なんだかお弁当が食べたくなりました。
6組のクリエイターが映像を公開してそれぞれの人気を競うという企画「ゼロ動」の中で発表された映像の1つ、「HANDMADE HOMETOWN」を見たからなんです。
SEIYUの「プライスロック」というテーマ以外は全くの制約なし、というこのプロジェクト、ドキュメンタリズムにこだわったというのは、1-10HOLDINGSのクリエイティブディレクター富永省吾さんと、プランナーの綿野賢さん。6人の男女が10年ぶりに実家のお母さんの手作りお弁当を食べ、過去の記憶と再会するという内容で、美しい映像とともに“ガチ”で、ドキュメンタリーとして綴られていきます。なんでドキュメンタリーなんでしょうか? ギズモードは今回、そこに注目しました。
世界最大級とも言われる「カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル」の一環として行われた “LIONS Health”でブロンズ賞を受賞するなど、国内外の広告界が注目する気鋭のお2人に、“なんの制約もなし”という依頼にどのように向き合っていったのか、お話を伺いました。
"エラー"を意図的に生んだ

綿野賢さん(写真左)と富永省吾さん(同右)
ギズモード 最初のオリエンテーションは、どういったものだったんでしょうか?富永さん 表現するにあたり、言葉なり思想なり何でもいいので訴求してくれ、と。綿野さん 公序良俗に反するとかはNGだけれども、基本はお任せします、というオリエン内容でした。ギズモード じゃあ、何をやってもいい?富永さん そうですね。“どう訴求するか?”というのは任されている状況でスタートしました。ギズモード そのオリエン後に、2人でどんなことを話されたんでしょうか?綿野さん 最初に“やらないこと”を考えました。そもそもSEIYUさん本来のイメージも結構あるじゃないですか? そういうのも鑑みつつ、どういう企画はダメか?という判断軸を最初に設定していきました。富永さん 通常の仕事でもやらないことから決めたりはしますね。ギズモード ちなみにそのとき決めた“やらないこと”ってどんなことでしょうか?富永さん この形式自体が、ショーケース的な要素が多分にある企画だと思ったので、従来の訴求方法……そういうことをまんまやっても意味がないと思ったんです。SEIYUという人格は既に培われているので、そのSEIYUがどういう一面を見せたら、良いアテンションになるのか?と考えました。従来のコミュニケーションの一環でお願いしますというのであれば、もちろんそこのブランドマネージメントをしつつ、アウトプットを選ぶんですが、今回はそういう立ち位置のものではないので、そこを逆に利用してというか……。綿野さん 意図的にそれを選択した感じですかね。ギャグものをやってもしょうがないだろうと。僕らがこの企画をやる意味は、という状況分析から入りました。富永さん 普段のお仕事でこの話が来ていたらまた違いましたけど、今回に関しては、“まんまのこと”をやっては意味がないし、恐らく違うものを求めてるから、広めにオリエンテーションしていたんでしょうね。今までのSEIYUの類型的な表現は求めてないという。綿野さん SEIYUが築き上げてきたものの流れに乗っかるものではなく、 “エラー”でありたいと思ったんです。富永さん エラーを意図的に生んだというのが、分かりやすいかな。“ザCM”というトーンにはしたくなかった

“記憶との再会”がテーマ
ギズモード 実際にお弁当を作っていただいているわけですが、何かリクエストはありましたか?富永さん 撮影だからって気合いを入れないようにと(笑)。残り物を入れていたのであれば、包み隠さず残り物を入れてほしい、特別豪華にしないでくださいというリクエストですね。綿野さん 当時の感じを出さないといけないですから。富永さん “記憶との再会”なので、その素材はより精度が高い必要がある。ギズモード キャストは登場される方が全員ですか?綿野さん そうです。ギズモード では、皆さん、きちんと当てられたわけですね?富永さん そうですね。ギズモード 当てられない可能性もあったわけですよね?綿野さん もちろん、そうですね。ドキドキしながら撮影してました。富永さん 予想以上にお弁当の見た目が似ちゃっていて、“これ、みんな当てられるのかな?”と正直不安でしたね。ただ、みんな当てるんですよ、没個性的なお弁当でさえ。ビックリしましたね。味とか組み合わせとか、いろいろな要素があると思うんですけど。綿野さん みんなすごく緊張していましたね、当てられるかどうか分からないから。出演者もドキドキしていて。富永さん モニター見ながら“当てた〜!”って騒いだりして(笑)。5分くらい悩んでいる人もいましたしね。みんな最初は分からない、当てられないって言っているんですけど、結局食べたら…… “記憶の再会”が起こって、そこにスペクタクルがありましたね。お弁当=プライスロックが持つ価値
ギズモード 皆さん10年ぶりくらいに食べたわけですよね?綿野さん それこそ高校生の時に食べてたとかですね。富永さん 最後の人は緊張してたよね(笑)。前の5人が当てたっていう情報が入ってたから。ギズモード この作品は、ほかにも何本も見たくなります。富永さん この映像の特殊なところは、ターゲットが複数あることなんです。お弁当を作っている人はもちろん、作ってもらっていた人も……それぞれの感想があるのが興味深い。綿野さん 事前にさまざまな人に「お弁当を当てられると思うか」と意見を聞いたら「どうだろうな〜?」という意見が大半だったんです。ギズモード 各国版があっても面白そうですね。綿野さん そうですね。確かに。富永さん 予算があれば……(笑)。綿野さん お弁当文化が普及してきているんですよね。だからこの映像がより響く状況にはなっているのかなと思います。

コンテンツを作るためにやめたこと……
SEIYUは広告なのに、クリエイターの感性にすべてを委ね、細かい意図の伝達や制約の反映をやめました。
一方1-10のお2人は意図的に既存のコミュニケーションをやめました。
お弁当を通じて記憶との再会をする人たち……「HANDMADE HOMETOWN」を見ていると、目頭が熱くなる瞬間があります。自分なら当てられるだろうか? そんなことも考えてしまいました。6人が自分ちのお弁当を当て、歓喜する姿をご覧ください。
source: ゼロ動
(ホシデトモタカ)