こんなところにお宝が。
テレビといえば液晶や有機EL、そして大画面が当たり前になってきた現代。高解像度、薄型、大画面を目指して各メーカーがしのぎを削っています。
一方で過去の遺産となりつつあるブラウン管テレビを追い求める人々がいます。それがレトロゲームを愛する人々です。でかくて、重くて、画質も荒いのに、なんでわざわざブラウン管? なんて思う人がほとんどだと思います。しかし、彼らの間ではブラウン管テレビの存在は、とても価値あるものとして認知されています。
世界最大規模のブラウン管の実在
レトロゲーマーにブラウン管テレビが愛される理由。それは圧倒的にラグが少ないことです。
特に今回のお話の主役となっているSONY(ソニー)の45インチ大型ブラウン管テレビ「KX-45ED1(通称PVM-4300)」は、480p VGA入力が存在するため、遅延や処理落ちがなく、ブラウン管へ直結で入力信号が送られるため、ラグが非常に少ないことが注目されていました。
1988年に発売された当時、20インチクラスが一般的なサイズだったのに対して、ブラウン管方式としては限界といわれる45インチモニターの高画質化を実現したKX-45ED1は、幅105cm × 奥行76.7cm × 高さ92.5cm、重さ200kgと超重量級でした。当時の説明書には設置場所の床が抜けないことを事前に確かめるような注意書きも存在していました。現代と比較するとその重さは明らかで、最新のブラビアは有機EL 55インチで25kgです。
価格も最大クラスで、当時で250万円。1988年の大卒初任給は15万円ほどだったので、現代に置き換えるとテレビ1台が400万円くらいのイメージです。たけぇ…。
そのため市場に多く出回ることはなく、コレクターの間では空想上の生き物ビックフットやネッシーのように伝説上の存在として認知されていました。そんな現代にあるかないのか定かではない伝説のブラウン管テレビが、日本の、それも大阪のお蕎麦屋さんに実在しているという1枚の写真をきっかけに、一大プロジェクトが始動します。
伝説のブラウン管テレビを救出せよ
レトロゲーマーのShank Mods氏は、7年前の日本のとあるブログに伝説のブラウン管が写り込んでいるという情報を聞きつけます。彼はそんな糸のように細い情報を頼りに、そのブラウン管が確認された場所を、日本の大阪にあるお蕎麦屋さんであることを突き止めます。
店舗の情報を検索すると、そこには閉店のお知らせと移転に伴う建物の取り壊しが告知されていました。閉店までのタイムリミットはあと3日。 彼の住むアメリカから渡航して、お店を訪れて、店主とコンタクトを取るにはあまりにも短すぎます。そこで急遽実物を確認してくれる人をXで探します。
Total long shot, but do I have any followers who live in or near Osaka, Japan? Need someone to scope out something for me, would be a HUGE favor. Will cover travel costs and food
— Shank @shankmods.bsky.social (@ShankMods) October 21, 2022
幸運にも現地に駆けつけられるサポーターAbebe氏が見つかり、彼が現地を訪れます。そこで本当に伝説のテレビが存在することを確認され、さらに問題なく動作することも確認できたのです。
店主と交渉し、このテレビを譲ってほしいことを伝えると、「輸送費を自己負担するなら譲ってもいい」と了承を取り付けることに成功。プロジェクトは無事成功かと思いきや、お店が解体されるまでに急ピッチで店から運び出し、安全な倉庫に移送し、日本からアメリカへの移送、アメリカに到着後自宅までの移送が必要になります。さらに移転後の店舗オープンまでは2週間のリミットです。
最大のネックはその巨大さと異常な重さ。このテレビは店舗の2階に設置されており、そこから安全に運搬することが必要でした。そんな危機もサポーターが救ってくれました。現地に駆けつけてくれたAbebe氏の友人が国際輸送の会社に勤めており、その友人の力を借りてこの巨大なテレビを運び出する段取りが完成しました。これでプロジェクトがいよいよ現実的に。あとは総出で日本からアメリカへの運搬です。
後に蕎麦屋の店主は次のように語っています。
店舗を解体する1カ月前に来られて、これは運命だと思った。
これはどうしよう。誰か引き取りおらんかなと思ってたんですけど、ほんまに欲しい人来はったらという話を妹としているときに、2階にテレビを見たいと上がって行った人おるでと聞いて、お二方が調べてはったので声かけたわけです。
長旅を経て無事到着した伝説のブラウン管「KX-45ED1」 。有志によって経年劣化した部分の修理や調整作業を経て、現代に甦りました。
前述のように当時の価格は250万円。ソニーはときおり、その時点ではトンデモナイ製品を出してきます。この45インチの大型ブラウン管テレビも、当時はそんなトンデモナイの1つだったかもしれませんが、今では45インチは「テレビとして当たり前」のサイズになっています。これで旧コンソールゲームを遊ぶのは、いろいろな意味で格別かもしれません。
Source : YouTube, ATSTECHNICA, SONY, 産業技術史資料データベース, 厚生労働省