残念ながら、同じロジックは日本の宝くじには使えなさそうですが...。
北米では、宝くじは年間700億ドル(約5.7兆円)産業です。これは、映画興行と音楽とポルノを全部合わせたよりも大きな市場です。そんな宝くじ産業の根幹を揺るがす事件がありました。地質統計学者のモハン・スリヴァスタヴァさんが、カナダのスクラッチ式宝くじで「当たり」の券を見分ける方法を発見してしまったのです。
今月号のWIREDに、スリヴァスタヴァさんの話が載っています。彼は普段、金鉱の候補となった鉱山で採掘された石のサンプルを見て、その山でどれだけ金がとれそうか判断する仕事をしています。その仕事のときと同じ頭の使い方で、彼はカナダのTic-Tac-Toeというスクラッチ式宝くじの当たり券を90パーセントの確率で見破る手法を編み出しました。
その手法の前に、Tic-Tac-Toe(や、北米でよく使われているスクラッチ式宝くじ)の仕組みを説明します。冒頭の画像にあるように、チケットは縦にふたつに分かれていて、左側がスクラッチ、右側が数字の羅列になっています。左のスクラッチの下には複数の数字が隠れています。「当たり」になるのは、「左側に現れる数字のどれかが右側で3つ並んでいる」ときです。ちなみに冒頭の画像右側が「当たり」の状態です。
当然、スクラッチの中の数字を見なければ、当たりかどうかはわからない仕組みです。でも、スリヴァスタヴァさんはスクラッチを削らなくても当たりかどうか見破れるようになってしまったのです。どんな方法だったんでしょうか?
トリック自体はすごくシンプルです。(スリヴァスタヴァさんはこれを8歳の娘にも教えていました。)宝くじ券には3x3のTic-Tac-Toeボードが8つ、つまり数字が入っているマスが72個あります。マスには1から39までの数字どれかが入っています。
72のマスに対し、数字は39ということは、数字の一部は複数回登場します。たとえば17は3回とか、38は2回とかです。そして一部の数字は、カード全体で1回しか出てきません。
スリヴァスタヴァさんはここで、各数字が出てくる回数を見るだけで、当たるチケットと外れるチケットを見分けることができます。言い換えると、彼から見るとTic-Tac-Toeボードに出てくるのは72個のランダムな数字の羅列ではないのです。彼はマスにある数字を出現頻度でカテゴライズ、つまり、ある数字が何回そのチケットに出現するかを数えます。「数字そのものはほとんど意味がないんです」と彼は言います。「ある数字が繰り返し出てくるかどうかが、ほぼすべてです。」
スリヴァスタヴァさんは、「ひとりっ子」すなわち72のマスに1回しか出てこない数字に着目しました。彼は、ひとりっ子はほとんどいつもスクラッチの下の数字であることに気づいたのです。つまり、もし8つのTic-Tac-Toeボードのどれかに、ひとりっ子が3つ並んでいたら、その券がおそらく「当たる」ということです。
彼は実際に何回も宝くじを購入して、この方法が90パーセントは当たることを確認しました。それなら、もうそれだけで大金持ちになれるんじゃないか? とつい思ってしまいますが、彼は冷静でした。彼の試算によると、宝くじで稼げるのは1日600ドル(約4万9000円)で、彼の今している仕事の方が収入が多かったのです。しかもあまり楽しくもないしと考えたので、彼は宝くじを運営しているOntario Lottery and Gaming Corporationにこのくじの危険性を警告しました。そしてこのくじはすぐに店頭から回収されたのです。
でも、Tic-Tac-Toeは氷山の一角です。スリヴァスタヴァさんは他の同様の宝くじでもこの「ひとりっ子」トリックを使うと当たりを見分けられる確率が少なくとも2倍になったとしています。大手宝くじ事業者Gtech Printingの社長ロス・ダルトンさんはWIREDに対し、こうした脆弱性は大問題なので「つねに暗号化と保護のための新しい手法を模索している」と語りました。でも、スリヴァスタヴァさんのような頭脳があれば、完全に守り切るということは、難しそうですね。
[WIRED]
Kyle VanHemert(原文/miho)