2024年10月4日、phaさんの新刊『パーティーが終わって、中年が始まる』刊行を記念したトークイベントが紀伊國屋書店新宿本店にて開催されました。対談のお相手は『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(コミック版も発売中)などの著書があるライターの藤谷千明さん。phaさんは1978年生まれ、藤谷さんは1981年生まれと、ほぼ同世代の2人。
「中年たちが助け合って生きるには?~インターネット・シェアハウス・老後~」と題されたイベントでは、まさにタイトル通り、インターネットの今昔、人と共に暮らすこと、そして老後の展望まで、お二人ならではのお話が展開されました。ライター・斎藤岬さんによるレポートを2回にわけてお届けします。
凡人は計画を立てて取り組む
phaさんは28歳のときにインターネットで知り合った仲間とシェアハウス生活を始め、「ギークハウス」と名付けられたその生活ぶりが注目を集めました。そして2019年、40歳になったタイミングでシェアハウスを解散し、現在は一人暮らしをしています。『パーティーが終わって、中年が始まる』は、40代を迎えたphaさんが中年になった自分とどう向き合うかをつづったエッセイです。
一方、藤谷さんは2019年から現在に至るまで、やはりインターネットを通じて知り合った友人と4人でルームシェアをしています。藤谷さん自身はルームシェアを始める際に「インターネットの人たちに声をかけて共に暮らす」先行事例としてギークハウスの存在が頭にあったそう。「ただ、個性派揃いのギークハウスと違って我々は凡人なので『ちゃんと計画を立てて取り組もう』と思ってました」という藤谷さん。
逆にphaさんは『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』を読んで「僕ができなかった、ちゃんとしたシェアハウスだと思った」と言います。
「僕は信頼できる相手と信頼に基づいた共同生活ができる気がしなくて、そこから逃げてました。とにかくわけのわからないヤツを集めてめちゃくちゃになればいい、ってことしか考えてなかった」
phaさんはインターネットみたいなシェアハウスを作りたかった
めちゃくちゃになりたかった理由として、phaさんは当時のインターネットが持っていた空気感をあげます。
「いろんな人がガチャガチャやっていて、いろんなイベントが起きるカオスなインターネットが大好きだったから、それをそのまま家にしたかった。かつてのインターネットでは『いろんな人が自分の持っているものを最大限にシェアしたら、いいことが起きるはずだ』『オープンであることは素晴らしい』と信じられていたんですよね。だからシェアハウスには誰でも遊びに来ていいし、玄関も開けっ放しで知らない人が毎日やってくるような状態にしていたんです」
Windows95が発売された1995年が日本におけるインターネット元年といわれます。マスメディアを通さずとも個人が好きなことを発信できるようになったのは、革命的な変化でした。その頃10代だった2人は、そこで育まれた文化に大きな影響を受けました。「誰にも頼まれていないのにみんなが勝手にテキストを書いて読んで、超楽しい! ってなってましたよね」と藤谷さんが言うと、phaさんも「お金とか関係なく書かれたものにたどりついて、それをきっかけに人と知り合えた」と当時を振り返ります。
ですが、そんな風景は今や失われてしまいました。『パーティーが終わって、中年が始まる』では「今のネットはいつも争いや炎上があふれていて、とても疲れる場所になってしまった」と記されています。「僕も、インターネット的なシェアハウスは楽しいけど『なんか疲れたな』ってなっちゃって。今はオフラインのほうが面白かったり、自由に話せる感じがありますね」というphaさんの言葉に、深くうなずくお客さんも。
藤谷さんは「パソコンを買える財力とリテラシーがある人だけが参加できていた当時に比べて、スマホで誰もが参加できるようになった今のインターネットのほうが、オープンという意味では本来の理想に近いはず。でも『思ってたんと違う』にはなってますよね」と言葉を添えました。
出自が“インターネット的”すぎることの悩み
そして話題は、インターネットに出自を持つ物書きならではの悩みへ。藤谷さんは今、自分の文体が“インターネット的”すぎるのではないか、と迷っているそうです。
「自分の本のAmazonレビューを読むと、『この年齢でこの文体?』と書かれていることがたまにあるんですよ。それはもっともな指摘で、やっぱり“中年の文体”みたいなものがあるのかなと思うんです。でも私は日常生活でも『ンゴねぇ』とか言っちゃうんで……」
ネット文体がいかに染み付いているかを明かす一言に、笑いが起きます。phaさんは数年前に同じようなことを考え、『パーティーが終わって、中年が始まる』を書く際には“中年っぽい”文体を意識したとのこと。「だから藤谷さんも、これから変えてもいいかもしれないですね」と応じます。一方、phaさん自身が今悩んでいるのは筆名について。
「インターネットっぽくないこと、普通っぽいことを書くようになってきたら、この名前を名乗ってていいのかな? って気がしてきていて。もっと人間っぽい名前のほうがいいんですかね。ジジイになって『pha』だったらおかしくないですか?」
この問いかけに藤谷さんが「逆に面白くないですか? 〈pha、ここに眠る〉って、墓にも彫ってほしいですよ」と返すと、会場は笑いに包まれました。
イベントではさらに、「人とともに暮らすこと」そして「老後にどう備えるか」にまで話は及びました。レポートの後編でお伝えします!
(文・斎藤岬)
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元「日本一有名なニート」phaさんによるエッセイ『パーティーが終わって、中年が始まる』について