もっと早く使いたい!
Android使ってる人たちからよく聞く不満といえば、OSのアップデートが遅すぎるってことです。または、自分の端末用には結局アップデートされないってこともあります。ガジェット大好きでマメにニュースチェックしたりして、アップデート後のメリットを知っている場合、待つのはなおさら辛いです。もっといえば最新のデバイスでさえ、中身は最新のAndroidじゃない場合があります。Androidフラッグシップ機であるはずのVerizonのGalaxy Nexusだって、Jelly Beanへのアップデートがつい最近やっと可能になったんです。この状況はもうずっと続いているのですが、どうして改善されないんでしょうか? 米GizmodoがAndroid端末メーカーや携帯キャリア、そしてグーグルに話を聞き、何がアップデートを遅らせているのかを探りました。
アップデートに必要な3つのステップ
グーグルが新バージョンのAndroidをリリースした場合、それを実際ユーザーが使える状態になるまでは3つのステップが必要です。まずチップメーカーが、「フック」と呼ばれるOSとハードウェアの間のやりとりを可能にするコードを作らなきゃいけません。Androidのエコシステムにはチップメーカーがたくさん(クアルコム、テキサス・インスツルメンツ、Nvidia、サムスン、など)いて、各社が複数のチップを(たとえばクアルコムならSnapdragon S3、S4、S4 Proといった具合に)作っています。それぞれ開発にかかる時間は違いますが、たいていチップメーカーは新しいフックを1、2ヵ月で完成させます。
次に、それら一連のソフトウェア群が端末メーカーにやってきます。各デバイスは少しずつ違う部品で作られているので、新しいソフトウェアもそれぞれの機種ごとに少しずつ書き換えが必要です。たとえばサムスンなら、彼ら独自のTouchWiz UIをJelly Beanにくっつけて全デバイスに送りつければいいのかというと、そうはいかないってことです。
さらに各携帯キャリアにもそれぞれソフトウェアの要件があります。それはたとえばベースレベルの機能だったり、そのキャリア専用のアプリだったり(使われないものもありますが)します。また、端末メーカーがUIに施すカスタマイゼーションもあります。
サムスンのニック・ディカルロ氏によれば、彼らがアップデートされたOSを受け取ってからキャリアに完成版を渡せるまでに6~8週間かかります。小さなバグ修正程度のアップデートならもっと短期間で済みますが、逆に大きなアップデートであればもっと長くなる可能性もあります。
TouchWiz UIのような端末メーカーのサードパーティUI(スキン)は、アップグレードを遅らせる原因として槍玉に上がることが多いです。スキンが糾弾される理由は多分、最新のAndroidを載せてローンチするGoogleのNexusとの違いとして、目についてわかりやすいからです。
でも実際時間がかかるのは、Androidそのものをハードウェアのコンポーネントに合わせる工程です。「端末メーカーでのカスタマイズさえなければ、みんながグーグルからROMをダウンロードして終わり、とは行きません。それじゃ使えないんです。」HTCのドリュー・バンフォード氏は言います。「なのでカスタマイズしなかったとしても、アップデートを早められるかどうか、正直わかりません。」
スキンの問題じゃないとすると、何が遅さの原因なんでしょうか?
一番時間がかかる部分
ここからが3つのステップの3番め、素敵な携帯キャリアによるテストの世界です。キャリアは新しい電話全てをテストするだけでなく、既存の電話のソフトウェア・アップデートも全てチェックします。彼らは、各端末が彼らのネットワーク上でちゃんと動くことをしっかり確認しなきゃいけないんです。それがどれだけ大変かって、けっこう大変です。
「キャリアの資源は、人も時間も設備も限られています」サムスンのディカルロ氏は言います。「テスト範囲は膨大です。ネットワークはCDMAやGSMやLTEやマルチバンドや、来年にはVoLTEも登場...と多様で、地域によっても違います。なので全地域においてテストが必要になるんです。ネットワークテストの複雑さは尋常ではありません。」各キャリアには評価チームがあります。彼らはハードウェアの落下テストから、ユーザビリティ基準を使ったベンチマークテストまで行います。彼らはソフトウェアに自動操作をさせて、動作が遅くならないかといったことをチェックします。最終的にTA(Technical Acceptance、技術的承認)を出すために、彼らはその端末が彼ら自身の基準を満たしているかどうか確認する必要があるんです。
「我々はキャパシティの計画を立てたいんです。」と語るのはT-Mobileのジェイソン・ヤング氏です。「年間の見通しを考えて、TAを出すデバイスは6~12ヵ月前に予定を入れます。そしてそこから逆算してスケジュールを立てます。」そんなときテスト対象デバイスが増えてきたらどうするかというと、そう、優先順位付けです。今市場に出すべきデバイスを検討するんです。ディカルロ氏はこう語ります。
あるキャリアが、一度に評価対象としている電話が30機種、40機種あったとします。そうすると、既存ユーザーも含めると数百機種をサポートしなくちゃいけません。その中で、年末商戦目前に投入する最新機種のテストと、2年前の機種のOSアップデート、どちらを優先するでしょうか?」
その答えは明らかです。キャリアは結局、新しいデバイスを売り続けるビジネスをしているんです。もう売ってしまったデバイスに関しては、一番人気のある機種から手を付けることになります。最小のリソースで最大の顧客満足を得るには、それが一番だからです。要はその方がもうかるってことです。では、このキャリアの都合がアップデートのタイミングにどれくらい影響があるのでしょうか?
「新製品をキャリアにリリースするとき、我々は我々の研究所で6ヵ月間は動いていると言えます。」HTCのバンフォード氏は言います。「長期間かかることもあります」と言うのはT-Mobileのヤング氏で、新しいソフトウェアを入手してからユーザーが使えるようになるまでたいがい3~6ヵ月かかると言います。
チップメーカーによるフック開発、端末メーカーによるカスタマイゼーションはそれぞれ1~2ヵ月、1.5~2ヵ月でした。ということは、キャリアのテストも含めると、Androidがリリースされてから実際使えるまでに単純計算では9ヵ月もかかるってことです。しかもそれは、ある端末について端末メーカーとキャリアがリソースを割く価値があると判断した場合のみ可能になるです。
アップルはもっと早くできてるのに?
これはテクノロジー界最大の幻想のひとつです。アップルが新しいiOSを発表すると、たいてい1日か2日でダウンロードできるようになります。アップルがどうやってキャリアのテストを乗り越えているのかというと、実はそうじゃないんです。アップルだって、Androidの端末メーカーと同じように長期間のテストを乗り越えているんです。ただ違うのは、アップルはアップデートを発表する前にテスト期間を終えているってことです。
Sprintのライアン・サリバン氏はこう説明します。
アップルが「早い」とは思いません。それは単に、「早く見える」ということです。アップルがOSリリースを発表するときは、もうすぐ使える状態ですから。それはプラットフォームをコントロールしているからでもありますが、彼らが世界中250のキャリアとのネットワーク統合部分を担当するグループを持っているためでもあります。
Androidの場合は、グーグルがプラットフォームレベルのみ完成させてソフトウェアを発表して、そこから端末メーカーがネットワークとの統合レイヤーを作るんです。Androidは時間がかかるように見えますが、そんなことはありません。あるデバイスをネットワーク上で使えるようにするために、グーグルがやるのは半分までで、残り半分は端末メーカーとキャリアの仕事です。...最初から最後まで全体で見れば、iOSもAndroidもかかる期間はそんなに変わりません。ただ、発表するタイミングが違うだけです。
アップルに関してはもうひとつ、OSもハードウェアも自社で作っていることも有利に働いています。デバイスのコンポーネントがAndroidのODMメーカーほど多岐にわたらないので、OSを既存のハードウェアに合わせるのも自社ででき、より早く、シームレスにできます。この点では、Nexusにも同じことが言えます。グーグルは新NexusでAndroidがうまく使えるようメーカーと緊密に連携し、発表の前にキャリアのテストも完了するよう調整するからです。ただNexusの場合は、古いデバイスに関しては他の端末と同じようにキャリアのテストを経る必要があります。
大人の事情?
Androidを信じない人たちは、メーカーまたはキャリアはあえてソフトウェアアップデートを遅らせて、新しい端末を売ろうとしていると考えています。インタビューした会社でそれを認める人は当然いませんでした。でも現実には、そこまで腹黒い事情があるわけでもありません。
ここでも、リソースの優先順位付けが重要になります。メーカーにはたくさん社員がいて、それをどう使うべきか考える必要があります。古い機種にアップデートを適用する方が良さそうだと判断されるなら、彼らはそれを実行するはずです。でももちろん、優先されるのは新デバイスになります。もうすぐローンチされるものか、発売したばかりでまだ広告宣伝費もかけられているものです。そしてネットワークテストは網羅的なものなので、キャリアでも優先順位付けが必要です。が、キャリアが違えば現行デバイスのラインアップも違い、予定されている新機種も違うので、優先順位の付け方も違ってきます。
モトローラのプニット・ソニさんはこう言います。「キャリアは『このアップデートは非常に重要だから、受け取ったらすぐに評価対象にして全リソースをつぎ込みます』と言う場合もあります。逆に『順番待ちの3番めか4番めだから、テスト通過はもう少し待ってほしい』と言われる場合もあります。」
改善の見込みは?
この状況を改善するにはふたつしか方法はありません。まず企業側では、メーカーが発売するデバイスの数を少なくすることです。クレイジーな考え方のようですが、モトローラやHTCではそれが起こっています。ある時点から市場にはAndroidスマートフォンが出回りすぎていて、ユーザーにとってもわかりにくいことになっています。デバイスを統合していくことで、HTCとモトローラは大事な機種にフォーカスできます。そうすると理論上は、デバイスが少ない分リソースも集中しやすくなるはずです。
キャリアでテストするデバイスが少なくなれば、全体のスピードアップにもつながるはずです。ただし一部のメーカーが端末数を減らしたくらいではキャリアがサポートする端末数は減らず、つまりキャリア内での優先順位付けの問題は残ります。
ユーザー側も何もできないわけじゃありません。今出回っているほとんどの電話はroot化できます。Androidをroot化する最大の理由のひとつは、いつでも最新のアップデートをダウンロードして、キャリアの正式アップデートより何ヵ月も先行できるってことです。もちろんroot化すると、安全が保証されていないソフトウェアを入れてしまうことにつながり、リスクもあります。なので、ソフトウェアの提供元やレビューの情報をよく確認する必要があります。
そうでもしない限り、今度リリースされるKey Lime Pieがどんなに良さげでも、ありつけるのはかなり先になりそうです。
Brent Rose(原文/miho)