令和6年11月22日
金融庁

監査法人の懲戒処分について

金融庁は、令和6年9月6日、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)から、爽監査法人(法人番号1010005005430、以下「当監査法人」という。)に対して行った検査の結果、当監査法人に対する行政処分その他の措置を講ずるよう勧告を受けました。

同勧告を踏まえ、金融庁は本日、下記のとおり、当監査法人に対して公認会計士法(昭和23年法律第103号。以下「法」という。)第34条の21第2項に基づき、以下の処分を行いました。

1.処分の概要

(1)処分の対象

爽監査法人(法人番号1010005005430)(所在地:東京都千代田区)

(2)処分の内容

業務改善命令(業務管理体制の改善。詳細は下記3.参照。)

2.処分の理由

当監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、令和6年9月6日、金融庁は審査会から行政処分勧告を受け、調査を行った結果、下記ア.からウ.までに記載する事実が認められ、当該事実は法第34条の21第2項第3号に規定する「運営が著しく不当なものと認められるとき」に該当する。

ア.業務管理態勢

当監査法人は、経営理念として、「公平公正であること」、「誠実であること」及び「質の高い専門集団であること」の三つの基本方針を掲げている。また、被監査会社のビジネスのニーズに応えるべく、厳正かつ公正なハイクオリティの業務を実施するとの理念の達成に向けて、監査の品質管理を重視しているとしている。

しかしながら、統括代表社員兼品質管理担当責任者は、過去の協会による品質管理レビューでの指摘事項に対応しさえすれば、法人全体の監査品質は適正な水準に維持されるものと思い込むなど、適正な水準の監査品質の確保に向けた実効的かつ組織的な業務管理態勢及び品質管理態勢を整備・運用することに対する意識が著しく不足している。このため、統括代表社員兼品質管理担当責任者は、品質管理に関する方針及び手続を整備する必要性について十分に認識していないほか、既存の方針及び手続の運用状況について把握・検証していないなど監査品質の改善に向けた実効的な施策を講じておらず、監査品質の確保に向けた、品質管理態勢の整備・運用に係る責任者としての役割を十分に果たしていない。

また、統括代表社員兼品質管理担当責任者は、豊富な実務経験を有する社員が各監査業務の業務執行社員として選任されているとの認識から、各社員を過度に信頼し、各社員が実施する監査業務の品質には特段の問題がないものと思い込んでいる。このため、統括代表社員兼品質管理担当責任者は、自らを含む監査実施者において、監査の基準並びに現行の監査の基準が求める品質管理及び監査手続の水準に対する理解が不足していることを認識できていない。

さらに、各社員は、個人事務所等における非監査業務と当監査法人の監査業務を並行して実施する中で、法人全体の監査品質の改善・向上を図る意識が希薄なものとなっている。このため、各社員は、監査調書の査閲、監査業務に係る審査、定期的な検証、品質管理レビューでの指摘事項に対する改善施策等の実施に際し、法人全体の監査品質の改善・向上に向けた、社員としての役割を十分に果たしていない。

こうしたことから、下記イ.に記載するとおり、品質管理態勢において、情報セキュリティに関する内部規程の運用、品質管理レビューでの指摘事項の改善状況、社員の評価・報酬等、及び監査業務に係る審査に関して重要な不備が認められるほか、広範かつ多数の不備が認められる。

また、下記ウ.に記載するとおり、今回の審査会検査で検証対象とした全ての個別監査業務において、業務執行社員及び監査補助者に監査の基準に対する理解が不足している状況並びに被監査会社の会計処理等に対する慎重な検討が不足している状況が確認され、それらに起因する重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められる。

イ.品質管理態勢 

(情報セキュリティに関する内部規程の運用)

当監査法人においては、自ら定めた情報セキュリティに関する内部規程に反する以下の状況が認められる。

(ア)法人全体の情報管理に係るセキュリティ責任者並びに監査法人の情報システム及び各監査業務に係るセキュリティ担当者を任命していない。

(イ)職員が、被監査会社から入手した電子データを各人の個人PCに保存しているほか、社員及び職員が、個人のメールアドレスに、当監査法人の業務に関連する電子メールを転送している。

(ウ)各社員・職員が情報セキュリティに関する内部規程等を遵守しているか否かについて、点検や内部監査を実施していない。その結果、上記のような情報セキュリティに関する内部規程の違反事例が検出・是正されていない。

(品質管理レビューでの指摘事項の改善状況)

当監査法人は、協会が実施した令和3年度品質管理レビューにおいて、品質管理態勢及び個別監査業務に関する重要な不備を含む複数の不備を指摘されている。また、令和4年度品質管理レビューにおいて、個別監査業務に関する複数の不備を指摘されている。当監査法人は、自ら実施した根本的な原因の分析結果に照らし、令和3年度及び令和4年度品質管理レビューでの指摘事項への対応措置を講じたとしている。

しかしながら、今回の審査会検査で検証した個別監査業務において、令和3年度及び令和4年度品質管理レビューでの指摘事項と同様の不備が複数検出されており、当監査法人における当該品質管理レビューでの指摘事項に対する改善は、不十分なものとなっている。 

(社員の評価・報酬等) 

品質管理基準報告書第1号「監査事務所における品質管理」(平成31 年2月27 日)において、監査事務所は、業務の遂行に必要な適性、能力及び経験並びに求められる職業倫理を備えた十分な専門要員を確保するための方針及び手続を定めなければならないとされている。

しかしながら、当監査法人は、社員への登用基準等の社員登用に関する規程を整備していないほか、社員評価に関する方針及び手続を定めておらず、社員評価を実施していない。

また、当監査法人は、社員報酬に関する方針及び手続を定めておらず、各社員の報酬額の決定に際し、各社員の監査業務の品質等に関する評価を反映させる態勢を整備していない。

さらに、当監査法人の社員会は、業務執行社員の選任に当たり、各社員の品質管理能力を考慮していない。

(監査業務に係る審査)

当監査法人は、審査担当社員を選任するに当たり、審査担当社員としての役割を担うために必要とされる知識、経験、能力等を保持しているかについて評価しておらず、審査担当社員としての適格性について検討していない。

また、審査担当社員は、監査チームが実施した実証手続、会計上の見積りや不正リスク対応等に係る監査手続に関し、監査チームとの討議や関連する監査調書に基づいた検討を十分に行うことなく、監査チームによる重要な判断及びその結論には問題がないものとして審査を完了させている。このため、審査担当社員は、今回の審査会検査で検証対象とした個別監査業務において検出された重要な不備を含む複数の不備を、審査において指摘できていない。

このほか、内部規程の整備及び運用、法令等遵守態勢、情報管理態勢、職業倫理及び独立性、監査契約の新規の締結及び更新、監査補助者の評価及び報酬、監査補助者に対する指示・監督及び監査調書の査閲、専門的な見解の問合せ並びに品質管理のシステムの監視に不備が認められる。

このように、当監査法人の品質管理態勢については、検証した範囲において、情報セキュリティに関する内部規程の運用、品質管理レビューでの指摘事項の改善状況、社員の評価・報酬等、及び監査業務に係る審査に関して重要な不備が認められるほか、広範かつ多数の不備が認められており、著しく不適切かつ不十分である。

ウ.個別監査業務

業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準及び現行の監査の基準が求める手続の水準の理解が不足していたことから、自らが実施した監査手続で十分であると思い込んでいた。

また、業務執行社員及び監査補助者は、監査業務に費やすことができる監査資源(時間)が不足していたことから、リスクの水準に適合した適切な監査手続が実施されているかについて慎重に検討しなかった。
さらに、業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社の状況等に変化がなければ、過年度と同様にリスク評価や実証手続を実施することで十分であると思い込んでおり、リスク評価やリスク対応に係る手続を見直す意識が不足していた。

くわえて、業務執行社員は、監査補助者を過度に信頼していたことから、監査補助者が適切に業務を実施しているものと思い込み、監査補助者に対する適切な指示・監督及び監査調書の深度ある査閲を実施する意識が不足していた。

これらのことから、収益認識に関する不正リスク対応及び棚卸資産の評価に係る監査手続が不適切かつ不十分並びに固定資産の減損に係る監査手続、退職給付に係る検討及び売上高に係る実証手続が不十分といった重要な不備が認められる。

上記のほか、棚卸資産の評価、固定資産の減損、監査サンプリング、棚卸資産残高の正確性、棚卸立会及び重要な構成単位に係る監査手続並びに売上原価及び買掛金に係る実証手続が不十分、さらに、子会社に対する売掛金と仮受金の相殺処理、店舗に係る資産除去債務、事業計画、繰延税金資産の回収可能性、企業作成情報の信頼性、表示及び注記、内部監査人の作業の利用並びに内部統制の評価範囲に係る検討が不十分、くわえて、経営者に対する質問、財務諸表全体レベルの不正による重要な虚偽表示リスクへの対応、実証手続の実施、虚偽表示に対する内部統制の不備の評価及び監査役等とのコミュニケーションが不十分といった、広範かつ多数の不備が認められる。

このように、検証した個別監査業務において、重要な不備を含む広範かつ多数の不備が認められており、当監査法人の個別監査業務の実施は著しく不適切かつ不十分なものとなっている。

3.業務改善命令の内容

(1) 法人代表者は、組織的に監査の品質を確保する必要性を十分に認識し、現行の監査の基準や、監査の基準が求める手続の水準に対する理解を法人内部に浸透させるなど、十分かつ適切な監査業務を実施するための環境整備に向け、貴監査法人の業務管理体制の改善に主体的に取り組むこと。併せて、各社員に対して法人全体の監査品質の改善・向上を図る意識の改善を図る態勢を整備すること。

(2) 法人代表者は、公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)の検査及び日本公認会計士協会の品質管理レビューにおいて指摘された不備の根本原因を十分に分析したうえで改善策を策定及び実施するとともに、改善状況の適切な検証ができる態勢を整備すること。併せて、情報セキュリティ責任者の任命や情報セキュリティに関する内部規程等を遵守しているか否かについての点検や内部監査の実施等が着実に行われるよう実効性のある措置を講じるなど、貴監査法人の品質管理態勢の整備に責任を持って取り組むこと。さらに、審査担当社員の適格性についての検討並びに監査手続に関する監査チームとの討議及び関連する監査調書に基づいた検討等を十分に行う態勢を整備すること。

(3) 監査の基準及び現行の監査の基準が求める手続の水準の理解、監査資源の十分な確保、リスク評価やリスク対応に係る手続を見直す意識の浸透並びに監査補助者に対する適切な指示・監督及び監査調書の深度ある査閲を実施する態勢の整備等、現行の監査の基準に準拠した監査手続を実施するための態勢を強化すること(棚卸資産の評価、固定資産の減損、監査サンプリング、棚卸資産残高の正確性、棚卸立会及び重要な構成単位に係る監査手続並びに売上原価及び買掛金に係る実証手続など、審査会の検査において指摘された事項の改善を含む。)。

(4) 上記(1)から(3)までに関する業務の改善計画について、令和6年12月20日までに提出し、直ちに実行すること。

(5) 上記(4)の報告後、当該計画の実施完了までの間、令和7年3月末日を第1回目とし、以後、3か月ごとに計画の進捗・実施及び改善状況を取りまとめ、翌月15日までに報告すること。

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)

企画市場局企業開示課(内線3662、2767)

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