水着回、デート回など明るく楽しいエピソードが続いていたTVアニメ「琴浦さん」
しかし、先日放送された9話からは、再びシリアスパートに突入。
メインキャラが、連続通り魔事件に巻き込まれるという、緊迫した物語が展開しています。
太田雅彦監督インタビューの後編では、人気キャラの森谷ヒヨリや、「コシコシ」「つるぺた」というフレーズやインパクト抜群の映像で話題を集めた主題歌のこと。そして、ますます気になる今後の展開について語っていただきました。
なんと、最終回の話まで明らかに?
(前編はこちら

森谷は元から良い子と分かって欲しい

――琴浦さんと真鍋のクラスメートである森谷も、非常に魅力的なキャラクターです。真鍋に片思いしていたので、最初は琴浦さんに嫉妬し、いじめていましたが。今は親友になってます。
太田 森谷については、序盤の話で春香をいじめるので、かなり気を使って描いたつもりなんです。それでも視聴者の方には、けっこう叩かれてしまいましたが……。最近の話を観て「性格が変わったんじゃないか?」と言ってる人もいますけど、僕は、変わったとはまったく思ってません。彼女は、元からこういう子。それが、嫉妬心だったり、周りの友達にあおられたりで、ちょっとねじ曲がってしまっただけなんです。小学校の頃からずっと真鍋が好きだったのに、突然現れた冴えない女の子に取られるわけですから。
そりゃあ、相当、頭に来ますよ(笑)。
――自分に当てはめて想像したら、かなりショックですよね。
太田 アニメでは、どうしても春香を中心で描いていくことになるから、(尺の関係で)森谷がどれだけ真鍋を好きだったかについては、十分に描けなかったところもあります。だから、森谷が悪役に見えてしまいがちなのだとは思うのですが……。元から良い子だということは、皆さんにも分かってもらいたいと、切に思っています。人間、誰しも間違うことはありますからね。
――でも、アンチ森谷の人ばかりではなく、森谷ファンも多いと思います。僕もそうですし。琴浦さんと仲良くなってからの森谷は、完全にいじられキャラになっていて、可愛いですよね。家が、怪しい空手道場というネタも頻繁に取り上げられていて。徹底したいじられキャラっぷりには、監督の愛も感じるのですが(笑)。
太田 ええ、大好きですよ。
それに、この作品の中で、ギャグ的に(空気を)持ち上げられるのは、真鍋のエロスな妄想と、森谷や森谷道場の連中なんですよね。話的に重くなることも多い作品なので、そういうときに、森谷や森谷道場のネタを出すと救われる。色々と遊ばせてもらっています。
――特に5話は、本編から次回予告まで、森谷をいじりまくってましたね。
太田 ある意味、5話は、視聴者に森谷を許してもらうための回なんですよ。可愛らしく森谷をいじめて、「これでもう許してあげてね」という。シリーズ構成のあおしま(たかし)の配慮ですね。
――森谷役の久保ユリカさんについて、キャスティングのポイントは?
太田 可愛らしい声が良いのか。普通の声が良いのか。いろいろと迷ったりはしたのですが。結果的に、普通にしていても可愛い声の久保さんにお願いできて、良い感じだと思います。音響監督の(明田川)仁さんが、久保さんのアドリブを面白がってて。
回が進むにつれて、どんどんおかしなことになってるんですよ(笑)。9話で、森谷の顔が般若のようになるシーンのアドリブは、「これでOKにしちゃうんだ?」って驚いたくらいです(笑)。すごく面白かったですけどね。
――新人声優さんですが、すでに自分の色を出せているんですね。
太田 真鍋役の福島さんたちが、すごくアドリブを入れてるのを見ているからだと思うんですけど。それに仁さんが呼応して、もっともっととあおるので。きっと、苦労しながら頑張ってくれているのだと思います。すごく元気な楽しい方で。森谷がネットで叩かれていたとき、しょんぼりしてるかなと心配していたんですけど。会うとすごいケラケラしてて。「あ、ノーダメージなんだ」って(笑)。

僕も聴いて、驚愕しました

――「琴浦さん」は、放送スタート直後から、「コシコシ」という謎のキーワードが耳に残るオープニング「そんなこと裏のまた裏話でしょ?」でも話題になっていましたが。
6話のエンディング「つるぺた」(エンディングテーマ集に収録)も、強烈なインパクトがありました。この楽曲に関しては、監督からリクエストを?
太田 具体的な曲の内容に関しては、(製作会社の)フライングドッグさんから提案していただきました。1話からのエンディング(静かな曲の「希望の花」)だと、楽しい話の回には、ちょっとかけづらかったんですね。シナリオ打ち合わせの段階で、楽しい話が2本あることは分かっていたので(5話と6話)、その話数のエンディング用に楽しげな曲を作ろうということになったんです。それで出来上がってきたのが、ああいう曲で。僕も聴いて、驚愕しました(笑)。
(取材に同席していたフライングドッグの吉田博プロデューサーに話を振る)
吉田 弊社音楽プロデューサーの福田(正夫)が、「この作品は、『コシコシ』と『つるぺた』という2つのキーワードで、インパクトのあるイメージを作っていきたい」と言ってきまして。「良いんじゃない」と答えたら、ああいう曲が上がってきてしまいました。ゴメンナサイ(笑)。
――大成功だと思います。オープニング曲についての監督の印象は?
太田 まずは、「コシコシって言葉は何?」ってなりますよね。微妙にエッチな言葉のようにも聞こえるし(笑)。
最初は、ネットなどで流行ってる言葉なのかなと思ったんですけど、どうも違うみたいで。結果的に、上手く印象に残るオープニングにできたと思います。
――「コシコシ」の歌詞に合わせて、琴浦さんが真鍋に頭をすりすりする動きは、監督のアイデアですか?
吉田 それは、私の方から提案させていただきました。
太田 あの動きは、犬や猫の臭いづけの行為なんですよ。それを「コシコシ」という言葉で表現しているらしくて。
吉田 そういう言葉があるらしいんですよ。僕は知らなかったんですけど……。それで、そのままだと、歌詞の意味が分からないので、そこだけは音と絵の動きを合わせてくださいと、オーダーをさせていただいたんです。そうしたら、「よしよし」や「でもでも」の歌詞の部分でも、動きを合わせていただいて。とても可愛いオープニングにしていただきました。

春香が幸せになる過程を観てもらう作品

――では、「つるぺた」についても教えてください。金元さんの「つる~んぺた~ん」の歌声に合わせて、スクール水着姿の琴浦さんが、飛行中のウルトラマンのポーズで氷上を楽しそうに滑っていく。
最初に観たとき、爆笑しました。
太田 あれは、自分の作品のセルフパロディみたいなものなんですよね。「みつどもえ」のときに、一度やっているので(第9話のエンディング)。曲を聴いて、いろいろと別のアイデアも考えはしたんですけど。これ以上、面白いものが浮かびませんでした。
吉田 最高です!
太田 やっぱり、「つるぺた」を表現するには、水着姿が一番はっきりと分かるし。さらに、うつぶせになって滑ってたら、胸が無いことを強調できるだろうという意地悪な発想です。しかも、本人が楽しげに滑っていたら、余計に悲しいじゃないですか(笑)。
――切ないですね(笑)。では、最後に今後の見どころについても教えてください。琴浦さん、真鍋、森谷の3人がESP研究会に入部してからは、部長の御船百合子や、副部長の室戸大智も一緒になっての楽しい日々が続いていたものの、8話、9話と不穏な空気ですよね。
太田 そろそろ皆さんも鬱展開を期待してる気がするので、ちょっと深刻な話を、という感じで(笑)。ESP研究会としての活動を楽しんでいた御舟も、通り魔事件をきっかけに、(詐欺師扱いされて)亡くなったお母さんの超能力を証明しようという欲が出てきて。春香もそれに巻き込まれていきます。その中で、ESP研の結束が問われる展開もあって。春香も、真鍋も、他の部員も、いろんな決着がついていくので、ドキドキしながら見てもらえたら嬉しいです。
――最終話まで見終わった後、この「琴浦さん」が、視聴者にとってどんな作品になっていれば良いと思っていますか?
太田 基本的にこの作品は、どん底にいた春香が幸せになっていく過程を観てもらう作品だと考えているので。最終回では綺麗なハッピーエンドが待っていると思って。鬱展開を我慢して観てください(笑)。
――本当に、ハッピーエンドになるのでしょうか?
太田 真鍋がいるから、大丈夫です!
(丸本大輔)
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