知らない間に裁判が行われ預金を差し押さえられる。そんな信じられない事例が、福岡県内で相次いでいる。なぜそのようなことが起きたのか? そこには、裁判手続きの盲点とも言える「隙間」があった。
知らぬ間に預金差し押さえ…約134万円引き出される
被害者Aさん(ラウンジ経営):
別件で銀行に用事で行った時に、(行員から)「その件は落ち着きましたか?」って(言われた)。「どういうことですか?」と(行員に)尋ねたら、「サシオサエです、サシオサエになってますよ」って言われて…
久留米市内でラウンジを経営する女性が異変に気付いたのは、2020年6月のことだった。
預金口座が民事裁判で差し押さえられ、約134万円が、知らぬ間に引き出されていた。
被害者Aさん(ラウンジ経営):
真っ白でした、頭が。お金が抜けたあとだったので、気付いた時が
民事裁判など身に覚えのない女性が、久留米簡易裁判所の記録を調べてみると、驚きの事実が発覚した。
訴状(2019年10月3日)
「訴状」
「未払い賃金請求事件」
「122万円」
ラウンジ側は2019年10月、以前、店でアルバイトをしていた30代の男から、未払い賃金として120万円を超える支払いを求める訴えを起こされ、ラウンジ側が全く気付かないまま、2020年1月に敗訴。男から口座を差し押さえられていた。
被害者Aさん(ラウンジ経営):
うちは日払いでしたし、未払い賃金もありません。びっくりしました
裁判所からは訴状届かず その理由は…
さらに、この男による被害は、別の店でも起きていた。
被害者Bさん(ラウンジマネージャー):
一銭ももらってない、みたいな訴えを起こされていた。きっちり支払っていたし、明細もあります
久留米市内の別のラウンジでマネージャーを務める女性も2019年12月、アルバイトとして雇っていた同じ男から、未払い賃金の支払いを求める訴えを起こされ、知らぬ間に敗訴していたのだ。
同様の被害に遭った2人に共通するのは、裁判所から一切、訴状が届かなかったこと。
それには理由があった。
男が裁判手続きの「隙間」を悪用して、訴状に被害者とは関係のないデタラメな住所を記載していたのだ。
木村道也弁護士:
裁判所としてはある種、機械的に、被告のところに訴状を送る。その時、その本人がいなかったとか、どうしても受け取らない場合には、付郵便(ふゆうびん)の送達という例外的な書留郵便による送達が行われます。裁判所から付郵便で送達が行われたタイミングで、本人が受け取ったのと同じ扱いがなされる
さらに男は、デタラメな住所に送られた訴状が裁判所に戻ってきた際には、「電気がついていた」などと被害者の在宅をうかがわせる、うその報告書まで提出していた。裁判所は、男が主張する住所を正しいと信じ込み、欠席裁判を進めた。
問題発覚後、久留米簡易裁判所は、被害者と無関係の宛先に訴状を送ったことを認め、判決を取り消した。
その後の取材で、男は、熊本や大阪の簡易裁判所でも同様の訴訟を起こしていたことが分かった。
住所はデタラメ 頻繁に引っ越し
付郵便の送達という民事裁判の仕組みを悪用し訴訟を起こし続ける男は、いったいどんな人物なのか?
被害者Bさん(ラウンジマネージャー):
人の目を見ない人だなと、ずっと目が泳いでいる感じ。そこだけは印象に残っている
履歴書によると、男は関西の大学を出て一般企業に就職し、数年間勤めたあと一身上の都合で退職。その後、大分県内のラウンジで数年間働いたとなっている。
ところが。
被害者Bさん(ラウンジマネージャー):
(問題発覚後)主人は、履歴書の家を見に行った。(そこは)全然誰も住んでいない
男の履歴書の住所はデタラメだった。
裁判の訴状に記された男の自宅を訪ねても。
住人:
なんね?
記者:
この人は知っている?
住人:
会ったこともない
訴状の住所もデタラメだった。
男の住所を巡っては、さらに不可解な行動も明らかになった。
取材班が入手した戸籍の関係書類によると、男は、2015年3月から2020年5月までの5年間に、合わせて28回も住所を変えていたことが分かったのだ。
男は高齢女性と勝手に養子縁組も
いったいなぜ、頻繁に引っ越しを繰り返しているのか?
戸籍の関係書類で男の母親と記されていた80代の女性の元を訪ねた。
女性は軽度の認知症で、介護を受けながら生活をしている。
息子とされている男について尋ねると…
記者:
この人なんですが…
女性:
これは悪いやつだな
女性の事情を知る介護士の男性が、口を開いた。
男性介護士:
この女性は独身で、一度も結婚経験がないんですけど、養子縁組されてるんですよ。勝手に
介護士からは、意外な言葉が続いた。
男性介護士:
5年くらい前かな。最初、お風呂屋さんで(その男と)会ったみたいで、「お母さん一人暮らし大変やな、じゃあ送ってあげるね」みたいな(ことを言われて)。ここまで来るようになって。2~3カ月通い始めて、この女性のハンコを使って(男は勝手に)息子になっちゃったんですよ
そして、すぐに男は、女性の前から姿を消したという。
その後、女性の元に借金返済の催促があり、この時初めて男が養子になっていたことに気が付いた。
女性:
びっくりしました
男性介護士:
びっくりしたよね
不正な訴訟を繰り返す男に勝手に母親にされていた女性は、手続きの煩わしさから、養子縁組をそのままにしていたが、これを機に解消の手続きを始めるとともに、警察に被害届を出すことも検討している。
(テレビ西日本)