2024年8月、プリマス大学心理学部の研究者らを中心に行われた、テーブルトークロールプレイングゲーム(TRPG) が自閉症の人々の孤独感や社会的孤立の解消に役立つ可能性がある、とする研究結果が学術誌「Autism」に掲載されました。
推定で世界中で約100人に1人の子供が自閉症と診断される現在、自閉症の傾向をもつ人は幼少期と成人期の両方で孤独を経験し、社会的なつながりが希薄になりがちです。この研究は、医療専門家から自閉症の診断を受けた20歳~34歳の8人の参加者が2つのグループにわかれ、『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』のシナリオ「ウォーターディープ: ドラゴンハイスト」の6つのセッションをプレイ。長年の『D&D』プレイ経験をもつ研究者がGMとインタビュアーを務め、ゲーム後に1人30分程度のインタビューを受けるというものでした。
研究によれば、自閉症の人の多くは定期的なグループやクラブに参加したい、社会とのつながりを感じたい意欲はあるものの、暗黙のルールを理解するのが難しく、日常生活ではさまざまな偏見・軽蔑を経験。また自閉症の特徴を隠すためにほかの人々より多くの“仮面”をつける必要性が、さらにメンタルヘルスの悪化のリスクを高めています。
キャラクターに感情を注ぎ、異なるペルソナを演じられるTRPGの効能
しかし、『D&D』をプレイする間はキャラクターの役を演じる=ロールプレイをすることで、自閉症の有無は問題とならない状況が生まれます。GMは共通の目標に向けてルールを公開しプレイヤーの行動に制約を設定しますが、『D&D』では協力プレイが奨励され、議論はオープンで公平。すべてのメンバーが平等に発言権を持つ世界が構築できます。
もし自閉症ではないプレイヤーと遊ぶ場合でもゲームと言う共通言語により(悩ましい)雑談の必要がなく、他の人の話を遮って話してしまう不安、会話を始める適切なタイミングに悩むことなくリラックスできるとのこと。
また、ロールプレイはさまざまなペルソナを演じ、異なる性格を試すことで世界観を広げるだけでなく、普段の自分をキャラクターに溶け込ませることで、自分自身についてより深く学ぶことができ、こういったゲーム内での「成功体験」が自閉症の人々のメンタルヘルスの改善に特に有益であると論文では述べられています。
研究の参加者たちは自分が演じるキャラに感情を注ぎ込み、『D&D』の物語によくある「悪」を克服し、弱かったり不利な立場にいたりする場合でも隠れた力、強み、利点を見つけるというゲーム内成功体験を通じ、自信やその他のスキルも身に付け、現実の日常生活にこういった側面を適用しようとしているとのこと。
では、類似点の多いビデオゲームで同じ効果が得られないのか?という点について、自閉症のゲーマーを対象とした調査でによれば、他者と関わるオンラインゲームにも同様の効果がある反面、時間を湯水のように費やしてしまう中毒性を持つ欠点が挙げられています。
もちろん自閉症の人全員に当てはまるわけではありませんが、『D&D』を始めTRPGには自閉症の人々に前向きな経験をもたらし自信を持たせ、有益な効果をもたらす可能性を研究結果は示しています。