「ニコニコ超会議」に登場されるクリエーターさんへの突撃インタビュー第2弾をお届けします。ニコニコ動画の一大ジャンルに同人ゲーム作家ZUN氏の個人サークル〈上海アリス幻楽団〉が製作している弾幕シューティング「東方Project」関連の動画があります。
その中でも特に有名なのが、ゲームで使用された曲のアレンジ作品をPVにした「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」「患部で止まってすぐ溶ける~狂気の優曇華院」などの投稿動画でしょう。今回登場いただくのはそのPVを製作したFLASHアニメ作家、カギさんです。


3面くらいでばんばん落ちる

――「ニコニコ超会議」では4月29日の「超クリエイターズサミット」午後1時からの「アラカルト」の部に出演ですね。そもそも、カギさんがFLASHアニメを制作し始めたのはいつごろからなんですか?
カギ 大学に入ってすぐなので2004年の5月くらいからでしょうか。高校生のころから2chのFLASH・動画板で「紅白FLASH合戦」とかいろんなイベントを見ていたんです。大学に入って自由になったのをきっかけに、という感じですね。最初は、他の人のパロディから入っていきました。
――たとえばどんなものですか?
カギ スキマ産業さんっていう非常に有名なFLASH制作者のかたが「num1000」っていうのを作っていて、そのパロディから最初は作り始めました。
――そのころ作品を発表されていたのは、やはりFLASH・動画板だったんですか?
カギ それもあるし、けっこうイベントもあったんです。「10秒以内の作品で勝負」みたいなものとか、モーショングラフィックスっていうお洒落な映像だけを作るだけのものとか。あとはさっき出た「紅白FLASH合戦」みたいなものですよね。そのへんのでかいイベントには、気合いの入れたものを作っては出してたっていう感じですね。

――ニコニコ動画が2007年3月にサービス開始しますが、そのころにはすでに、「東方Project」2次創作の音楽サークル大手であるIOSYSのPVを作っておられますね(同サークルの東方アレンジ第1弾「東方風櫻宴」収録の「Phantasmagoria mystical expectation」)。それはどういう経緯だったんですか?
カギ むこうからお誘いがあったんですよね。ある日メールがきて、それで、という感じです。
――東方Project自体はいつごろからご存知だったんですか?
カギ 以前から小耳には挟んでいたんですけど、プレイしたことはなかったです。話をもらってからプレイし始めたんです。そのころはイージーモードすらクリアできてなくて、3面くらいでばんばん落ちるくらいの腕前でした(笑)。
――その後、第2弾の「東方乙女囃子」でも「惑いて来たれ、遊惰な神隠し ~Border of Death」と「魔理沙は大変なものを盗んでいきました」のPVを担当されます。最初の2曲はいわゆる「ガチ曲」ですが、「魔理沙」はいわゆる「電波曲」です。「ガチ」と「電波」では、作り手として切り替えなければいけない面もあったわけですか?
カギ もともとパロディからスタートしたので、そういう方が得意なのかな、っていうのが昔はあったんですよ。一時期オリジナルで真面目なものを作ってた時期もあったんですが、「魔理沙」とかは先祖返りみたいなものかもしれません。


弾幕はFLASHで表現するのがすごい大変

――カギさんの「電波曲」動画にはたくさんのパロディネタがしこまれてますよね。あれはIOSYSからのアドバイスで入れたものなんかもあるんですか?
カギ まずは曲を聴きます。
こんな感じにしよう、みたいなものを簡単な絵で順番に描いてみて、「こんな感じにしようと思うんだけど、どう?」っていうのを先方に確認してもらうんですね。その途中のネタ見せの段階で、有用なアドバイスを貰うことも多かったです。「ウサテイ」(IOSYSの東方アレンジ第5弾「東方萃翠酒酔」所収)にコマ漫画みたいな部分があるじゃないですか。たとえばあれなんかはそうですね。
――その「ウサテイ」は、IOSYSの公式サイトに掲載されたPVを何度も見ると、途中で違ったバージョンのものが出てくるという凝った仕掛けがありました。あれはIOSYSからそういうボーナストラックをやってくれという要請があったんですか?
カギ 最初の公開のときはなかったんですよ。公開後に急にアイデアが降ってきて、提案したら通ったので、2回目の公開のときから仕込みました。
――PVではどれがお気に入りですか? 作りこみの多さという点では?
カギ ネタで好きなのは「ウサテイ」かなぁ。(ビート)まりおさんは自分の憧れてたボーカルだったから張り切ったというのもあるし、今言った再生数のギミックなんかも入れることができて、製作としても楽しめたものだったので、気に入っています。あとは「東方太陽香オープニングムービー」(同人サークル・迷走ポタージュ『東方籠奴抄』所収)かな。とにかくめちゃくちゃ苦労したので、完成したときの喜びはひとしおでした。
――あれはIOSYS依頼のPVじゃなくて自主的に製作されたんですよね。
IOSYSの「東方想幽霊森雛」に入っている「タイヨウノハナ」が使用曲です。
カギ 曲を聴いた段階で「もうこれだ」というイメージが完成しちゃったので後はもう、ひたすらそれを作りこむしかなかったです。これを作ったときには東方の全部の作品をプレイしていたんで、キャラクターたちのイメージもある程度できあがっていました
――東方らしく弾幕の表現もありますね。
カギ 弾幕はFLASHで表現するのがすごい大変なんです。FLASHってベクターアニメーションっていう、いくらでも拡大できるようなアニメなんで、線は綺麗になるんだけど、いろいろなものをたくさん置く処理っていうのがすごく苦手なんです。たぶん、100個以上同時になにかを動かすともうその時点でかくかくになっちゃう。


モーショングラフィックスだと「ぬるぬるしてこそ!」

――なるほど。「ウサテイ」と「太陽香」と、もう1つ挙げるとしたらどの作品ですか?
カギ 「患部で止まって~」はお気に入りの部類ではあるかなと。あれも苦労しました。ぼくは、いつも歌詞を見てイメージして作ってるんで、間奏の部分はいつも詰まるんです。あれのときは、そこをゲームっぽくしたら面白いんじゃないかっていうアイディアが出たんですよ。音のパターンが単調だから「ダンスダンスレボリューション」みたいなかんじにしたらおもしろいんじゃないかと。

――音ゲーっぽく。
カギ 対戦ゲームだし、それなら(蓬莱山)輝夜と(藤原)妹紅がプレイするのが順当だろうと。そういう感じでイメージが出てきたんです。
――私は「博麗神社町内会音頭」(IOSYS「東方真華神祭」所収)がすごく好きなんですよ。モーショングラフィックスですか、それが綺麗で色の広がりとかパターンの感じが大好きです。
カギ パロディとかから始めた自分ですけど、モーショングラフィックスもかなり好きで、けっこうお洒落系な動画も作っていたりはするんですよ。FLASH・動画板のイベントでお洒落なモーショングラフィックスもめちゃくちゃみてたので、そこで色使いとか、動きのセンスなんかは学習することができたのかなと思いますね。
――絵を動かすコツで、こう動かすと綺麗になる、みたいなものはあるんですか?
カギ 1つ例をあげると、FLASHってモーショントゥイーンっていう、ここからここまでこのスピードで進んでね、というのを指示して動かすようなアニメーションの仕組みになってるんですよ。それだと緩急のとり方がに限度があるので、ここまではアニメーションをさせて、そこから一気に拡大させてどーんって出す。そういう感じにすると緩急ついて、爽快感がすごく増すんですよ。
――よく動画の評価で「ぬるぬる動く」なんて言われることがありますが、あれは?
カギ 前にオリジナル作品をやったときに、1コマ1コマを全部作ったんですけど、「ぬるぬるしてて気持ち悪い」って言われました。アニメーションの動きが細分化されすぎて、逆に気持ち悪かったらしいんです。
アニメーションはそういう風に、ぬるぬるし過ぎないほうがいいということもあるんですけど、逆にモーショングラフィックスだと「ぬるぬるしてこそ!」だと思うんで、その辺は意識します。


もう一度オリジナルで真面目なアニメーションを

――これまで迷走ポタージュという同人サークルに属しておられましたが、次の博麗神社例大祭からは個人サークルのKGYKも作られました。今後はどんなものを作りたい、というような予定はおありですか?
カギ もう一度オリジナルで真面目なアニメーションを作ってみたいというのはありますね。作りたいものはいっぱいあります。モーショングラフィックスももっとつきつめた形でやってみたいし、東方の音楽PVも作りたい。
――ニコ動という場に関しては、何か思うところはありますか?
カギ ニコ動って感想がダイレクトに伝わってくるんですよね。動画が流れつつコメントも流れるわけだから「ここすげえ!」っていうコメントがどこの部分なのかわかりやすい。「ここの演出はこうすれば評判がいいんだ」みたいなこともわかりやすくなるし、みんなフランクな雰囲気で書き込んでくれるので、その上で好評だと単純に嬉しいですよね。
――コメントが弾幕になることがあるでしょう。そうすると他のコメントは流れてしまうじゃないですか。あれって、作者はどんな気持ちで見ているんですか?
カギ 楽しんでるならいいんじゃないかなと思いますね。もちろん、参考になるコメントも欲しいんだけど、お祭りみたいなものだし。
ああいうコメントの楽しみ方っていうのがニコ動なのかなって個人的には思ってます。
――よかった、じゃあ今後も安心して「てゐてゐてゐてゐてゐてゐ」とか書き込みます。
カギ 書いてたんかい!
(杉江松恋)
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