企画・プロデュースを担当するキングレコード須藤孝太郎プロデューサーインタビューの後編では、第7話、第10話、第11話など、後半回で特に大きなインパクトを残したエピソードの制作裏話などを聞いていく。
(前編はこちら)
高木さんと小山さんがこんなにもユニークな方だったとは
──放送がスタートした時点で、アフレコは何話まで終わっていたのですか?
須藤 たぶん、第11話Aパートぐらいまでは終わっていたので、第1話の放送を観てからアフレコできたのは、第11話Bパート以降のキャストさんだけかもしれません。自分の前後の話数で、誰がどんな風に演じているのかも、まったく分からない状況で収録してもらっています。
──AパートとBパートも別々に収録しているんですか?
須藤 別ですね。第11話は変則的でしたが、基本的には同じ日、同じスタジオで収録しました。ただ、午前と午後で分けているのでキャストさんが会うことはないんです。
──すでに放送された第11話までのアフレコで特に印象的だった事を教えて下さい。
須藤 いろいろとありますが……第10話の高木渉さんと小山力也さんのペアって、おふざけ度で言うと一番じゃないかと思っていて。放送されるのが一番怖かったです。高木さんと小山さんがこんなにもユニークな方だったことは、今回、初めて知りました。
──「あの警部、日暮だって」「良いんですか?」というセリフもありましたが、私も同じ気持ちでした。
須藤 警部役を茶風林さんにお願いしたのは、(音響制作会社の)グロービジョンさんのアイデア。僕やぶくぶ先生が何かを言ったわけではないんです。「須藤さん、良い役者さん、ご用意しましたよ〜」みたいな感じで、「警部役は茶風林さんです!」と言われて。
第11話Bパートのものまね芸人BBゴローは、一発録り
──第11話は原作にも出てくる謎の踊り「エイサイハラマスコイ踊り」がフィーチャーされていました。水樹奈々さんのこぶしの効いた歌声も印象的です。
須藤 水樹さんと能登さんのコンビは、ぶくぶ先生のリストには無かったのですが、水樹さんには出てもらいたいなって、ずっと思っていました。キングレコードですしね(笑)。それでパートナーは誰が良いか考えたのですが。それまでのアフレコの時、ポプ子とピピ美の声優さんが隣同士に座って、どうやってアドリブを入れようとか、けっこう話し合いをしながら収録をしていたんですね。だから、水樹さんと仲の良い人にお願いした方が絶対に良いと思って。社内の人間に水樹さんと仲の良い人を聞いたら、能登さんのお名前が上がったので、お願いすることになったんです。実際、おふたりもすごく話しながら収録してくださって、良かったなと思います。水樹さんにこぶしを回して歌ってもらったのは、「演歌っぽく」という、こちらからのオーダーです。
──ポプ子が郷田ほづみさん、ピピ美が銀河万丈さんでした。
須藤 最初のアイキャッチの「ポプテピピック」の言い方も、こちらから銀河さんにお願いしました。「すみません、すみません」って謝りながら。
──第11話のBパートは、ものまね芸人BBゴローさんのネタにも驚きました。
須藤 僕、全12話を通して、一番あのパートが好きかも。けっこう衝撃的でした。ホラー回なので、それっぽくお話ししていただけるものまね芸人さんに出てもらえたら面白いんじゃないかという話になって。良い人を探している時にBBゴローさんのことを知ったんです。それで、BBゴローさんの事務所に連絡したら、快諾していただけました。
──あのネタの台本もアニメの制作側が作っているのですか?
須藤 いえ、中身を考えてくださったのはBBゴローさんです。映像だけを事前に渡しておいて、自由にやって下さいとお願いしました。
AC部の高速紙芝居は失敗したら最初からやり直し
──後半のエピソードで言えば、第7話のAC部パート、ヘルシェイク矢野の高速紙芝居も話題になりました。
須藤 実は僕、第7話が放送される前は、すごく心配だったんです。AC部さんの紙芝居自体はすごく面白いし、大好きなんですけれど、一応、「ポプテピピック」もアニメなので実写パートは心配になるんですよ。それに、AC部さんのパートは声もAC部の安達(亨)さんと板倉(俊介)さんの声なので、基本、Bパートも同じものになっちゃうじゃないですか。紙芝居に関しては、けっこう尺も長いので、同じのを見せられるのはキツいかなと思ったんです。だから、オンエアの本当に直前になって、Bパートの音声だけを差し替えました。Bパートは安達さんと板倉さんの声が入れ替わっているのですが、あれは急遽、別に収録した声なんです。そんな応急処置をして何とか違いを出そうと思うくらい不安だったのですが、すごく良かったと言ってくれるお客さんが多くて。先ほど(前編で)AC部さんに対するお客さんの反応が予想外だったと話しましたが、第7話の反響の大きさも想像してなかったですね。
──高速紙芝居、すごい発想と技術だなと思いました。
須藤 紙芝居の収録はすごく楽しくて、収録はあそこが一番楽しかったかもしれません。
会社としても新しいアニメ制作の形を一つ提示できたのかも
──須藤さんにとって、「ポプテピピック」は、どんな作品になりましたか?
須藤 やりたかったことは、ほぼできたんですけれど、やっぱり今思うと「ここをこうすれば良かったな」と思うところは出てきます。後から気づいたことも多いので。GOサインを出した後、「やっぱり、あのネタは回避すれば良かった」と思って、オンエア前になってすごく悩んだりもしたし……。「半年前に戻れたら回避できるのに。そうすれば、こんな思いはしなくて良かったのに……」と思うことは結構ありました(笑)。もちろん、今はやって良かったなと思っていますけどね。
──完全に逆転しているとは驚きました。
須藤 これは、今までとは違う層にまで届いているってことだと思いますし、こういう売り方もあるんだなと気付かされた部分はあります。そういうところでも、「ポプテピピック」は、ウチが今までやってきた深夜アニメという枠よりも少し外にまで届いている感覚がありました。それを体験できたのはすごく良かったですね。普段全然アニメを観てない人からも、「観たよ」って言われたりして。この仕事をしていても、そんな経験はあまり無いので。
──では、最終回を楽しみにしているファンの方にメッセージをお願いします。
須藤 もしかしたら、最終回を見た後、キングレコードのある江戸川橋に来たくなる人がいるかもしれないんですけど。江戸川橋ではなく、竹書房さんのある飯田橋に行ってくださいね(笑)。
(丸本大輔)