「自分の同世代に向けて、というかもっと言ってしまえば自分自身に向けて、自分が聴きたい番組を作ってみようと考えたのです」
「昔から好きなんですよ。ニッチなところでゼロから自分たちで何か作る、みたいなこと」
発言の主はTBSラジオ「文化系トークラジオLife」の番組プロデューサーであり、番組発案者でもある長谷川裕。
このほど刊行された2冊目の番組本『文化系トークラジオLifeのやり方』。その第1章「新しいものは小さな場所から生まれる─文化系トークラジオLifeの作り方」の中で冒頭の言葉を述べているのだが、これらを読んで真っ先に思い出したのが、「半径5mを大切にすること」という宮崎駿のモノづくりの作法。「新しいものは小さな場所から生まれる」という副題通り、価値観も、趣味も嗜好も多様化するこのご時世だからこその、企画やモノづくりのヒントが詰まった一冊だ。
そもそもこの番組、毎月最終日曜の午前1時から4時までという深夜の3時間、放送休止枠という時間帯を使った非常に「規格外」な番組。にもかかわらず、開始から6年を経た今、ますます注目を集めている。番組の出演者から、テレビ、雑誌、WEB媒体などで活躍する若手論客が次々と生まれているからだ。
津田大介(@tsuda)「僕のメディアの故郷はLifeです」
古市憲寿(@poe1985)「Lifeがなければ今の僕はありません!(言い過ぎました)」
国分功一郎(@lethal_notion)「Lifeのもとに言論界の突端部が集結する」
本の帯に登場するこの3名の名前とコメントだけでも、「Life」という番組の「人材輩出力」がわかってもらえるんじゃないだろうか。他にも、メインパーソナリティを務める鈴木謙介(@kskszk)、速水健朗(@gotanda6)、斎藤哲也(@saitoshokai)などなど、多士済々の顔ぶれがひとつのテーマについてトークを繰り広げ、リスナーをも巻き込んで熱い議論が展開されていく。
本来ラジオの魅力とは「パーソナリティとの結びつき」という、1対1の関係性に近いまさにパーソナルな部分であるハズ。ところが「Life」では、常時6~8名が番組に参加して討論を繰り広げる。さらにはTwitterやメールも積極的に活用し、ソーシャルな番組としての立ち位置を確立している。一見さんにとっては、どう聴いていいのかわからないかもしれない。
長谷川プロデューサーは、この番組を形成する上で「スーパースターのいないチーム作り」を目指し、「朝まで生テレビ」がバトルロワイヤル的討論番組だとすれば、「Life」はサッカー的討論番組であると語る。
「もちろん、意見の対立や相違はありますが、そこで個人同士が戦うことよりもみんなで1つのボールを回しながら、ゴールを目指していく。ただ、ゴールがどこにあるのかは終わってみないとわからない(笑)。鮮烈なことを言ったり、おもしろいことを言ったり、シュートを決める人が目立ちますが、それも、アシストしたり、決定期を作るためにずっと前に伏線を張ったりする人がいてこそなんですよね」
本書の第2章「Lifeリミックス実況中継」では、3回分の放送を活字リミックスとして収録してあるのだが、書籍用に編集されたものであるとはいえ、四方に広がっていた議論がある1点で見事に収斂されたり、リスナーからのメールで劇的に話題が展開したりと、まさにサッカー的な「先が予測できない面白さ」が味わえる。
まだ番組を聴いたことがない人にとっては、「Life」という番組のダイナミズムを知るキッカケになるだろうし、従来のリスナーにとっても、ラジオやPodcastでは聴き逃していたであろう名言の数々を、活字で読むことで改めてじっくり味わうこともできるだろう(個人的には「信じる論理、信じさせる倫理」の回における「おそらくバブルのときまでは、趣味までも一神教だった」(柳瀬博一 @yanabo)、「グーグルの小さな窓に文字を入力するのは、検索じゃなくて祈りに近い」(速水健朗)という発言にグッと来た)。
最後にお知らせ。
ソフトバンク・ビジネス+ITにおいて、本稿でも取り上げた「Life」長谷川裕プロデューサーに、本の読みどころと番組の聴きどころをインタビューさせてもらっている(※ビジネス+IT「なぜ注目の若手論客やキーパーソンが集まるのか? TBSラジオ『文化系トークラジオLife』の聴き方」)。
こちらもご覧いただけると、モノづくりの矜持や番組の魅力を感じていただけるはず。
『文化系トークラジオLifeのやり方』
第1章 新しいものは小さな場所から始まる─文化系トークラジオLifeの作り方(長谷川裕)
第2章 Lifeリミックス実況中継
第3章 「知らない人どうしの関係」に飛び込んでみることーチャーリー、かく語りき(鈴木謙介)
第4章 Life名鑑
(オグマナオト)