自分の頭にも埋めるって張り切ってますけど、だ、大丈夫なんかいな…。
イーロン・マスクCEOが2020年に人体で臨床試験をスタートする!と宣言したきり延期になってるNeuralink社の脳埋め込みチップ「N1」ですが、2018年からはじまった動物実験でブタ、猿など1500頭が犠牲になっていることが内部告発で明らかになりました。
Reutersが入手した内部資料と現社員・元社員20人以上の内部証言によると、開発を急げという上(イーロン・マスクCEO)からの突き上げがすごく、圧力に歯向かえない現場の社員の間で準備不足、土壇場の変更、実験失敗、やり直しが頻発し、死亡する動物の数が増えているのだといいます。
このことと関係あるかは不明ですが、米農務省も動物福祉法違反の疑いで同社の調査に乗り出しました。
犠牲になった動物の内訳
新しい医療機器の開発に動物実験は欠かせません。ある程度の犠牲は考慮して進めるものですが、研究施設には動物の実験使用・苦痛・ストレスを最小限にとどめる義務があり、いたずらに命を奪うことは法律で固く禁じられています。
Neuralinkが行なった実験で犠牲になった動物1,500頭のなかには羊280頭以上、ブタ、猿も含まれていました。さらにはラットやマウスを使った調査も行なわれています。いちおう内部資料と動物実験に携わる社員の証言なのですが、動物の実験体数と死亡数の記録は残っていないため、1,500頭というのは、おおまかな見積もりです。
また、Reutersが指摘した、ブタ86頭と猿2頭の命が奪われたとされる最近の4つの実験事例も、原因は人為ミス。失敗した実験では当局に報告できないので(臨床が先送りになってしまう)全部、一からやり直しです。こんな圧力釜みたいな職場環境じゃ準備も満足にできないと社内でも今年、不満の声が挙がっていました。
Neuralinkに強敵現る
焦るイーロン・マスクをさらに追い詰めたのが、歩けない人がふたたび歩けるようになったというスイス工科大学研究班のニュースです。バイク事故で脊髄が切断され脚がまひしてしまったイタリア人男性のMichel Roccatiさんが、脊髄に6cmの電子インプラントを施すことで歩行能力を回復したという奇跡のような話。
BBCやFrance 24がこぞって報じましたけど、イーロンも2月には関連記事を社員に送りつけて「今のスピードじゃ全然間に合わない。発狂寸前だ!」と檄を飛ばしていたそうです。
社内には、ひとつひとつの実験結果を確かめてから大規模な動物実験に進めばいいと上司に直訴する社員もいたのだけど、そういう穏当なアプローチを望む声はかき消されていったと言います。
「頭に時限爆弾くくりつけてると思って急げ」
代わって社員に浴びせられるのはイーロン・マスクからの絶え間ないプレッシャーです。ここ何年かは、事あるごとに「頭に時限爆弾くくりつけてると思って急げ」と社員を励ますのが常で、さもないとチームごと解散と匂わすような発言もあったそうですよ?
実験ミスの内訳
そんななか、カルフォルニア大学デイビス校と共同で行なった動物実験では、手術用組織接着剤を2回誤って使用し、猿2匹が苦悶のすえ死亡しているとして、動物保護団体「責任ある医療のための医師委員会」が今年2月、米農務省に苦情を申し立てています(Neuralink側は術後の経過がすぐれないことによる安楽死であったとし、接着剤そのものは合法と反論)。
さらに2021年には頭に埋め込むチップのサイズを間違えてブタ60頭に埋め込み、25頭が死亡。これじゃFDAから人体臨床実験の許可は下りないと、羊36頭で実験をやり直しましたが、こちらの羊も全員死んでしまいました。
ほかにもインプラントの埋め込み部位を間違えたブタ2頭のうち1頭が安楽死となったケースもあるようです(Reuters)。
人体の臨床でも追い越される
11月30日のプレスイベントで「あと半年で人体臨床だ」「動物実験は最終段階にのみとどめている」とイーロン・マスクは発表しましたが、あのときも、発表内容に合わせて実験名目の書き換えなどが行なわれていたという証言も…。なかなか見通しは暗いです。
これだけ急いでいるのに、人体臨床でもNeuralinkと同じ2016年創業のSynchron社に追い越されて、イーロンが買収提案したりしてますしね…。Synchron社が開発するのは、体の不自由な人が「考えるだけで文字入力できるシステム」ですので一概には比べられないけど、動物実験で出た犠牲は羊80頭ほどで、Neuralinkの1,500頭とは桁が2つも違います。
もっと石橋叩いて渡ったほうが結果的には政府の心証もいいだろうし、許可の早道につながるんじゃ…。
Source: Reuters