物価上昇の中でも、財布に優しく、美味しい「鶏の唐揚げ」。しかし、その唐揚げ専門店の廃業や倒産が相次ぎ淘汰が進んでいる。
背景にあるのは、コンビニ・スーパーの総菜品・食品メーカーの冷凍唐揚げなど異なる業種業態店による競争激化だ。
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 テイクアウト需要の高まりを受けて積極的に展開した「から揚げの天才」。テリー伊藤とコラボしたワタミのチェーン店だ。2021年には外食チェーン史上最速となる2年7か月での100店舗達成の新記録を達成したが、テイクアウト市場の縮小とコロナ禍の参入過多による競争激化などの原因もあり、わずか3年で店舗数が10分の1に激減した。

 コロナ禍で追い風に乗った唐揚げ市場をうまく利用し、軌道にいち早く乗せたワタミの急減速の要因は何か。現状の収益状態、成長戦略、意思決定方法や組織体質からも分析してみたい。

「から揚げの天才」はなぜ急減速したか?

 から揚げと玉子焼きの組み合わせを看板商品とした同店は、秘伝のタレに丸1日漬け込んだ鶏ももを丁寧に2度揚げした本格から揚げと、実家が玉子焼き店であるテリー伊藤氏のこだわり玉子焼きを味わえるなど、商品力には一定の評価があった。

 看板メニューは、そのこだわりがある玉子焼きとから揚げを組み合わせた「からたま」で、昼はからたま定食、夜はからたまハイボールを販売し、テイクアウトのからたま弁当を積極的に販売していた。

 唐揚げと玉子焼きは、両方とも人気が高く、お弁当では定番の商品だ。まさに顧客ニーズに合致した組み合わせである。テイクアウトの弁当だけでなく、唐揚げを定食としての提供も可能にした店づくりはお客も利用しやすい。

歯車が狂いだした仕入れ環境の変化

 しかし、ここ数年、唐揚げ専門店は厳しい仕入れ状態が続いている。輸入鶏肉が鳥インフルエンザの流行による供給量の減少に見舞われているためだ。牛肉・豚肉価格が上昇し、割安な鶏肉を求める消費国が増えている。


 国内鶏肉価格は5年間で約2割上昇し、調理に必要な食用油も、キャノーラ油では5年間で約7割値上がりしているのだ。

ワタミの業績はゆるやかに伸長

 

 一方で、ワタミのコロナ収束後の業績は、緩やかながら伸びつつある。事業を再構築し、企業価値を高めるための選択と集中の経営判断で次なる改革を急いでいる。2024年3月期決算では売上823億円(前年比5.6%増)、営業利益37億円(前年比54.5%増)、営業利益率4.6%(前年比2.8%増)と、着実に成長をしている

 直近の業績を見ても、2025年3月期上半期(4月~9月)の売上は434億円(前期比7.6%増)、営業利益22億円(22.5%増)で、2025年3月期連結予想は、前期比7%増の売上881億円、営業利益41億円となっており、こちらも業績は伸びている。

 しかしながら、ワタミは市場の成長性と収益性、需要と競争の実態から、「唐揚げ市場での今後の伸びは期待できない」と判断したのではないかと思う。

ワタミの成長戦略の見直しか

 その証拠に、ワタミは居酒屋業態への危機感から、どんどんと他の業態に経営資源を集中させ、次なるコア事業として育成しようと躍起になっているように筆者には見える。

 コロナ禍においても居酒屋市場のさらなる低迷を予想し、焼肉店に素早く業態転換した。焼肉食べ放題「かみむら牧場」、和民和牛をリーズナブル価格で味わえる「焼肉の和民」の2ブランドを業態開発するなど、事業構造改革にトップダウンで取り組んでいたのだ。

 さらに2024年10月に発表されたのが、ファストフードの米国サブウェイ日本法人の買収だ。将来的には3000店舗のFC出店を目指し、マクドナルドに対抗する目標を掲げている。実はワタミは全国に有機農場を有しており、野菜を豊富に使用するサブウェイのサンドウィッチはグループ全体の価値向上にも貢献しそうだ。

レッドオーシャン化する唐揚げ市場

史上最速100店舗を達成した「から揚げの天才」わずか3年で店舗数が10分の1に…好調の“業界トップ”と分かれた明暗
からやま
 レッドオーシャン化する唐揚げ市場の中では、から揚げの天才以外にも、各社がしのぎを削っている

 業界1位を誇る「鶏笑」(株式会社NIS)
は業績を向上させている。国産鶏の使用、低コストによる開業、簡単調理、業界No.1の店舗数、ロイヤリティなし、万全サポート、オーナー1人で運営可能をアピールポイントに加盟店を積極的に募集しており、今や約250店舗を展開する勢いだ。


 2023年2月にはSRSホールディングスが全発行済株式を取得し、子会社化した。SRSとは、和食さとを中核に展開する和食ファミレスチェーンの持株会社だ。NISは、唐揚げ専門店「鶏笑」を運営し、国内外に約200店舗(2024年11月時点)を展開しているが、このM&Aを通じてSRSは、唐揚げのテイクアウト事業に参入。大量仕入れによるスケールメリット、新商品の開発・既存事業とのコラボなどによるグループシナジーに期待しているようだ。

著しく店舗数を減らした「から好し」

 唐揚げ業界2位の「からやま」は、かつ丼チェーン「かつや」と同グループでアークランドサービス傘下のエバーアクション株式会社が運営しており、2022年12月末時点で122店舗出店している。かつやと同様に来店客に次回利用できる100円割引券を配布しており、看板定食はからやま定食(4個入、792円税込)だ。12月には年末大感謝祭を実施しており、筆者が訪れたときは営業開始からすでに客席が埋まっていた。

 2010年には関西圏での店舗展開力を強化するため、SRSと資本・業務提携を締結し、サト・アークランドフードサービスを共同出資で設立し、関西圏でのエリアフランチャイジーとして協力関係を構築している。2024年3月末現在で関西11店舗(大阪10店舗/兵庫1店舗)を展開中だ。SRSは前出の鶏笑も傘下に有している。唐揚げ市場において、鶏笑はテイクアウト事業、からやまは店内飲食と棲み分けを行っている。

 業界3位はすかいらーく傘下の「から好し」だ。すかいらーくグループのスケールメリットとグローバルネットワークを活かした調達力が強みだが、2021年では約90店舗あったのが、現在では56店舗と著しく店舗数を減らしている。
しかしながら、同じグループ傘下で、全国1246店を誇るファミレスチェーン・ガストでから好しの売れ筋商品を販売しており、ブランドの生き残りを図っている。

唐揚げ専門店の持続経営は難しい

 唐揚げ専門店は、低投資で運営ノウハウも比較的容易であるため、参入障壁が低く、店が乱立している。

 経営のメリットは、①初期投資が低く投資回収が早い、②狭小店舗でも出店可能。③オペレーションも単純化できアルバイトのワンオペでも運営可能、④FC展開しやすい、⑤牛肉や豚肉に比べてまだ安価で供給量も安定などがある。

 また、飲食店経営の重要経費である(F)食材費(L)人件費(R)賃料)などが低く、損益分岐点の低い経営も可能である。子供のおやつ、酒のつまみ、弁当やテイクアウトで冷めても美味しく食べられるから便利な商品でもある。

 一方、テイクアウト事業だけでは客単価が上がらず、店舗としては売上アップのモチベーションにつながらない。店舗内にイートインコーナーを設置し、アルコールや定食などを提供する店もあるが、お客の回転率を高め、坪効率を高めないと継続は難しい。これからの唐揚げ専門店は、これらの課題を解決できた店が生き残れるだろう。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。
X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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