「COMITIA」というのは同人誌即売会なんですが、コミケなどと大きく違うのは「オリジナルのみ」というくくりであること。
マンガも、少年誌に今にも載っていておかしくないような作品から、どの層に向けて作っているのか分からないくらい不可思議なものまで多様なものが集っています。
今回は2771サークルのありとあらゆるサークルが集まる中、個人的にグッと来た作品をいくつかご紹介!
「COMITIAって自由だな!」という雰囲気を味わってもらえると幸いです。
■『集合住宅 第06号』(Brown Dog Hut)
コミティアの面白さの一つは、様々な作家が集まって自分たちの雑誌・ミニコミ誌を作って頒布している、ということ。個人誌も面白いですが、様々な新しい才能が詰まった本は魅力的です。
なかでも昨今知名度が上がっており、「創作漫画」の面白さを生かしている編集をしているのが、この『集合住宅』シリーズ。それぞれの作家のページがアパートの一つの部屋になっており、扉を開くと作品が読めるという仕組みになっています。
小説からイラスト、マンガまでありとあらゆる個性が集結した非常にいい意味で雑多な本。6号は同人誌で260ページ越えという大ボリュームになっています。
テーマは? と言われても「わからない」としか答えられないくらい、とにかくバラッバラなんですが、読んでいると妙にまとまりがあります。
住宅に住んでいる人ってさ、なんか統一感あるから住んでいるわけじゃないじゃないですか。それと同じで好き勝手やっているんです。
掲載されている作品は、商業作品ではやらないような技法を使ったものが非常に多いです。商業誌の基本になるようなセオリーをガン無視して、いかに表現するかに集中したものばかり。コマ割りも自由気まま、マンガってこんなに自由でいいんだ、と再認識させてくれます。
他にも色々な合同誌が出ていますが、「コミティアらしい自由さ」を味わうには持ってこいの一冊。
■『Apartment.EP』(mal)
コミティアでは最近特にオリジナルイラスト集の頒布が増えています。pixivなどを使っている人たちが参加しやすい環境になったから、デジタルフルカラー印刷が安くなってきているから、というのはあるでしょう。
中でも今回目を惹いたものの一つがこの『Apartment.EP』。
普通B5やA4の本を想像するじゃないですか。絵は大きく見せたいですし。
しかし逆を行きましたね。CDの紙ジャケット仕様になっていて、開くと中にブックレット型のイラスト集が入っているという奇抜なデザイン。
この作品集も合同誌になっていて、先ほど紹介した『集合住宅』同様に架空のアパートにすむ架空の住人の部屋を描いています。『集合住宅』が昭和臭がする土臭さを感じる個性だとしたら、『Apartment.EP』は21世紀日本のポップカルチャーの集合体みたいになっています。
しっかしこんなデザインのものまで個人で作れる時代になったのねー。
■『思春期に関する七つの大罪』(体育座り)
やっぱり同人誌といえば手作り感。
このサークルさんでは特殊用紙にインクジェットプリンタで印刷したものを、ミシンで綴じる、というものっすごい手作り感あふれる画集を出していました。
タイトルのように7つの大罪をテーマにした絵と文章で構成されたシンプルな本なんですが、紙質・インクの色合い・ミシンで縫ったあとのほつれた糸まで含めて作品になっているので、手元に置いておきたくなります。
奥付もそれぞれの本で「不必要になった場合裁断し、正しい分別で破棄するよう」「いらなくなったらホッチキスをわけて、紙は燃えるゴミでだしてください。」となかなかのひねりっぷり。
いい意味で中二病を煮詰めた感性を、手作りで表現する手法は実に楽しいですね。出来が良すぎるのでたぶん不必要になりません。大事にとっておきます。
■『this song』『walk taker』(あふたーばーなー)
「けいおん!」とか大好きな自分なので、楽器持ってる女の子が表紙ならそりゃ買うよ、と手にしたところ、妙な固さが。あれ?
そう、これは「青春音楽マンガ」と「作中バンドの音楽CD」付きの作品。手焼きCD-Rを袋に入れて裏表紙にテープで貼っている手作り感がものっすごいコミティアらしいです。
当然歌詞も音楽も歌もオリジナル。
CD付きの本自体はコミケなどでもたまにあるのですが、ここまでがっちりとバンド少年少女達をマンガで描き、その子達の演奏している曲を聞きながらマンガを読むことが面白い作品はなかなか貴重。再生しながらマンガを読むことで楽しさ倍増です。
歌詞カードは本の一部ではなくて別に付いてくるという凝りよう。WEB配布ではなくCD-Rでつけているってのが個人的にポイント高いです。
なんでポイント高いかって……そりゃ高校生の少年少女達なら、音源取ったらCD-Rに焼くじゃん! そこまで再現しているのがいいんだよ!
■『毒婦之友 vol.9』『おおむねプロレスの味方です』(毒婦之友社/ジョン・テンダ)
もうタイトルに負けますね。『毒婦之友』。口に出して言いたい日本語です。
中身も「狂い咲きサンダーロード名言集」「『福しん』で飲む」「突撃!ギャンブル愚連隊」など、本当にどうでもいいことを真剣にやっているのが非常に笑えます。
だって、「福しん」で何食って何飲んだかなんて本当にどうでもいいよ! だけどそれを丁寧に描写することで、悲哀やささやかな喜びが見えるからユニーク。目の付け所がシャープ。
どうでもいいことの積み重ねで色々な人の生き方の身近な味が染み出してくるんだから、やってみるものですねえ。ミニコミ誌の面白さここにあり。
これで200円。人生のしみじみ感と毒っけあふれるまさに『毒婦之友』。全巻買ってくればよかったです。今度買ってこよう。
今回の新刊ではないですが作者の単体漫画『おおむねプロレスの味方です』がまた、人生の隅っこをかんなで削ってちびちびすすりながら「うん、ウマイ……」と小声で味わうような味のある作品。
日々黙々とくらす地味なOLが、最高の楽しみとして水道橋の後楽園ホールでプロレスを楽しむ、というだけのマンガ。なんですがそれってちょっといいよね。生きがいってそういうものだよね。
■『ORGAN DIVIDER』(SBW)
正統派オリジナルマンガあふれるコミティアで個人的にグッと来た一冊。
グロ要素多いのでR18です。エロはないです。
サイボーグ黎明期が舞台のマンガで、他者の臓器をがんがん取り込んで生命を維持する人造人間戸田さんと、融機生体の佐和さんが色々な組織に襲われるのを撃破する、というアクションもの。
しかし正統派ではないです。なんせ友人を誘拐した四肢売買シンジケートを撃破し、どうするのかといえば、その友人を殺して自分のパーツにするとかそういうマンガだから。
友人を部品扱いしながら、日常のように人を殺し、自分もバラバラになるのをものすごく丁寧な書き込みで描写しています。絵もかわいく、狂った世界を存分に楽しめます。
まあ、さすがにこれは商業誌ではやりづらいジャンルだろうな、というのもわかります。それでも描きたい、という思いがコミティアという場で発露したのでしょう。枠にはまるのを拒絶した、非常によい作品です。
まだまだたくさん、ここでしか見られないオリジナル作品が集結しているのがコミティア。
次は10月30日です。
コミケとは全然雰囲気が違いますので、一度覗いてみるのをオススメします。
なんでもあり、なんだけどどこか独特な「コミティアっぽさ」ただようノリが非常に楽しめます。
今回は勝手にぼくが好きなものを列挙しましたが、きっとあなたにとって最高に好きな一冊に出会えるはず。
(たまごまご)