「スタジオジブリの映画音楽を演奏するコンサート、とても良かったですよ」
先日、韓国人の知人(30代)からこう勧められ、私もチケットを購入した。だが、くしくもその直後、ジブリ音楽を手がける作曲家、久石譲さんが、こんな声明を発表した。
「現在、許可なく久石の楽曲を編曲し利用する催しが“世界各地”で多数行われています」
取材を進めると、韓国で開かれている“ジブリコンサート”に著作権法違反の疑いがあることが分かった。
“雨後の筍” 韓国各地で無許可コンサート開催
韓国でジブリ作品は絶大な人気がある。
去年10月には、最新作「君たちはどう生きるか」が公開され、2週連続で興行成績1位となり、累計200万人以上を動員した。2024年3月には南西部の済州(チェジュ)島に韓国で6店舗目となる公式ジブリショップがオープンし、さらに現在はソウル市内で高畑勲監督の展示会が開催中だ。
そして今、問題視されている“ジブリ映画音楽コンサート”は韓国各地で行われている。
韓国のチケット予約サイトで「久石譲」と検索したところ、2024年8月までに計14件のコンサートがヒットした(2024年5月21日時点)。「風の谷のナウシカ」や「ハウルの動く城」など有名作品の音楽をオーケストラで演奏するプログラムだ。
主催社は複数あり、各公演の説明資料には「Hisaishi Joe」と久石さんの名前が大きく掲げられている。一見、久石さんの出演すら伺わせる内容だ。価格は最も高い席で12万ウォン(約1万4千円)。韓国メディアによると、こうしたコンサートは数年にわたり盛んに行われてきたという。
専門家「著作権法違反の可能性」“取材拒否”の主催社も
そもそも韓国で久石譲さんの音楽を利用するには、日本のJASRACに当たる韓国音楽著作権協会(以下、韓音協)に楽曲の利用申請をしなければならない。ある主催社は韓国メディアの取材に対し、韓音協に利用申請した上で著作権料を納付していると明らかにしている。
しかし実際には、韓音協に著作権料を納付するだけで権利関係をクリアできる訳ではない。文化芸術が専門のペク・セヒ弁護士(DKLパートナーズ法律事務所)は、著作権の中でも「著作物を編曲して変更を加えるかを決定できる『同一性維持権』や、公演の際、例えば『久石譲』という名前を表示できる権利である『姓名表示権』は、著作権者本人の許可が必要だ」とした。
その上で、許可を得ていない状態でのコンサート開催は「著作権法違反の可能性がある」と指摘した。
久石さんは4月26日に発表した声明で、無断で楽曲を編曲することは「断じて認められません」と抗議。その上で、公演名に『久石譲』と冠した演奏会についても「承認していません」としている。
FNNが主催社に取材を申し込んだところ、一社は取材拒否。別の一社は「著作権の問題で今、(是正)措置を取っている」としたが「進行中の事案なので申し上げにくい」と具体的な言及は避けた。一方、チケット予約サイトの担当者は「編曲などに対する公式許可を証明できる資料の提出を(主催社に)要請している」と明らかにした。
背景は「儲かるから」…自省促す現地メディアも
韓国メディア「イーデイリー」の記事では、無許可でのコンサートが広がる理由について、ずばり「カネ」だと分析している。例えば著名なオーケストラであれば、公演日程は多くても2~3日だが、映画音楽などのコンサートは「オーケストラとプログラムさえ構成すれば、同じ内容で全国各地で公演が可能」になる。そのためチケット販売の収益も高くなり、主催社としては「諦めがたい収入源」だという。
その上で記事はこう締めくくっている。「『Kカルチャー(K=Korea)』は世界的に注目される文化アイコンだ。ただ、著作権に対する国内の認識が国際的な水準に追い付いていない。“久石譲コンサート”は目の前の収益に目がくらんだ後進国型の行動だ」―。韓国文化界に対し自省を促すこの呼び掛けが、関係者の心に響くことを切に願いつつ、知人の勧めで購入したチケットは、ひとまずキャンセルすることにした。