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FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2022年のベスト音楽

text by / category : 音楽

恒例の年末企画です。第1弾は2022年のベスト音楽です。フランスの音楽を中心に、2022年の音楽を幅広く選んでいただきました。FBNのライター陣の他に、今年も、マニアックなフランス音楽のツィートでおなじみの福井寧(@futsugopon)さん、POISON GIRL FRIEND の nOririn さん、世界音楽研究家の粕谷祐己さんにも参加していただきました。リンク先に飛んで音楽をお楽しみください。

福井寧(@futsugopon)

Lonny – Ex-voto
https://music.apple.com/jp/album/ex-voto/1594416965
数年前からポム、アルマ・フォレール、クルーなどの繊細な感覚をもった女性フォークシンガーが現れてきていていたが、残念ながらブームと呼べるような盛り上がりにはならなかった。このロニー・モンテムというアーティスト名を名乗る1994年生まれのルイーズ・レルミット(俳優ティエリー・レルミットの娘!)のデビューアルバムは彼女たちと比べて多少遅れてきた感じだが、初期キャット・パワーを思わせるような薄くてもろい感じがよい。ロニー自身はフランス人だが、カナダのモントリオールで録音されたアルバムで、ヨーロッパよりも北米を感じさせるフォーク作品になっている。Oことオリヴィエ・マルグリがアレンジで参加。
動画 https://youtu.be/EoBRs2oGImA

Lomepal – Mauvais ordre
https://music.apple.com/jp/album/mauvais-ordre/1643684922
ロムパルことアントワーヌ・ヴァンティネリは1991年パリ生まれのラッパーで、このMauvais ordreはサードアルバム。アーティスト名はl’homme pâle、すなわち「蒼白い男」の意味で、スケートボーダーでもある。もしかしたらフランスのラップといえばいまだに額に青筋を立てた男が怒鳴っているものだと想像している人がいるかもしれないが、今や子供の頃からラップを聴いていた若者が自然に選んだ音楽ジャンルに過ぎない。メランコリックさが特徴のロムパルは失恋などの個人的なことを歌い、バンド形式で録音されたアルバムにはロック的な感触がある。全くコミュニティーを背負わない今のフランスのラップである。
動画 https://youtu.be/eEOm_6OjEc4

Arlt – Turnetable
https://music.apple.com/jp/album/turnetable/1606427969
アルルトはエロイーズ・ドゥカーズとシング・シングの二人によるアヴァンギャルドフォークグループで、これは6枚目のアルバム。前作Soleil enculéは五人組として発表されたが、また二人組に戻ったようだ。二人のギターと歌を中心としてアクセント程度に他の楽器が入る簡素なアレンジだが、どの曲も一筋縄ではいかない奇妙な曲ばかりである。とはいえ決してとっつきにくい難解な音楽ではなく、親しみやすいユーモアがあって、曲によってはかわいらしさすら感じさせる。売れる音楽ではないが、こんなに面白い音楽が聴かれないのは本当にもったいない。
動画 https://youtu.be/rAs4LBocC9o

デビューアルバムがそこそこ面白かったアーティストがセカンドで失速することが多い中で、セカンド、サードとむしろ音楽を純化させてきたポムのConsolationもよかったが、ファーストもセカンドもここの年間ベストで選んでいたので、今回は外しました。他に黒人シネフィルラッパー、ズークー・メイジーの映画をテーマにしたコンセプトアルバム、Le film : le commencementもよかったです。
今年発表のフランス語の歌を25曲集めたYouTubeプレイリストを今年もつくったので、興味がある方は以下のリンクからどうぞ。
https://youtube.com/playlist?list=PLaICJoTGUCPk135OS45GbcfgTv60-6y7F

福井寧(@futsugopon)
1967年生まれの日仏通訳・翻訳業。青森市在住。全国通訳案内士(フランス語・英語)。油川フランス語・英語教室主宰。訳書ネルシア『フェリシア、私の愚行録』、フジュレ・ド・モンブロン『修繕屋マルゴ 他二篇』(いずれも幻戯書房)。
https://aomori-france.org

nOririn(Poison Girl Friend)

Benjamin Biolay “Saint-Clair”
今やフランスを代表する国民的歌手になってしまったバンジャマン・ビオレの新作「Saint-Clair」。Victoires de la musiqueでアルバム賞に選ばれた前作「Grand Prix」から2年という、フランスにしてはとても速いペースでのリリースです。前作のマッチョ・歌謡ロック路線を引きずりながらも、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」にホロリ。今年大活躍のClara Lucianiとのデュエット、「Santa Clara」も美しい曲です。

Mylène Farmer “L’Emprise”
ミレーヌ・ファルメール健在なり。1984年のデビュー当時から、全く変わらない音世界。
 フランスのオルタナ系ロックユニットAaRONのSimon Buretとのデュエット曲、
「Rayon vert」がmvも含めオススメです。少し前にスティングやモビーとのデュエットもリリースしていた彼女。
デュエットというのは、フランス以外の国ではあまり聴かれないので嬉しいですよね。

Jarvis Cocker(TIP-TOP) “CHANSONS d’ENNUI”
映画『フレンチ・ディスパッチ』の予告を観た時に、故・クリストフの「アイリーン」が流れていて、これは誰がカヴァーしているのか気になったのですが、なんと元パルプのジャーヴィス・コッカーが、映画内でのアーティスト、TIP-TOP名義でフランスの誰もが知っている曲の数々を一枚のアルバムにまとめていました。アルディ、ダリダ、バルドー…etc 
フレンチポップ好きには胸キュンなアルバムです。

その他、今年はセルフリメイクが2枚リリースされていますね。
Keren Ann & Quatuor Debussy
ケレン・アンの楽曲をストリングス・カルテットQuatuor Debussyとともに。
Michel Polnareff “Polnareff chante Polnareff”
ミッシェル・ポルナレフのピアノを中心とした新アレンジで名曲の数々を。

POiSON GiRL FRiEND
→1992年、ビクターよりCDデビュー。2000年から2004年まで、フランスのストラスブールへ渡り、フランスを学ぶ。帰国後の2006年からライヴやDJ活動を再開。そのテクノとフレンチ・ポップスとの融合ともいわれている音世界は20年経っても不変である。2018年5月、テクノミュージシャンとのコラボアルバム « das Gift »をリリース。

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)

「The Loneliest」 Måneskin
このFrench Bloom netでモネスキンのことを紹介した昨年の記事が、ひょっとして日本語で彼らを紹介した最初の記事だったかもしれない?!と古参のファンを気取る妄想が捗るのは、2021年の年末時点で、検索に全く日本語での彼らの記事が全くあがってこなかったから。あれからほんの1年で、今や世界的大スターの地位を築きつつある彼らは、各国で数々の賞を獲得、ワールド・ツアーも大成功。ロサンジェルスのコンサートの次の日に、なぜかイタリアのファッション・イベントに出演していたりと、本人たちがインタビューで答えているように、ほぼ自分のベッドで寝ていないという多忙さ。日本でもサマーソニックなどに参加し、ベースのヴィクトリアの乳首テープが軽くバズった様子。朝の報道バラエティ番組などにも出演し、お決まりのしょーもない質問の数々を投げかけられるも、ハッピは着せられていなかったのでホッとしていたところ。
多くのロック・バンドが、ロック・ファンだけでなく多くの人に愛されるシグニチャーなバラードを持っているが、モネスキンにとっては、この「The Lonliest」がその1曲になりそう。10月のリリース以降、イタリアの音楽チャートの1位だけでなく、ベルギー、クロアチア、ギリシャ、リトアニアなどで10位以内に入っている。
この曲が発表された直後に、残念なことにヴォーカルのダミアノの祖父が亡くなった。その日のコンサートで、この曲を彼に捧げて涙を堪えながら歌う映像は、やはり深く胸を打つ。
そして、ゴス味やグラムっぽさ満載のロックでありながら、グッチの衣装に身を包んだ20代前半のこのロックスターたちから、何かとてもヘルシーな伸びやかさを感じるのは、個人主義のこの時代において、家族主義をも同時に包摂するイタリア文化を滋養かつベースとしているからではないだろうか。実際、YouTubeに上げられている彼らのドキュメンタリーでは、家族と楽しそうに過ごす様子を見ることができる。
歌詞は、ラブ・バラードと聴くことができるのはもちろん、もっと普遍的な、全ての人が持つ喪失感や深い悲しみと解釈することもできる。また、自身のそれらの感情を、自分の内にあることを否認せず認め、しかし同化せずに外在化する、という心理学的なある種の健全さや達観を歌詞から感じるのだ。この“ヨーロッパ産ロック“のカリスマたちが2023年早々にリリースするニュー・アルバムが大変待ち遠しい年末。
The Loneliest https://youtu.be/odWKEfp2QMY

「Ne partez pas sans moi」Star Academy 2022
数々のポップ・スターを排出し、もはや長寿番組となった感のある、TF1のオーディション・リアリティ番組、スター・アカデミー(Star Academy)の今年のテーマソング。今時こんなスカスカの音で音楽を作るんだ?という疑問は湧くものの、バラエティ番組特有のエンターテイメント性や、空虚さ軽薄さと見事にマッチして、独特の良さが出ている不思議な曲、まさにtube(ボリス・ヴィアン曰くの中身のないヒット曲)。
実はこの曲、なぜかカナダのケベック出身のセリーヌ・ディオンが、1988年のユーロ・ビジョンでスイス代表として優勝した曲。作曲家がヨーロッパ出身ならエントリー資格ありらしく、ユーロ・ビジョンの不思議伝説回として語り継がれている。
大手レコード会社との契約をかけて、未来のポップ・スターを夢見る若者が、毎週一人ずつ落選していく趣向なだけあって、それぞれの候補者が、1フレーズでいい声を響かせることができるように構成されている。実際に歌ってみると分かるが、難しくない割に、それなりに上手く聴こえるような、実は結構凝った作りの曲。フレンチ・ポップの中でも、ウィスパー・ヴォイス系や、nonchalantなインディー系のおしゃれなものより、コブシもタメも盛り込んで歌い上げる系の王道の歌謡曲が好きな人には、きっとかなりツボるはず。歌詞も、非常に抽象的なポジティブさで、なんだかいい気分にさせられる。“カラオケで歌えるフレンチ・ポップ“としておすすめ。
ていうかいまだにスター・アカデミー見てるの?と言われそうだが、2021年放送開始以来、20年ぶりに見てました(ってことはほとんど見てない・笑)!なぜなら、今年はダンス部門のコーチとして、コリオグラファーのヤニス・マーシャル(Yanis Marshall)が出演していたのだ!2014年に、イギリスのオーディション番組、Britain’s Got Talentに、男性3人がハイヒールで踊りまくるコリオグラフィーで出演したヤニスは、優勝こそ逃したものの、フランス国内やアメリカで順調にキャリアを築き上げた。彼のハイヒールのダンス・クラスはいつも満員で、セリーヌ・ディオンやマライア・キャリーともお友達。男性のハイヒールといえば、ドラァグを連想するが、ヤニスのスタイルはセクシーでありながらむしろパワーとテクニックが前面に出ていて、アスリート的。ヤニスによる、迫力満点のブリトニー・スピアーズの「Baby one more time」は必見。
Yanis Marshall :「Baby one more time」 https://youtu.be/GOFnBEhIFnw
Ne partez pas sans moi :Star Academy 2022 https://youtu.be/juSHRp90-to

『Teatro Lucido』La Femme
ワールド・ツアーで訪れた、マドリッドやメキシコ・シティにインスパイアされた、全曲スペイン語のコンセプト・アルバム。La Femmeは、前述のモネスキンのように、フランス語の楽曲がほとんどなのに加え、サイケ・インディー・ロックという、かなり世界的成功は難し目のジャンル。にもかかわらず、フランス国内にとどまらず、世界中でファンを獲得した成功している、フランスの、キラキラした小さな宝石のようなバンドのひとつ。なので、今回のスペイン語オンリーのアルバムは、驚いたものの、やりたいことをやるんだもん!という感じでとても良い。今まで、Manu ChaoやLhasa De Selaといった、マルチリンガルのアーティストのフランス語とスペイン語のミクスチャーが、ワールド・ミュージックのレセプターが発達したフランスにとてもよく受け止められてきたが、逆に、フランス国内では、フレンチ・バンドのスペイン語オンリーのアルバムがどのように受容されるのかに興味がわく。今までのアルバムのフランス語の詩世界を期待して聞いてしまうので、少し物足りなさを感じていたが、数回聞いているうちに、やはり結局La femmeっぽさに魅せられる。特にシングル・カットされた「Sacatela」のカラフルなクリップは必見。いまだ意識化されていない欲望や快楽のことをSacatelismと呼び、サイコティックな精神の内外をひっきりなしに行き来するような独特の世界観を構築している。
もうひとつの先行シングル「No pasa nada」は、何かを忘れるために飲んで、そのうち何のために飲んでいたのかも忘れてしまい、何事もなかったよね!という曲。バンド・メンバーが、La femmeというジャーニーで、それぞれのプロセスを経過していたようで、そんなインタビューの後に改めて聴くと、それぞれが落とし所を見つけた後に到達したNo pasa nada!なのがわかる。
このアルバムのタイトルにもなっている“Teatro Lucido”は、彼らが何度もプレイした、メキシコの伝説的なミスティックな劇場。このアルバムを聴いて寝た日は、Lucid Dream (明晰夢)を見ることができるかも?!かなりのおすすめです。
「Sacatela」La Femme https://youtu.be/CAXIOJSp_2g

Mami Sakai (@Mami_SoulUnion)
ロンドン在住。パリ第7大学で記号学的フレンチ・ラップを研究。その後ドーバー海峡を渡り、心理学&機能性栄養学のセラピストに。ナチュロパシー・ジャパン・ファウンダー。

粕谷祐己(世界音楽研究家)

Stromae, Multitude.
世界は、君が帰って来るのを待っていたのだ。
アフリカツアーのために打ったマラリア予防注射の副作用で長期の音楽活動停止を余儀なくされたストロマエ。彼をスターダムにのし上げた前のアルバム Racine carrée からなんと9年ぶりの新アルバムが非常に密度の濃いものに仕上がっているのも当然のことかもしれません。多種多様な楽器、音源がぴたっと適切な位置に据え付けられています。28歳で入った長いトンネルを抜けて彼ははや37歳・・・でもその間、自分の音作りはできなかったものの、何もできなかったわけではなかったようです。いろいろな人との出会い・・・彼結婚もしたんだな。ちょっとほっとします。病気なんかに負けないぞ、というのが冒頭のInvaincu(負けない者)かな。彼ひとりが写っているクリップのl’enfer(地獄)は彼の孤独な苦しい闘いを謳っていると思います。でも全体としてはmultitude(「多くの人」の意味と解すべきか)、母と巡り歩いた世界各地の文化の多様性がタイトルのアルバム。けっして暗くないのです。

Souad Massi, Sequana.
スアド・マッシは、前作Oumniya(2019)をうっかりご紹介し損ねてしまいましたが今回の『セクアナ』(これって昔のセーヌ川の女神のことですね)で借りを返せました。子育てがひと段落ついたらしいスアド、最近実に精力的にコンサート活動をして世界をめぐっていました(USAではジョーン・バエズと対面してました)。そしてつい最近に素晴らしい新アルバムを出してきました。もうこれは円熟、貫禄の力作。アルジェリアのトレーシー・チャップマンとかジョニ・ミッチェルとかいって、他人の名前を引き合いに出すことももう必要ありません。フォーク調にとどまらず各曲それぞれに音の工夫が凝らされ、政治的メッセージ、叡智、旅の思い出、鬱などフランス語とアラブ語による歌詞に深い意味がこめられています。スアドはこんな風に広い幅をもったSSWなのです。

Trio SR9, Déjà vu.
わたくしに期待されているのはアフリカの音の紹介かと思うのでTrio SR9はちょっとはずれるのですが、No Fomatからのリリースだし、こんなによくできた聞きやすいアルバムも滅多にないので選ぶことにしました。リヨンのコンセルヴァトワール出の三人のパーカッショニストの出す各種いろいろな打楽器音(といっても木琴とかバラフォンみたいな音も含みます)にBlick Bassy, Camille, Malik Djoudi, Sandra Nkoké, Camélia Jordanaの五人がかわるがわるヴォーカルを担当してのせてつくった最近のヒット曲カバー、オリジナルよりよさそうな、ゴンチチさんの「世界の快適音楽セレクション」に出てきそうな曲を集めました、という趣向。全10曲、いちばん古いのがRhianaのDon’t stop the music (2007)、いちばん新しいのがTones and IのDance Monkey (2019)。RosalíaのMalamente (2018)がスペイン語なのを除いてみな英語です(ちなみにわたくしはPharrell WilliamsのHappy (2013) が気に入りです)。昔のビートルズやマイケル・ジャクソンみたいに世界の一時代を圧するような物凄いヒットを量産するスーパースターというのは現代には出なくなりましたが、世界ではいい歌がずっと生まれ続けているのですね。音楽からは目が離せません。

粕谷祐己(または雄一。かすや・ゆういち)
フランスの作家スタンダールの研究から始めて世界文学をかいま見、アルジェリア・ポップ「ライ」から始めて世界音楽を渉猟する金沢大学国際学類教員。大学院でご一緒に「ワールドミュージック」研究しませんか?
blog.goo.ne.jp/raidaisuki

exquise

今年も新しい発見がたくさんあり、楽しい音楽生活を送りました。今年発表のものに限っても3点だけ選ぶのはなかなか難しい!

Melody’s Echo Chamber – Emotional Eternal
パリを拠点に活動するメロディ・プロシェによるプロジェクトのサード・アルバム。ファーストアルバムをプロデュースしたケヴィン・パーカー(Tame Impalaのフロントマン)の影響を残したサイケデリックなサウンドに加え、フレンチ・ポップスの伝統も感じさせて、フランスならではの音だなあと思いました。なんでもメロディさんは2017年に大事故にあって生死の境を彷徨ったそうで、そこから復活してこんな素敵なアルバムを発表してくれたことに感謝です。
“Looking backward”  https://youtu.be/83R6r2xILx8

Toro y Moi – MAHAL
サウスカロライナ州出身のチャズ・ベアが率いるトロ・イ・モワは前々から好きなアーティストでしたが、今年発表されたこのアルバムはバラエティに富んだ曲が詰め込まれた面白いアルバムで、このアルバムを聴いてから再度これまでの彼らのアルバムを全部聴き直したほどでした。ゆるカッコいい音楽が気持ちよく、春夏にかけてよく聴きました。
“The Loop” https://youtu.be/CvcoxunP7KU

Brijean – Angelo
カリフォルニア、オークランドを拠点に活動しているブリジーンは、どこかノスタルジックなサウンドと浮遊するような女性ヴォーカルが印象的な男女デュオ。8月に発表されたこのアルバムは、同時期に家族を失った2人が悲しみと損失から抜け出すために制作されたそうで、ドリーミーで心地よい音ながらも、ちょっと切なさも感じられるのはそのせいなのかもしれません。彼らも今年発見したアーティストで、過去に遡って全部アルバムを聴きましたがどれもよかったです。
“Take a Trip” https://youtu.be/I6XYF8W61sQ

このほかAldous Harding, BENEE, Easy Lifeなどのニューアルバムもよかったし、Lizzo, Harry Styles, Beyoncéといったメジャーどころの新作も楽しく聴きました。また日本のシティ・ポップがこんなに有名になり、それに影響を受けたアーティスト(Ginger Rootなど)も出てくるとは思いもよりませんでした。
フランスのアーティストでは、Phoenix やTahiti 80, Christine and the QueensのアルバムやMydのコラボ曲などが記憶に残りました。

タチバナ

Blowsom feat. Tao / Cinéma
夏にリリースされた心地よいフレンチポップ。サブスクか何かで出会って病みつきになった。Blowsomは普段、英語曲が多いのだけれども、フランス語で出しているなかでは個人的にお気に入りの作品だ。インディーズで活動しているらしく、Facebookがたまに更新される程度で、情報は少ない。フィーチャーされているTao Le Hen(金髪の方)も、ラッパーのLutherのMVに出ているくらいしかわからず。
https://youtu.be/ZIjGjl6qBrA
Blowsom feat. Tao / Cinéma (amazon) https://amzn.to/3C7VJ6s

RYUTist / PASSPort
元ミュージシャンで音楽ライターの南波一海が主宰するタワーレコード内のアイドル専門レーベルPENGUIN DISCが満を持して送り出したRYUTistのフルアルバム『(エン)』は、2020年の『ファルセット』に続き、地下アイドルというジャンルで語るにはあまりに贅沢なクリエイターを総結集した名盤だと思う。「PASSPort」は、リズミカルなホーンの音が心地よく、歌物としても爽やかで清々しい。とはいえ、このアルバムの曲は、「水硝子」も「オーロラ」も「うらぎりもの」も「たったいま:さっきまで」も、どれも良い。
https://youtu.be/xcSu7xC_M1g
RYUTist / PASSPort (amazon)  https://amzn.to/3G2b4GN

Entheos / Absolute Zero
この手のヘヴィーミュージックなら、フランスにも、今年来日したGojiraやThe Dali Thundering Conceptといったメタルナードなバンドたちがいるし、時事問題に絡めるなら、ウクライナのJingerだって何の遜色もない。それでも今年のリリースで個人的に響いたのは、Entheosのこの曲だった。デスコアに分類されるバンドだが、耳をつんざくほどラウドかと言われるとむしろ穏やかなくらいで、複雑なリズムを刻むテクニカルなドラムと、さまざまなデスボイスを駆使するヴォーカルが際立っている。ちなみにヴォーカルのChaney Crabbは今年8月のバイク事故で顔に大けがを負って一時はミュージシャンとしての復帰も危ぶまれた。そんな彼女が、絶望と深い悲しみのなかで最初に歌詞を書いたこの曲は、MVの鬼気迫る雰囲気も相まって、今年始まった戦争の惨劇を妙に連想させる。自分にとって2022年はこの曲のような年だった。
https://youtu.be/XOtnP4cxTC8
Entheos / Absolute Zero (amazon) https://amzn.to/3CaccqR

【付記】自分の周りの音楽好きのあいだでは、NewJeansとLE SSERAFIMの話題で持ちきりだったし、実際、K-POPの勢いはすさまじい。あとはジャズ方面でJulius Rodriguezの新譜『Let Sound Tell All』が少し面白かったのだけど、どの曲がとくに好きかと自分に問うてみると、どれも昨年の「Actual Proof」を超えてくれなかったので、選外として「Actual Proof」の方をリンクしておく。
https://youtu.be/F6Ml38sCXZI

irrrrri(いりー)

Phoenix – Alpha Zulu
パリ装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs)内のスタジオで録音されたという、5年ぶりのアルバム。英語で歌いグローバルに活躍するこのバンドの存在は、Netflixドラマ『エミリー、パリへ行く』に出てきた、英語を話してくれる優しいパリジャンのように、多くの人にとってフランスのよき入り口であり続けている。
ぜひMVをご覧いただきたいのだが、Vampire Weekendのエズラ・クーニグをゲストに迎えた“Tonight”では、パリと東京が同時に映し出される。自由の女神があり、ギャルソンがいるカフェのテラス席でLe Mondeを読み、いかにもアジアなエアコンの室外機や派手なネオンもありで、一見すると東京はどこの国やねん状態だが、だんだん東京とパリがきれいに繋がってくる。“After Midnight”の舞台も東京で、謎の男性ふたりが『頭文字D』の藤原とうふ店みたいな車で疾走している――と思いきや、実は撮影スタジオの中。最後の曲は、Vo.トーマスの妻ソフィア・コッポラが監督した映画『オン・ザ・ロック』主題歌“Identical”で、意識はニューヨークまで飛び、ビル・マーレイが運転する真っ赤なアルファロメオに乗せられ摩天楼を駆け抜けていく。
“Tonight” https://youtu.be/FxTCTAnTP6Q
“After Midnight” https://youtu.be/kVsgdURODeg

Sweely – Closer Energy
ニース発、リヨンが拠点らしいSweelyのことを知ったのは、2017年にカルト的人気レーベルDistant Hawaii(現Distant Horizons)からリリースされた12インチ「All The Reasons」だった。ローファイかつムード満点なディープハウスが当時の気分にぴったりでよく聴いたし、今でもたまに聴きたくなる。それから10枚以上のEPを経つつ、DJではなくライヴアクトとして活動してきた彼による待望のファースト・アルバムは、よりキャッチーに洗練され、ゲーム音楽のような小気味よい推進力が爽快だ。
“Hello Goodbye” https://youtu.be/OlLMQ0BS0Wo
“Not Part Of It” https://youtu.be/ZYlc3cCV0og
Sweely – Closer Energy (amazon) https://amzn.to/3C9Kri5

The Balek Band – Medecines
ナントのThe Balek Bandによるデビュー・アルバムは、コズミックなジャケットに引き寄せられて購入した。内容は80年代のズークやディスコをブレンドし、最新のエレクトロニック・ミュージック的解像度をもって演奏していて、ベースラインが(いい意味で)かなり足腰にくる。ミラーボールがよく似合うレコード。
“Charbon Alcool” https://youtu.be/7Fw8Xn2Rlic
“Balek Zouk” (Live session) https://youtu.be/GUVI8BD2rl8
The Balek Band – Medecines (amazon) https://amzn.to/3jDMe8D

irrrrri(いりー)
DJ、たまにライター。富山県在住。クラブ、バー、カフェ、フェスなどでハウスと古今のポップソングを楽しくプレイ……していたが、コロナの影響でしばらく出番は少なめ。2023年はもっと活動的になりたい。

わたなべまさのり(ビー・アンクール・ドットコム株式会社)

2022年に最も聴いたアルバム2枚。
Juno To Jupiter / Vangelis (with Angela Gheorghiu as Juno) Freakout/Release / Hot Chip RIP
ヴァンゲリス。もう新しい曲が聞けないと思うととても残念ですが、多分私の残りの人生の間ずっと聴き続けても飽きがくるはず無さそうなほど沢山の素晴らしい音楽を世におくり出してくれました。生前最後のアルバムとなった本作や、前作に相当する舞台「The Thread」の音楽(未発売)の出来の良さは、本当に「ありがとう」という気持ちになります。
Se Ve Desde Aqui / Mabe Fratti
多分私の2022年最大の発見。もっと何度も聴きたいですね。 「STEVE REICH PROJECT」DAY1, DAY2 (@めぐろパーシモンホール 10, 11 dec 2022) 加藤訓子プロデュース。録音ではなくライブです。訓子さんがメインのパフォーマーとは言い難いパーソネルによる演奏で、「Mallet Quartet」「Vermont Counterpoint」「Drumming」は特によかった(勿論私の曲の好みも入っている笑)。開場とほぼ同時にロビーで演奏者たちによる「Clapping Music」の生演奏 (←そのためだろうか、DAY2の開場前の会場入口付近の人の多さは全席指定にしては異常だと思った) など、随所に創り手のキメの細やかさも感じられた2日間。 予告(?!?!笑):約20年ぶりとなる新曲のアルバムとそれらを披露するツアーをPeter Gabrielが来年予定している。ライブのチケットも確保し、もう待ち切れない(笑)。いや、でも本当は、彼を食っちゃう様な音楽を他の誰かに放ってほしい。笑

cyberbloom

Tako Tsubo / L’Impératrice
exquiseさんに私が絶対好きになると言って教えてもらったL’Impératrice。まさに「Tsubo」でした。2021年に出た「Tako Tsubo」(日本語の蛸壺、今年じゃなくてすみません!)はシンセサウンドと仏語ウイスパーボイスとファンクなギターが心地よい作品。’peur des filles’(女の子が怖い?)が特に私好み。
L’impératrice  “la peur des filles” https://youtu.be/a9EhHLmSaAg

Big World / Mondo Grosso
前作「何度でも新しく生まれる」に続く、曲ごとにゲストボーカルとコラボする作品。Mondo Grosso=大沢伸一のセンスが大好き。前作ではbird との’Time’や乃木坂46を卒業する齋藤飛鳥との’惑星タントラ’が描き出す世界が素晴らしかったが、今回も齋藤飛鳥にシューゲイザーな曲を歌わせた’Stranger’が絶品でした。田島貴男や満島ひかりの曲もおすすめ。
MONDO GROSSO / STRANGER[Vocal:齋藤飛鳥 (乃木坂46)]https://youtu.be/Leraccmh6UI

フランスこどものうた / 石井好子
石井好子生誕100周年記念CD。石井さんはエッセイストとしても有名ですが、元はと言えば日本シャンソン界の草分け的存在。本CD制作を少しお手伝いしました。「クラリネットを壊しちゃった」「フルーツサラダ」「回転木馬」など懐かしい曲が満載。

今年よく聞いたのはアメリカはテキサスの3人組Khruangbin。タイファンクの影響を受けたギターサウンドは、確かにパリのタイ料理屋でエンドレスで流れているような音楽。淡々としたインスト中心の曲なのだが、なぜか聴き入ってしまうクセになる音。今年11月に来日していたが、忙しくて行けなかった。今年最大の残念。あとはPhoenix – Alpha Zuluもヘビロテでした。



posted date: 2022/Dec/29 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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