ソ連の「ロボット犬」と「双頭の犬」研究、その陰にあった功績とは(動画あり)

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  • author 福田ミホ
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ソ連の「ロボット犬」と「双頭の犬」研究、その陰にあった功績とは(動画あり)

最近、ロシアのコミュニティサイトStepashkaに、ある古い論文がポストされました。といってもどうやらフェイクなんですが、その内容は1950年代のソビエトで行われていたフランケンシュタインも真っ青の研究に関するものでした。

モスクワ大学とソ連科学アカデミーが、スターリンの創設した極秘施設で犬の頭を搭載したロボットの開発をしていたというものです。そしてその研究チームを率いていたとされるのは、ウラジミール・デミコフ博士です。

以下がその論文の画像です。

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この「論文」そのものはフェイクのようです。でも1950年代のソビエトでは、犬の頭ロボットを作ろうとしていたとしてもおかしくないような、ある研究が行われていたのです。

・デミコフの研究

上の論文で研究チームのリーダーとされたウラジミール・デミコフ博士は、ソビエトに実在した科学者です。彼は犬を使った実験を繰り返し行っていました。犬の体から頭だけ切り離して生かし続けたり、頭を別の犬の体にくっつけて双頭の犬を作ったりしていたのです。

彼は1916年に生まれ、1930年代から50年代にかけて臓器移植の実験で知られました。彼は第二次世界大戦中に赤軍病院で軍医を務めた経験がありました。戦時中、負傷兵の傷を縫合したり手足を切断したりしている中で、彼はある考えを持つようになりました。それは、心臓や肺も移植できるのではないか、という考えでした。

そんな彼の考えに賛同する人はほとんどいませんでした。その頃はまだ臓器移植なんてクレイジーだと思われていたのです。なので、研究に協力してくれたのもクレイジーな人でした。スターリンです。第二次大戦後、スターリンが極秘の医療施設を創設し、そこで臓器移植と生命延長のための実験が行われたのです。

その研究所でデミコフは動物間での心臓および肺移植に成功し、1960年には移植学において最初の小論文となった「重要臓器の実験的移植」を発表しました。彼は現在の移植学につながる重要な業績を残したのです。実際、人体で初の心臓移植に成功したクリスチャン・ニースリング・バーナード博士も、デミコフをその師とあおいでいました。

・犬の頭の移植

でもデミコフを世に知らしめたのは、内臓ではなく犬の頭の移植実験でした。

犬の頭部の移植手術に初めて成功したのは、ヴォルゴグラード州立医科大学におけるデミコフの同僚A・G・コネフスキー教授でしたが、その後デミコフも犬の頭の移植を繰り返し行いました。

(※以下の動画はその移植手術と手術後の様子なので、そういったものが苦手な方はクリックしないでください。)

彼は移植だけでなく、頭や足などを別の犬にくっつける実験も行いましたが、実験後の犬は長くても数ヵ月しか生きられませんでした。

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こうした研究はアメリカの医師ロバート・ホワイトを刺激し(彼もまた第二次大戦中は軍医でした)、ホワイトも同様の実験をアカゲザルに対して行いました。

一連の研究はソ連とアメリカの間の競争となったのです。ホワイト医師にもまた独特の発想があり、たとえば脳の移植によって、意識を体から別の体へ移植できるのではないかと考えていました。そんな発想は結局実現されませんでしたが、ひょっとしたらDARPAあたりで実験されたことはあるのかもしれません。

こうした奇怪な実験結果が注目された半面、その後数百万の命を救うことになる臓器移植のさきがけとしてのデミコフは、あまり知られていません。彼は1998年、貧困の中でひっそりと亡くなりました。

[Stepashka]

Jesus Diaz(原文/miho)