主人公は、人の心を読める超能力のせいで、友人や両親からも疎まれてきた少女・琴浦春香。しかし、翠ヶ丘高校へ転校し、春香の能力をまったく気にしない少年・真鍋義久と出会ったことで、生来の明るさや笑顔を取り戻していきます。
エロ妄想好きな真鍋と、純情な春香の二人を中心としたラブコメ展開。
春香の暗い過去や、超能力がかかわるシリアス展開。
その両方を描いていく本作は、「みつどもえ」「ゆるゆり」などの明るく可愛い人気作で知られる太田雅彦監督にとっても新境地で、新たな代表作となりそうな予感。
そこで、クライマックスの制作作業も佳境の中、太田監督にインタビューしてきました。
楽しいところも、重いところも倍増させる
――「琴浦さん」の原作を読まれたのは、監督としてのオファーがあってからですか?
太田 はい。(制作会社の)AICさんの方から話があってからですね。僕に話が来たということは、きっと楽しげな話なんだろうなと思いながら読みはじめたんですけど……。急にシリアスパートが入る変わった作品で、少し驚きましたね。
――そんな変わった作品をアニメ化する際、まず大切にしたいと考えられたことは?
太田 楽しいだけの作品ではなくて。急に可哀想なことになったり、主人公のバックボーンが重かったりする部分は原作の個性であり、良いところだと思うんですね。
――原作のエピソードを再構成している第1話は、まさにその振り幅の大きさを強調する構成になっていましたね。Aパートでは、幼少期から現在まで、琴浦さんがどのようにして、友人や両親から拒絶され、心を閉ざしていったのかをじっくりと描いていて。原作を知らずに観て、まさかのダーク展開に相当なショックを受けた人も多いようですね。
太田 第1話の頭ですから、楽しいアニメが始まると思って観はじめた視聴者に、強烈なインパクトを与えたいという意図は、当然ありました。あとは、こういう重い展開もある作品ですよと、初めに示しておきたかったという意図もあります。でも一番の狙いは、春香がどれだけ可哀想な人生を送ってきた女の子なのかを、視聴者に認識してもらうこと。それができれば、その後、春香がちょっと笑顔になるだけで、みんながすごく「良かったね~」って気持ちになるじゃないですか。
――僕も、実際にそう思ったので、よく分かります。
太田 そうなってくれたら、春香がもっと愛してもらえるだろうし。「真鍋、早くなんとかしてやってよ!」と真鍋を応援する気持ちも、かき立てられると思うので。
――翠ヶ丘高校に転校してきた春香が真鍋と出会った瞬間、春香の心にシンクロして暗くなっていた背景に色がつき、明るく可愛いオープニング曲が流れ出す。あの瞬間、作品の空気もガラッと変わりました、
太田 そこまでの最初の10分は、プロローグなんですよね。
――ああ、シリアスパートはAパートではなく、長いプロローグだと。
太田 そう。真鍋も出てきたし、暗いのはこれで終わり。ここから「琴浦さん」の本番が始まりますよ、ということですね。まあ、その後に、また暗い話もあるんですけど(笑)。
春香は鈍くさいところも魅力
――この作品の明るさとシリアスさのギャップの大きさには、愛らしいキャラクターデザインが占める割合も高いと思うのですが。デザインを担当された大隈孝晴さんには、どのようなオーダーを?
太田 最初、何パターンか作ってもらったんですよ。もっと原作に忠実なものや、かなり大胆に(原作から)変えたリアル寄りのものとか。結局、中間くらいのデザインに落ち着きました。辛いシーンがあるので、普通はもっとリアルなキャラデザでやるのがセオリーなんでしょうけどね。
――個々のキャラクターを、どのように捉えていたのか教えてください。まず、ヒロインの琴浦さんを描く際、特に大事にしたことは?
太田 可愛く見せたいのは当然なんですけど。完全無欠な子ではないですし、鈍くさいところも魅力であるというのを、感じてもらえればと思って、作っています。
――子供の頃からあれだけ辛い体験をしてきても、周りに敵意を持たないところは、すごく良い子ですよね。心にシャッターを下ろしてはいますが。
太田 春香は良い子というか、お人好しなんですよね。普通の子だったら、お母さんが(春香を捨てて)出て行ったところで、グレて学校に行かなくなる気もするので。あとは、おじいちゃんが、真鍋と同じように春香の能力のことをまったく気にしないタイプの人だったから、やってこれたのかなとも思ってます。なんとか学校に行こうとしてきたのも、ある意味、おじいちゃんのためじゃないかなって。おじいちゃんみたいな理解者がいたことが救いだったんでしょうね。
――人の心が読める能力って、あったら便利で楽しそうなイメージでしたが、こんなにも辛いことなんだという描き方がユニークです。
太田 何となく、良いことばっかりな気はしますけど、それって、自分で狙いを定めて心が読める場合なんですよね。春香のように、常に周りの人の心を読めても、何も楽しいことはないというのは、「琴浦さん」の肝で。(原作者の)えのきづ先生の面白い発想だと思います。
――もし、アニメの制作現場で、周りの人の心がすべて読めてしまったら……。
太田 修羅場になりますよ(笑)。人の心なんて、知らない方が良いんです。人間は、そうやって生きていくんです……。
――監督、重いです(笑)。
この作品は、ある意味、真鍋が要
――琴浦さん役の金元寿子さんは、オーディションで選ばれたそうですが、キャスティングのポイントは?
太田 僕としては、声質がストレートに可愛いだけじゃなくて、微妙に鈍くささもあって、守ってあげたい感じもするのが、とても良いと思っています。本人に、そう言うと怒られそうですけどね(笑)。
――では、琴浦さんを孤独から救う初めての友達で、恋の相手でもある真鍋に関しては、どのような点を意識して描かれているのでしょうか?
太田 男性ファンは、ヒロインとくっつく相手のことを、けっこう厳しい目で見るものじゃないですか。
――俺の嫁を……って感覚にもなりますね。でも、ニコニコ動画での配信を観ていても、真鍋は視聴者から「まじイケメン!」と大絶賛されてます。
太田 真鍋は、隠しごとが無いから気持ち良いんですよね。春香にエッチな妄想を読まれても平気だし。それってある意味、男の夢だと思いませんか(笑)。普通は、恥ずかしくて距離を取ったりしちゃうじゃないですか。常識人であれば。
――思春期だと、なおさら恥ずかしいです。
太田 でも、真鍋は全然お構いなしというか、逆に、わざとエッチな妄想をして遊んじゃったりもする。そこが、真鍋のすごいところで。ある意味、視聴者の願望を体現してくれているとも思うんですよ。
――琴浦さんのことを思う心や行動がイケメンなんですよね。
太田 そう。それ以外は、非常に庶民的な人間。アニメでは、原作よりも少しストレートにバカっぽく描いていますしね。これで、顔が良かったら、たぶん「チッ!」って言われてますよ(笑)。そこの敷居も低いから、共感できるというのかな……。
――仲間って感じがします。
太田 ああ、まさにそう! 自分たちと大して変わらない仲間が、すごいイケメンなことをやってるという、代弁者的な立ち位置にいるんだと思うんですよね。
――真鍋を演じている福島潤さんのキャスティングのポイントは?
太田 オーディションをはじめてから、はっきりと分かってきたことですが、この作品は、ある意味、真鍋が要になっていて。だから、(キャストも)春香中心に選ぶわけではなく、まずは真鍋にフィットする人を見つけないとまずいな、と思いました。でも、オーディションでは、二枚目的に喋る方が多かったんです。その中で福島さんは、三枚目の線でちょっと変わった演技をされていて。スタッフの中でも面白いね、という話になりました。
――福島さんは、アニメで主役を演じるのは、初めてですよね。
太田 だから、ある意味、賭けではありました。でも、お願いをしたら、ものの見事に上手くはまったというか。福島さんが、本当に一生懸命に演じてくれて。1話から、こんなにアドリブをやってくるのかってくらい(笑)。
――そんなにですか? どの台詞がアドリブだったのか気になります。
太田 きっと、すぐに分かると思いますよ。「ここアドリブだろ?」って思うところは、だいたいアドリブです。
(丸本大輔)
後編に続く