2018年1月に放送が始まって以降、毎週末、話題を集めてきたテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
4月からの放送では、主人公の速杉ハヤトら運転士たちが1学年進級し、ハヤトの乗る「シンカリオン E5はやぶさ」「シンカリオン E5はやぶさ MkII」にパワーアップ。
明日3月30日(土)に放送される第64話は、「第1部最終話」とも言える一つの節目のエピソードとなりそうだ。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」池添隆博監督が託した思い「『好き』を持っている子って素晴らしい」
全国のシンカリオン運転士たち。4月からは1学年進級するため、この姿が見られるのは第64話が最後の機会となるのかも。ちなみに、最年少は小学3年生の大空レイで、最年長は中学2年生の清洲リュウジ

エキレビ!の池添隆博監督インタビュー後編では、1年以上にわたって『シンカリオン』を作り続けてきたことによる自身の変化や、今後の『シンカリオン』に対する思いなども語ってもらった。

(前編はこちら

ラスボスも絶対悪ではなく、彼なりの正義、彼なりの理想はある


──第63話までで、ストーリーやセリフなどが特に印象深いシーンを教えてください。

池添 このシーンというのは難しいのですが、実は人間のキャラクター以上に、(敵対する)キトラルザスのメンバーを描くことは楽しかったです。キトラルザスのエージェントの4人(ビャッコ、ゲンブ、スザク、セイリュウ)は、明らかに人ならざるものというか。最初は会話もできないような敵キャラだったのに、シンカリオンと戦うことで少しずつ感情みたいなものが芽生えていく。そこはすごく丁寧に描いてきたつもりですし、一番楽しくて印象に残ったところでもあります。もちろん、作品の中心は(主人公の)ハヤトですし、その他の運転士たちを含めた(人間の)キャラクターの成長も大切に描いてはいるのですが。

──敵をどう描くのか、ということもロボットアニメを作る際、重要で難しいポイントだと思います。キトラルザスの設定は、どのようにして生まれたのでしょうか?

池添 たしかに敵をどんな設定にするのかは相当悩みました。しょっぱなから宇宙人みたいなものがやって来るのは何か違和感があって。でも、地球に住まわせるわけにもいかないから、地下からやってくることにしたんです。カイレンというラスボスの目的は、人間が現れる前の昔の地球に戻すこと。
そのためには人間なんていらないと思っているんです。絶対悪ではなく、彼なりの正義、彼なりの理想はあるのですが、感情はまったく無いんですよ。そういうボスを作ったので、対照的に、だんだんと感情が芽生えてくるキトラルザスのことも描きたいと思ったところはありました。

──新幹線超進化研究所、初代所長の八代イザブロウが、ドクター・イザとなりキトラルザス側にいるという展開は、カイレンやエージェントたちが設定された後に決まったのですか?

池添 順番ははっきり覚えていないのですが……。最初にイザのようなビジュアルの博士キャラが生まれ、次に4人のエージェントが生まれて。その後、どこかに旅に出ていたカイレン一派が戻って来るという風に考えていった気がするので、イザが一番先かもしれないですね。敵側にもシンカリオン(ブラックシンカリオン)があるという設定は、初期プロットから決まっていたのですが、「それはなぜなのか?」ということを考える段階になった時、「イザが昔、超進化研究所にいて、シンカリオンの開発者だったら?」というアイデアが出てきて。そこから、八代所長と(速杉)ホクトや出水(シンペイ)指令長たち大人の関係性も膨らんでいったんです。あと、その時点ではリュウジの父親がすでに亡くなっているという設定も決めていたので、「亡くなった父親は開発者の参謀だったことにしよう」とか、後付けで決まっていったことも多かったと思います。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」池添隆博監督が託した思い「『好き』を持っている子って素晴らしい」
超進化研究所が設立された当時に撮影された写真。現在も所属する速杉ホクト、出水シンペイ、三島ヒビキ、小田原キントキの他、ドクター・イザとなる前の八代イサブロウ、リュウジの父の清洲チクマも映っている

──大人の中でも若い世代、運転士指導長代理の三原フタバや指令員の本庄アカギの成長も描いていくことは、当初からの構想にあったのでしょうか?

池添 第1話の時点でのフタバは新人オペレーターでしたが、その設定が固まった時には、その後、運転士たちの良いコーチのような存在へ成長させていこうというイメージはありました。でも、本庄に関しては、最初、何でもないモブキャラくらいの存在で(笑)。報告するだけのオペレーターでした。
ただ、毎回、画面に映っているので、(シリーズ構成の)下山(健人)さんが膨らませてくれた部分は大きいと思います。本当に報われないやつなんですけれど、今や『シンカリオン』には無くてはならないキャラクターですからね。

下山さんが書くシナリオに関して困ったことはありません


──シリーズ構成の下山さんは鉄オタでもあるということで、作品に与えた影響も大きいかと思います。特に印象深い下山さんのアイデアや、下山さんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。

池添 下山さんと言えば、やっぱりJRのCMネタですよね。

──JR東海の「クリスマス・エクスプレス」など懐かしのCMをかなり本気で再現していました。

池添 あのCM(のパロディ)は、下山さんがすごくやりたがっていたことなので、実現できたのは、きっと彼にとってすごく嬉しいことだったと思います。映像的にも気合いの入ったものになっていますし。あとは、それぞれのキャラクターのちょっとしたオタク要素、例えば、(大門山)ツラヌキが地形オタクだったりすることなどは、全部下山さんのアイデアだし、それが下山さんの好きなものだったりするんです。だから、下山さんの好きなものがちょっとずつ散りばめられているアニメでもあるんですよ(笑)。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」池添隆博監督が託した思い「『好き』を持っている子って素晴らしい」
「ハックルベリー・エクスプレス」「クリスマス・エクスプレス」「ファイト・エクスプレス」などJR東海の名作CMを再現したシーンも話題に。「本編以上に力を入れて作っていたりもしますね(笑)」(池添監督)

──一人の個性が、複数のキャラクターのコアな要素として散りばめられているのは、すごいことですね。

池添 下山さんは、本当にオタクなんですよね。だからこそ、ああいうマニアックなことができるのだと思います。
それに、毎回かなり基盤のしっかりしたシナリオを書いてくださるし、落としどころも最初からすごく分かりやすいので、シナリオに関して困ったことはありません。あ、でも、けっこうアドリブで書かれるタイプみたいで、「先の展開を教えてよ」とか、「地底人どうなるの?」とか聞いても、はぐらかされるんですよ(笑)。

──監督も先の展開を知らない場合があるのですね。

池添 ただ、本当にコンテをしっかりと見てくれて、放送もリアルタイムでチェックしてくれるんです。コンテを書く段階で、シナリオから変えることもあるのですが、「(コンテで)こう変わったなら、こうしよう」みたいなことも考えて、先の脚本に生かしてくれています。

──言葉で伝えなくても、キャッチボールができているわけですね。

池添 そういう形になっていたと思います。この前(2月)のイベント(「超進化研究所がおくる!冬のシンカリオン感謝祭」)で、シナリオにはあったのに本編ではカットされた(月山)シノブのセリフを再現するコーナーがあったんですよ。

──下山さんが脚本を担当した朗読劇ですね。

池添 僕も申し訳ない気持ちがあるから、「セリフ、切っちゃった」とかは、わざわざ報告しないんです。でも、下山さんはそれをチェックしておいて、ネタとしてイベントにぶっ込んできた(笑)。そういうところも本当に上手いなと思いました。


鉄道監修をしてくれる原さんは、いまや「神」みたいな存在


──下山さん以外のスタッフの中で、特に印象深い仕事をしていたり、印象深いエピソードがあったりする人がいれば教えてください。

池添 僕は1年以上続くタイトルで監督をするのは初めてなんですけれど。やっぱり、毎週コンテを上げて、毎週、(完成映像を)納品するみたいなスケジュールになっていくので、現場はすごく大変なんです。そんな状況の中でも、スケジュールやクオリティを守るために踏ん張っていただいているスタッフの方々には感謝の気持ちしかありません。それに加えてということで、特にお名前を挙げるとしたら、(アニメスタジオの)亜細亜堂さんのスタッフさんで、鉄道監修をしてくださっている原(鐡夫)さんですね。

──以前、TBSの渡辺信也プロデューサーのインタビューで、亜細亜堂に鉄道に詳しいスタッフがいると聞いたのですが、その方ですね!

池添 原さんに監修していただくというのは、当初、まったく想定してなかったことなんです。第1話のラッシュ(撮影後の映像をチェックする作業)の時、知らない男性がいるなと思ったんですよ。その方が原さんで、当時は動画検査(チェック)として入っていただいたので、「動画検査の原さんです」と紹介されて、ご挨拶したんですね。でも、その原さんがいまや、鉄道監修として『シンカリオン』には無くてはならない存在。すごく鉄道に詳しくて、「この駅はこういう構造で、この列車が来るのは何番線だ」とか、「時刻表がこうなっているから、この列車はこういう向きなんだ」とか全部指摘してくれるんです。原さんがいなかったら、そのあたりがすごくふわふわした作品になっていたと思います。

──原さんのチェックは、どの工程で入るのですか?

池添 基本的にはラッシュの時ですね。新幹線(のミス)とかも直接、描き直してくださったりして、本当に助かっています。
いまや「神」みたいな存在ですね。

──アフレコについても聞かせてください。この作品のアフレコで、特に意識していることはありますか?

池添 アフレコに関しては、音響監督の三間(雅文)さんの存在が一番大きいと思います。三間さんとは、以前からご一緒する機会は多かったのですが、三間さんも演出家なので、アフレコの段階でどんどん膨らませてくれたりするんですよね。だから、『シンカリオン』のアフレコでも、三間さんにお任せしているところは相当大きいです。僕の方から、あれこれ言うことはあまりありません。相談されたことや、確認されたことに対して答えたり、判断したりするくらい。アフレコとダビングを三間さんが担当してくださっていることは、『シンカリオン』という作品自体にとっても、かなり大きいことだと思います。

カイレンとの戦いの後、仲間たちはどういう道を選ぶのか


──第62話のラストで、東京駅に中央迎撃システムが存在すると明かされた時、非常にクライマックス感が高まりました。「キトラルザス決着編」の最終決戦の場を東京駅にしようということは、早くから決めていたのですか?
「新幹線変形ロボ シンカリオン」池添隆博監督が託した思い「『好き』を持っている子って素晴らしい」
ホクトと出水をドクター・イザに会わせるため、ハヤトはE5はやぶさに乗って地底世界へ。一方、その他の運転士たちは、東京駅中央迎撃システムの中で巨大カイレンを迎え撃つ。しかし、カイレンの力は圧倒的で……

池添 最終決戦の場所をどこにするかについては、中盤くらいのシナリオ打ち合わせの時から考えていました。前にハヤトが「新幹線の始発は東京駅だ」と言っていましたが、そこを敵側が潰せばシンカリオンも機能しなくなるだろうという象徴的なイメージもあるので、東京駅になった感じですね。僕は本当は市街地戦をやりたかったので、東京駅(中央口)前の広場で戦わせたかったのですが、CGの作業的に無理だと言われました。
それに、すぐ近くに皇居があるので……。

──もし壊したら、絶対どこかに怒られますよね(笑)。

池添 なので、地下にもぐって、天井にバリアを張って戦うという設定ができました。でもそうすることで、戦う空間のスケール感をすごく出せたし、中央迎撃システムが完成するまでのギミックも見せられたので、結果オーライだったかなと思っています。

──1年以上、『シンカリオン』という作品を作ってきたことで、池添監督ご自身が何か「進化」を感じたことはありますか?

池添 進化というと難しいですが……。『シンカリオン』は、「鉄道ってすごいな」と思わせてくれた作品なんですよね。各地へ取材に行って、「鉄道や駅はこうやって成立しているんだ」ということをたくさん知れたし、社会科見学じゃないですけれど、すごく勉強になりました。今では、新幹線が通ると「お!」と思うくらい、気になる存在になりましたからね(笑)。そこは、自分の中でのイメージがごっそり変わった部分です。僕はオタク要素が全然無い人間で、真っ直ぐ夢中になれるものって、あまり無かったんですよ。でも、『シンカリオン』に携わって日本全国を見たことで視野が広がり、移動の幅も広がりました。今は新幹線で地道に日本列島をわたっていきながら景色を見たりしていると、本当に幸せな気分になるんです。以前は、旅行と言えば、とりあえずハワイみたいなタイプだったんですけどね(笑)。

──日本から離れることが旅行だ、という感覚だったのですね。

池添 でも今は、新幹線は癒しを与えてくれるものなんだなと気づきました。それが高じて「線路ってすごいな!」とか、この線路を日本全国に繋げた「人間って、すごいな」とまで思うようになっています。

──キトラルザスのエージェントみたいですね(笑)。

池添 そうそう、「人間ってなんなんだ!」って(笑)。僕がこの作品の中で紡いでいったテーマは、「『好き』を持っている子って素晴らしいよね」ということ。そういう感情がまったく無かったキトラルザスでさえ、ハヤトが乗っている新幹線とシンカリオンに惹かれ、「好き」という感情や「家族」というものを知っていくんです。だから、部屋の中で携帯ばっかり見ている子にも、外に目を向けて欲しかったし、そうすることで、僕が知ったような幸せや驚きも感じて欲しいと思っています。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」池添隆博監督が託した思い「『好き』を持っている子って素晴らしい」
新幹線が「好き」という純粋な気持ちでキトラルザスのエージェントたちに感情を芽生えさせ、他の運転士たちや大人も引っ張ってきたハヤト。第64話、そして、その先の物語では、どんな進化を見せてくれるのか?

──第44話で、キトラルザスのゲンブに「家族とは何だ?」と聞かれた出水指令長は、「美味しいものを食べた時、これを味合わせたいと思う相手が家族なんだ」という主旨のセリフを言います。この他にも、説明するのは難しい概念を非常に上手く表現したセリフの多い作品ですが、それらは下山さんから生まれたものですか?

池添 そういった名言は下山さんですね。最初に読んだ時、すごいなと思ったし、「よくぞ、このセリフが生まれたな」と驚きもしました。きっと下山さん、今、幸せなんですよ(笑)。

──いよいよ、明日は「キトラルザス決着編」のラストとなる第64話が放送されます。ネタバレ無しで話すのは難しいと思うのですが、見どころなどを教えてください。

池添 まず制作の裏側から話してしまうと、4月以降も『シンカリオン』が続けられると決まった時点で、ここでお話を完全に終わらせてしまっては駄目だよね、ということになったんです。だから、一つの物語として大団円はしますが、完全に終わってしまう空気ではありません。一番の見どころとしては、人の持つ感情をすべて否定しているカイレンに対して、ハヤトを始めとした人々がどう協力して、どう戦うのか。その戦いの後、仲間たちはどういう道を選ぶのかも含めて、期待して観ていただければと思います。

──では、その先の『シンカリオン』に関して、こんなことが実現できれば良いなと思うことを、願望や妄想で構わないので教えてください。

池添 個人的に一番思っているのは、もう少し幅広い層に観てもらいやすい放送時間になったら良いな、ということなんですけれど(笑)。それ以外だと、駅や新幹線と『シンカリオン』のコラボを実現できたら楽しいだろうなと思います。例えば、夏休みや冬休み限定でも良いので、ハヤトの車内アナウンスが流れたりとか。実際の新幹線とアニメの夢のコラボを見たいですね。あとは、やっぱり映画ですよ。子供向けアニメとして、『シンカリオン』の映画が毎年恒例のものになるというのが目指すべき形なのかなと思います。僕自身がいつまで関わることができるかは分かりませんが、もしスタッフやキャラクターが変わったとしても、『シンカリオン』というタイトルには終わって欲しくない。人と人を繋ぐ新幹線のように、『シンカリオン』もずっと繋いでいってもらえれば良いなと思っています。
(丸本大輔)
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