朝ドラ「なつぞら」アニメーション編突入記念として、アニメの制作現場を描いたコミックを紹介している。

今回紹介するのは、「りびんぐゲーム」で知られる星里もちるの「セルと羽根ぼうき」(小学館)
Kindleにて1話129円で販売している。5月31日、4話が発売された。サクッと買えて、サクッと読めるのがいい。
細かすぎて伝わらないアニメ撮影の裏側。「なつぞら」と合わせて読みたい、星里もちる『セルと羽根ぼうき』

「セルと羽根ぼうき」が描いているのは、あまり実態が知られていないアニメの制作現場の中でも、さらに脚光が当たらない「撮影」の仕事について。現在のアニメの制作工程はほとんどデジタル化されているが、かつてはセル画を一枚ずつ描き、一コマずつ撮影していた。そんな時代のアニメのお話だ。

星里もちる自身も1981年頃、アニメの撮影助手を務めていた。キャッチフレーズは「細かすぎて伝わらないアニメ撮影(助手)物語」。

アニメの「撮影」というお仕事


舞台は1981年、練馬区石神井町にあるアニメ制作会社、スタジオアイアンにアニメファンの若者、藤木さとるが面接にやってくるところからお話が始まる。

練馬区は「アニメのまち宣言」を標榜するほどアニメ制作会社が多く、現在もアニメ関連事業者数は100社を超える。「なつぞら」に登場する東洋動画のモデル、東映動画(現・東映アニメーション)のスタジオがあるのも練馬区だ。石神井町の付近にも大小さまざまなアニメ制作の関連会社が密集しているが、これはアニメ制作の工程は分業のため、近くに集まったほうが効率的だったからである。


スタジオアイアンは「撮影」を行う会社だった。藤木くんは好きなアニメは欠かさずチェックするアニメファン(当時は「オタク」という言葉も一般的ではなかった)だが、撮影という工程に関してはまったく知識がない。

アニメーションの撮影は「線画台」と呼ばれる撮影台で行われる。線画台にセルと背景を重ねてセットし、備え付けのカメラでコマごとに撮影する。セルは5枚重ねになることもあり、セルに傷やホコリがつかないようにするための掃除が大変になる。そこで重要になるのが、セルとセルの間をはらうための「羽ぼうき」というわけ。

1秒24コマ、本編23分として、単純計算で3万3千コマの撮影が必要になる。アニメの仕事に就けば、ずっとアニメソングを聞きながらアニメの話題に興じることができると思っていた藤木くんだが、それは大きな勘違い。そんなことがやりたければ大学のアニメサークルに行くべきだった。とにかく大変な仕事なのだ。「細かすぎて伝わらない」だなんてとんでもない、大変さは十分伝わってきますよ!

まだ物語は始まったばかりだが、主人公を取り巻く人たちが魅力的。仕事に厳しいカメラマンの瀬古、何かと話しかけてくる陽気な助手の松田、穏やかな社長、明るくて優しい美人カメラマンの大橋さん、そして年が一つ違いの女性助手の今西さんという面々。


特特に、やたらとクールで、初めて笑顔を見せた場面が「みんなで『ゴーショーグン』観るとでも思った?」というセリフだった今西さんと藤木くんの関係がどうなるかが見もの。

なお、星里先生も「なつぞら」をご覧になっているようで、「撮影」の仕事を勧められているなつの妄想イラストをツイッターにアップしていたりする。
(大山くまお)
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