トランプ次期大統領の就任を待たずに、ホワイトハウスに「ハッピー・クリスマス」が戻ってきたようだ。
子どもからの「ハッピー・クリスマス」に慌てるジル夫人
ホワイトハウスでは13日、子どもたちにプレゼントを渡す行事「ちびっ子に玩具を」が開かれ、招待された子どもたちの前にファーストレディのジル・バイデンさんが現れて「ハァイ、ハッピー・ホリデーズ(休日おめでとう)」とにこやかにあいさつをした。

すると間髪を入れず、子どもの1人が「ハッピー・クリスマス」と大声で言い返した。あわてたファーストレディは「そうね、ハッピー・クリスマス 」とおどけるように両手を広げてあいさつし直した。このやりとりに、保守系のマスコミが食いついた。
「ジル・バイデン、ホワイトハウスの玩具寄付イベントで子どもたちに教育される」(ニューヨーク・ポスト紙電子版13日)
「ジル・バイデンの『ハッピー・ホリデーズ』を『ハッピー・クリスマス』と訂正する子どもたちにSNSが沸騰 “壮大な反応”」(FOXニュース13日)
「ジル・バイデンのウォーク(公平ぶった)言葉が真っ当な子どもに撃墜される愉快な瞬間」(英デイリーメイル紙電子版13日)
ポリコレの影響「ハッピー・ホリデーズ」が“正当”に
「ハッピー・クリスマス」というのは、米国社会ではある種の「禁句」になっていた。
いつからか米国の友人から届くクリスマス・カードから「ハッピー・クリスマス」や「メリー・クリスマス」という文言が消え、「ハッピー・ホリデーズ」に代わっていた。

しかし、米国で「クリスマス」と言うことを法律などで禁止したとは聞いていない。そこで、こうした問題は人工頭脳に訊くに限ると考えて、チャットGPTと対話をしてみた。
「『ハッピー・クリスマス』と言うのは何時、何故、誰が禁止したの?」
チャットGPT:
「公私に関わらず『メリー・クリスマス』などと言うのが公式に禁止された形跡はありません。しかし、いくつかの通説や誤解が長年にわたってそのような認識を助長し、しばしば『ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)』や『信教の自由』をめぐる議論と結び付けられて使うのを控えるようになっていきました」
「では『ハッピー・クリスマス』と言うのはなぜ『ポリティカル・コレクトネス』に反するの?」
チャットGPT:
「まず米国社会にはキリスト教徒以外に多くの宗教の信者がいるので、彼らを含めて休日を祝う方が理にかなっているという考えがあります。また合衆国憲法が信教の自由を保障しているので、公式の場でキリスト教の祝日だけを祝うことはその精神に反する恐れがあります。加えてキリスト教徒は米国の多数派の宗教であり、米国社会の多様性を確保するためには少数派の国民の宗教も尊ぶためにクリスマスを祝うのはなるべく控えるべきだという考えがあります」
要するに、社会の特定グループに不快感を与えたり不利益を与えないように配慮する「ポリティカル・コレクトネス」、通称「ポリコレ」が「カメラマン(男性)」を「カメラパーソン(人物)」と言い換えたように「ハッピー・クリスマス」も「ハッピー・ホリデーズ」というのが正当とされたようだ。
トランプ氏の復帰でクリスマスにも変化か
さらに、「ポリコレ」を推奨する民主党政権下の米国では、クリスマスの祝賀の文言を変えるだけにとどまらなかった。学校や保育所、療養施設など公営の施設では官費でクリスマスを祝うことが禁止され、老人ホームのクリスマスツリーが取り除かれるようなこともあったという。
そこで、この問題の扱いが今回の大統領選挙でも争点の一つになり、ドナルド・トランプ次期大統領は投票日直前の10月22日、ノースカロライナ州での遊説で「これからは胸を張ってメリー・クリスマスと言えるようになるぞ」と言っていた。

そのトランプ次期大統領が再選され、ホワイトハウスでも誰に遠慮することなく「ハッピー・クリスマス」と言えるようになったわけだが、ファーストレディよりも先に子どもがその変化を意識していたことが、今回の政権逆転による社会の変化の大きさをうかがわせるようにも思える。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】