何がどう「フラット」なのでしょう。
WWDCはもうすぐそこ。ジョナサン・アイブ氏が率いる新iOS 7、今までとはガラリとデザインが変わると言われています。その新デザインのキーワードとなっているのが「フラットデザイン」さて、一体どんなものなのでしょうか。
フラットデザインとは、デザイン哲学である
例えばデスクトップ、iPhoneの電卓、またはiPadのニューススタンド。これらは全て、その見た目もネーミングも現実で使っている物理的なアナログ端末をそのまま模したもの。物理的なデザインをそのままデジタルの世界に持ってきているもの。しかし、デジタル化した時に、現実の端末が持っていたその細かいディティールやデザインは必要なものなのでしょうか? フラットデザインでは、不必要だと考えられています。
フラットデザインが重要視するのは、インターフェースにおけるシンプルさと明瞭さ
フラットデザインが重要視するのは、物理的デザインのディティールよりもGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)における効果的で機能的なスタイル。つまり、影やグラデーション、ベヴェル加工や反射は全て削除し、デジタルインターフェースとしての強みを前にだしたいという方向性。物理的な端末からの移行ユーザーだけに縛られるのではなく、デジタルにはデジタルの役目があると考えます。
例えばウェブデザインを考えるとわかりやすいですね。ウェブデザインでは、奥行きや影、テクスチャーが多用されることはなく、スクローリングや明確なデザインでコミュニケーションをとることが第一に考えられています。
今あるフラットデザインで良い例を挙げるとすれば、Google Nowでしょう。カードのような見せ方で、様々な情報を表示しています。アイコンの中に情報を押し込めるのではなく、ディスプレイ全体を使って切り替えていく。情報を読むのもスワイプして切り替えるのも実に簡単。
他には、Windows 8もフラットデザインの1つとして挙げられます。マイクロソフトのMetroデザインの後継として、タイポグラフィーや情報の伝え方に重きが置かれています。グラフィックはユーザーの手助け、あくまでもユーザーが読む情報は文字であるというコンセプト。
スキューモーフィックデザインの問題点へのリアクションとして
フラットデザインの台頭には、その対局にあるスキューモーフィック(Skeuomorphic)デザインの存在があります。スキューモーフィックデザインは、視覚的なトリックやディティール表現を用いて、あるものを別のあるものに見せようとすること。例えば、車ならウッドパネル風の内装デザインなんかがこれにあたります。ユーザーインターフェースにおけるスキューモーフィックデザインは、現実世界の物理的な機器にデジタルの世界のエレメントを似せようとするもの。これは現在広く使われており、例えばPinterestのボードや、アップルのアドレス帳のスティッチもこれにあたります。
影やグラデーションを多用することでデジタルな物をリアルに見せようとするスキューモーフィックデザイン
スキューモーフィックデザインは、そもそも1980年代に登場。例えば、アップルの初期コンピューターにおけるGUI。1984年に「デスクトップ」という概念を導入した時、アイコンには紙の束やバインダー/フォルダーの絵が用いられました。
当時は、コンピューターというものが異世界に感じられる時代だったので、現実のものをデジタル世界で再現するスキューモーフィックデザインには大きな意味と効果がありました。デザイナーにとって、すでに慣れ親しんだお馴染みの物と、コンピューターという新しい世界で使うデジタルの物を繋ぐための架け橋となった考え方だったのです。スキューモーフィックデザインは、多くの人々が新しい世界を学ぶための手助けとなりました。
しかし、コンピューターが広く浸透し、誰でもどこでもいつでも使えるユビキタスな存在となっていくにつれて、架け橋としてスキューモーフィックデザインを必要とする人は少なくなっていきました。逆に、画面を不必要に飾るだけの存在となってきたのです。新世代のデザイナーやユーザーにとって、もはや不要な存在。なぜなら、新世代ユーザー達は、すでにコンピューターがなかった時代のことなんて完全に忘れてしまっているのですから。
こう考えると、何も今までなかった新しい流れがでてきたわけではないのです。近代化する上で様々なシーンで何度も叫ばれ検討されてきたこと。機能のない不必要な装飾はいらない、その物や組織自体に対して真っすぐであれ、居心地の良さのためだけに偽りの表紙を作るな、それが近代化=モダニズムで叫ばれてきたこと。これが今、フラットデザインとしてコンピューターの世界に入ってきただけのです。
フラットデザインの後には何がある?
現在、コンピューターにおけるデザインはフラット化が進んでいます。しかし、だからと言ってこれからずっとフラットデザインが主流になるというわけではありません。例えば、1930年代にバウハウスやインターナショナルスタイル旋風がモダニズムとして吹き荒れましたが、その後には批判的地域主義(Critical regionalism)の主張が叫ばれました。コンピューターの世界でも同じ流れが起きるのではないでしょうか。先陣きって前衛的なフラットデザインが台頭した後には、また新たなデザイナーがそこに必要な要素を加え、奥行きのあるデザインを新展開していくのでしょう。
しかし、今この時はフラットデザインが中心にあります。アイヴ氏のフラットデザインがどのようになるか、実に楽しみです。
そうこ(KELSEY CAMPBELL-DOLLAGHAN 米版)