの低下にあるかもしれないこと、その要因が低層雲の減少にあることはわかりましたが、じゃあ、なんで低層雲は減っているのでしょう?

研究チームは、考えられる原因として大気中の人為的なエアロゾルの減少を挙げています。特に、近年行なわれた船舶燃料の規制強化が一因になっているようです。

エアロゾルは太陽放射を反射するため、冷却効果があります。また、雲が形成される際に、雲凝結核となって水滴をつくる役割を果たします。大気汚染物質が減ると気温上昇につながるというジレンマ。

極地域の氷と雪の減少、中緯度と熱帯の低層雲減少、自然変動以外にも、地球規模でアルベドを低下させるメカニズムがあるとして、Goessling氏は以下のようにコメントしています。

いくつかの気候モデルが示しているように、アルベド低下の大部分が温暖化と低層雲の間のフィードバックによるものだとしたら、私たちは将来的にかなり激しい温暖化を想定したほうがいいでしょう。

2015年に「パリ協定」として定められた1.5度目標というものがあります。これは「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く保ち、1.5度に抑えるよう努力する」というもの。

アルベド低下の影響で1.5度の壁を予想より早く越える可能性もあり、パリ協定の目標を達成するためには温室効果ガス削減を加速させ、さらに激甚化する気象災害に適応するための対策実施する必要があるとしています。

アルベドを低下させないためには、温室効果ガス排出量を削減して世界平均気温を下げるか、陸地のあらゆる表面を片っ端から真っ白に塗るか、マイクロプラスチックに頼るしかないようですね…。

Source: Goessling et al. 2024 / Science, Alfred Wegener Institute