政府は昨年12月8日、幼児教育無償化を含んだ2兆円規模の政策パッケージを閣議決定した。それに先駆けて、自民党の若手議員らは、子育て世代の支援策として「こども保険」を提案していた。
党内の「2020年以降の経済財政構想小委員会(以下、小委員会)」(委員長代行・小泉進次郎衆院議員、事務局長・村井英樹衆院議員)がとりまとめたものだ。
党内では賛否両論ありつつも、茂木敏充政調会長(当時)が安倍晋三首相に対して提出した内容では、社会保険方式などを含めて「検討すべき」という提言にまで至った。
今回、こども保険の意義や理念はどういったものだったのか、小委員会の事務局長をつとめた村井さんに話を聞いた。
「こども保険」とは何だったのか 提案した衆院議員・村井英樹さんに聞く
自民党の村井英樹衆院議員


「静かなる有事」少子高齢化を乗り切るための提言


――村井さんらが提案した「こども保険」の意義を教えてください。
村井英樹(以下、村井) 現在、進行中の少子高齢化は恐るべきスピードで進んでおり、安倍首相もこれを「国難」と断じています。この進行を止めなければ、経済的には「将来の働き手・消費者」が減少し、社会保障の観点から見れば、年金などの「支え手」がいくなり、まさに「静かなる有事」です。
これは真正面から取組むべき課題であると同時に、乗り越えることができれば日本に明るい未来を切り開くことができるという考えのもと、小泉議員らとともに、自民党の若手議員による「2020年以降の経済財政構想小委員会」でまとめ、「こども保険」を提言しました。

――「子育て」について、社会的に寛容でない部分についてどうお感じですか。
村井 まず、30年前と今では子育ての環境が異なり、お子さんを産み育てることが非常に大変になっています。
たとえば、「子どもの声がうるさい。保育園を自分の家の近くに建設することを許さない」、「ベビーカーは電車の中ではスペースを取るから入ってくるべきではない」などという意見があり、社会全体で子育てを応援できているとは言えない部分も見受けられます。お子さんを産み育てることは親御さん自身の責任なのは当然ですが、それだけではこの「静かなる有事」「国難」を乗り切ることはできません。
今こそ、「子育てを社会全体で支える」という方向に大きく舵を切るべきであり、それを実現するのは政治の責任だと考えています。
「こども保険」は、まさにそうした考え方を体現する政策提言です。

――その「こども保険」の内容をあらためて整理しますと。
村井 子育てを社会全体で支えていくという理念の下、年金・医療・介護に続く新しい社会保険として、企業や労働者から社会保険料を上乗せで徴収し、保育や幼児教育の負担を減らすために使う仕組みです。保険料率を段階的に0.5%まで引き上げると財源は約1.7兆円にのぼり、小学校就学前の児童に対する支給額を2万5,000円上乗せすることができます。

――「働き方改革」にもつながりますが、子育ては余裕がないと今は難しい時代ですね。村井議員はお子さんがお二人いますからより実感しているのでは?
村井 2歳と6カ月の子どもが二人おりますが、子育てには、「時間」と「資金」の二つの余裕が必要だと実感しています。
「時間的余裕」は「働き方改革」などをより深化していくことで、「資金的余裕」はまさにこの「こども保険」などで確保していきたいと考えています。


有権者からの関心も高かった「こども保険」


――「こども保険」について自民党内の意見はいかがですか?
村井 さまざまな意見があることは確かですが、党内での議論を深めた結果、政調審議会でも認められ、昨年6月に政府で閣議決定された「骨太の方針」でも、「幼児・保育教育の早期無償化や待機児童の解消に向け、財政の効率化、税、新たな社会保険方式の活用を含め、安定的な財源確保の進め方を検討し、年内に結論を得る」とされました。
最終的には、衆議院選挙があったこともあり、消費税の財源を使って、こうした施策を行っていくこととなりましたが、社会全体で子育て支援を行っていくべきという「こども保険」構想の果たした役割は大きかったと思います。

――選挙戦中の有権者からの反響はいかがでしたか?
村井 賛否両論さまざまな意見を頂きましたが、社会全体で子育て世代を支えようという革新的な提言が自民党の若手議員からあったことに対して、子育て世代や若者から強い期待を頂いていると実感しました。確かに昔は専業主婦が多く、色々な意味で子育てにゆとりがありましたが、今は子育て世帯の約7割が核家族、三世代同居や共働きです。「政治はようやく私たちの方を向いてくれた」という話を聞くこともあります。


――率直に言うと、高齢者の投票率が多く、政策もそちらに偏重しすぎる危惧を持っていまして、もう少し子育て世代向けの政治があっても良いのかなと感じていたところでした。
村井 もちろん、高齢者支援の政策も重要ですが、この国の一番の問題はどこにあるのだろうかと考えた際、少子高齢化時代にあっては「子どもは社会全体で育て、支えていく視点が欠けていた」と率直に想い、小泉議員らとともに「こども保険」を提言したのです。

――自民党内ではいろんな意見があり、党内野党というべき方もいますね。
村井 小泉氏もよく言いますが、自民党には、異質な政策、考え方、人物を受け入れる土壌があります。新しい発想であっても、党内で「まあ、正しいことを言っているね」と認識されれば、重要政策として取り上げられます。
マスコミはよく、「安倍一強」と言われますが、安倍首相がすべての政策を一から十まで決めているわけではありません。それは、われわれの小委員会で訴えてきたことが政策の「一丁目一番地」に位置づけられたことからもお分かりいただけるかと思います。

――「子どもは社会全体で支えていく」、この理念を今後どのように深化させていきますか。
村井 政策を実現するためには、一歩ずつ地道に進めていくことが大切です。まずは待機児童解消と、「幼児教育・保育の無償化(原則3~5歳児対象)」に全力を傾注します。
その上で、個人的には、0~2歳児の子どもを持つ世帯への支援の充実等も、必要財源の確保を含め、検討していく必要があると考えています。

――「スマダン」は20代~30代の男性向けです。
独身者もおりますし、子育て中の方もおります。その方々へのメッセージとしては。

村井 子どもは家庭の宝であるとともに、社会にとっても宝です。それを再認識して欲しいというのがこども保険構想にこめられた願いでした。
確かによそのご家庭のお子さんだから関係ないという考え方もあるかも知れませんが、子どもの存在は経済学的に言うと「外部経済」であり、経済・社会の発展に大きく貢献する存在です。個人や自分だけの世帯を考えるのではなく、「経済・社会の持続的発展のためには急激な少子化をくい止めることが必要」だというより広い観点に立って、ぜひ少子化対策への理解を深めて欲しいと考えています。

――ありがとうございました。
(長井雄一朗)
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