こんにちは、ライターの友光だんごです。
僕の出身は「岡山県」なのですが、全国の皆さん、岡山ってどんなイメージですか?
桃太郎、フルーツ王国、晴れの国……などなど出身者としてはアピールポイントはあるんです。
しかし他県の人からすると、ぶっちゃけ「兵庫のもっと西のほう」くらいの印象じゃないですか? 広島県とどっちが右か、わかります?
そう、岡山県っていまいち印象が薄いんですよ。
地元出身者として、そんな岡山県をなんとか全国にアピールしたい……そのためにはどうすれば……
そこで思いついたのが「一番偉い人にインタビューしよう」ということでした。
そう、「岡山県知事」です。
ただ、こんな「だんご」なんてふやけた名前の奴が正面からアポをとったところで、県知事は会ってくれないでしょう。なにせ県で一番偉いということは、めちゃくちゃ忙しいわけですから。
しかし、僕には作戦があったのです。うちの親父が以前「県知事にコネがある」と言っていたから。
これは……コネを使う時が来たのでは……?
ということで、県知事にインタビューすることができました。コネ万歳!
話を聞いた人:伊原木隆太(いばらぎ・りゅうた)さん
1966年岡山県出身。実家は岡山県に本社を置く百貨店「天満屋」の創業家。東京大学卒業後、外資系経営コンサルティング会社に就職。その後、渡米し、米スタンフォード・ビジネススクールを修了し、MBAを取得する。1998年から天満屋社長を14年務めたのち、2012年に岡山県知事に就任。現在2期目。
せっかくお会いできたので、「インターネットで話題の岡山に関するネタ」「知事はぶっちゃけ岡山のことをどう思っているのか」などなど、普段なかなか聞けない内容を聞いてきちゃいました。
インターネットでネタにされる岡山
「やあ、こんにちは。本当にお父さんに似てますねえ。同じ眉毛じゃないですか」
「祖父も同じ眉毛です」
「なんと血が強い! さて、本日はどんな話をしましょうか」
「いきなりなんですが、インターネットでは『大都会岡山』という……」
「(あっ…聞いちゃダメなやつ…?)」
「ああ、あれですね。ずいぶん茶化されましたね、もう」
「(大丈夫だった…!)ご存知だったんですね」
これが大都会岡山やぞ すごすぎィ! pic.twitter.com/JTgTwiryIh
— ラフレシア野口 (@yu_mo7) 2017年9月17日
※「大都会岡山」とは
いわゆる“グンマー”の逆パターン。近未来SF風の大都会の画像が「岡山の風景である」という説明とともにネット上に出回り、ネタとして流布した現象のこと。
「私も、なんでこんなに『大都会、大都会』と言われるんだろうと思っていました。どうもアンジェラ・アキさんのテレビでの発言が元になってるらしいですね」
「あの歌手の!」
「彼女は徳島で育って、10代前半で岡山に引っ越して来たんですね。そこで『駅前に店はたくさんあるし地上波テレビも全局入るし、岡山は大都会だ!』と思った、と全国放送でお話しされたそうなんです」
「徳島に比べたら岡山は……おっと、余計な争いが起きそうなので止めましょう。とにかくアンジェラさんはそう思ったと」
「そうです。あくまで個人の見解としてね。ただし、その放送を見ていた人たちが反応したんです」
「『岡山がwwwwww大都会wwwwwww』みたいにネットへ書き込んだんでしょうね」
「いや、あくまで想像ですよ」
「わかってますよ。岡山県民の知らないところで、どんどん『大都会岡山』というイメージができあがっていったんですね」
「ネタ画像がネット上に出回ったり。僕が上京したときも『大都会から来たの?』といじられました」
「でもね、私は埋没するよりネタにされてるほうがいいと思うんです。全国の都道府県を47人のクラスだとすると、目立つのは北海道や沖縄や東京。放っておけば、基本は埋もれてしまいます」
「ネタだとしても、気にしてもらっていれば、何かのタイミングで良さに気づく場合がある。その『とっかかり』として考えれば、いじってもらえることもチャンスなんですよ」
「なんとポジティブ!!」
岡山はクラスの「意外といい人」
「他県の人に『岡山ってどんなところがあるの?』と聞かれた時、返事が難しくて。大阪の『通天閣』とか高知の『龍馬』とか、わかりやすいアピールポイントがないんですよね。桃じゃないしなあ…と」
「そう、私が言うのもなんですが、なかなか地味なところなんですよ」
「知事が仰るのも確かにアレですが、地味ですよね」
「私自身、東京に出ていた時にそのことを感じました。良さはあるんだけど、いまいち外の人から見るとピンとこない。クラスでいうと普通のいい人なんだけど、話しかけないと魅力がわからないというか」
「ああ、クラスの女子に聞いたら『あんま喋ったことないけど、いい人っぽい』って言われる感じの。モテはしないキャラ……」
「ちょうど私やだんごさんみたいなね」
「なんか悲しくなってきたので話題を変えましょう」
「知事の思う岡山の魅力ってなんでしょうか?」
「色々ありますが、『住みやすい、居心地のいい場所』であることはぜひ知ってほしいですね。例えば、岡山に転勤になって、最初から大喜びする人ってあまりいないと思うんです」
「そもそもどんな土地か、ピンと来ない人が多そうですね」
「でも、実際に住んで働いてみると、皆さん『あれ? いいところかも』と気付くそうなんです。まず、山も海も森も街から近くて、自然が多い」
「よく東京から来た人は『オフィスから30分以内の場所に家を借りたい』みたいに言いますが、岡山にはオフィスから5分圏内のマンションがたくさん。だから、岡山に来て、通勤時間もぐっと短くなって本当にゆったり過ごせるようになった、という話をよく聞きますよ」
「ということは岡山は移住にピッタリ?」
「もちろんです」
「どれくらいピッタリなんでしょう?」
「これくらいです」
「知事めちゃくちゃいい人ですね」
県民性より、日本人っぽさを意識すべき
「岡山は晴れの日が多いじゃないですか。だからのんびりしてる県民性なのかなと思ってました」
「降水量1mm未満の日が全国で一番多い(※1)ですから、数字の上でも『晴れの国』であることは裏付けられています。災害も少ないですし。ただね、私はあまり県民性って意識しすぎなくていいと思ってるんです」
※1:気象庁「全国気候表」(1981~2010年【30年間】の平年値)より
「そうなんですか?」
「私は若い頃に海外へ行って、シャイすぎたり、つるむと妙に元気になるような『日本人っぽさ』を感じたんですね。そのあとで岡山に戻ると、そういう『日本人っぽさ』2割増しみたいな人が多いぞと」
「わからなくもないです…!」
「でも、これは地方で起きがちな現象じゃないかな、と思うんです。東京や海外のように、いろんな違う人と切磋琢磨する環境にいると、自分たちの価値観が通用しないことに気づく。そして、意思表示や人付き合いが上手くなります」
「地方は都会に比べて、他人の価値観と衝突する場面が少ないかもしれませんね」
「多様な人が集まる場所に行って、初めて気づくことは多いですから。外の人から『なんか閉鎖的だな、独りよがりだな』と思われてしまうようなことは、日本の色んなところで起きているような気はしています」
「なるほど…」
「学校のクラスにも元気な人、おとなしい人、いろんな人がいますよね。だから、県民性はそう極端なものではないと思いますよ」
「知事、クラスで例えるのがお好きですね」
14歳で家を脱出すると決めた
「知事は、岡山に本社を置く百貨店『天満屋』の創業家の一族ですよね。ある意味、家業を継ぐ運命にあったと思います。代々続く伊原木家に生まれなかったら、と考えたことはありますか?」
「私自身、ずっとそれをテーマとしてやってるところはあります。とにかく跡を継ぐのは嫌だと。私からすると『損』なんですよ」
「損、ですか?」
「はい。自分の実力があって、家業というのが別にありますよね。家業は自分のサイズに関係なく用意された服のようなもの。もし自分の実力が高ければ、服が小さすぎて悶々と思い続けることになる」
「はい」
「一方で、自分にとって大きすぎる服、つまり実力不足だったなら、周りの人から『あんなやつが社長になって』とか言われてしまう。だから、家業と自分の実力がピタッと合うことはなかなか少ないんです」
「上手くいったとしても『親の七光りで』と言われたり…」
「その点、外に出れば自分に向いた仕事を探すことができる。だから私は中学2年生の時に、家を脱出すると決めたんです」
「家を脱出!!」
「29歳でMBAをとり、アメリカで働くんだと目標を決めて、そこまでの計画を細かく作ったんです。まず日本の大学を出て、入学に必要とされる実務経験を積んだ上で、アメリカのトップ校へ行って…とね」
「とっても勉強をされたのでは」
「10代の頃は1日4〜5時間睡眠でしたね」
「めちゃくちゃ努力されたんですね…」
「日本で就職した会社も、とにかく休みがなくて」
「日々追い立てられるようで、寝ている間も仕事の夢ばかり見て……あの頃は本当に……」
「ち、知事、知事! その時に比べて、今の方がよく眠れてるんじゃないですか?」
「格段にいい夢を見ています」
「本当によかったです。人生の計画は、その後順調に進んだんですか?」
「MBAをとるまではその通りに進んだんです。そしてアメリカで就職が決まり、目標達成!と思ったところで『家業が厳しいから戻って来てくれ』と言われまして」
「そして天満屋に戻られたと。抵抗はなかったんですか?」
「学んできた経営を生かせると思いましたし、ずっと学費も出してもらっていましたから、断るのも薄情だなと。できる範囲のことをやろうと思って戻りました」
「そして、社長を経て県知事に。人生何が起きるかわかりませんね…」
2020年に向けて、岡山は
「今、2020年の東京オリンピックに向けて、ある種の『オリンピックブーム』のようになっていると思います。東京から離れた岡山からは、今の動きをどのようにご覧になっていますか?」
「東京一極集中で地方がみんな困ってる時に、それを加速させるとは……という人もいますし、私もチラッと思います」
「思われるんですね」
「ほんのチラッとですよ。ただしバブル崩壊後の25年間、日本全体が沈んでいるというのは事実なんです。残念ながら」
「そんな状況で知事をやられるというのも大変そうです」
「私はね、日本における岡山のポジションと、世界における日本のポジションが『パラレル』だと感じているんです。海外では、中国の方がよっぽど存在感がありますよ。我々が思っているほど、日本は世界で気にされてはいないです」
「ある意味、日本が世界の『田舎』というか、閉じてしまっている…」
「だから、もう一度オリンピックをやって日本に注目してもらうことは大事だと思います。そんな時に東京以外が足を引っ張るのは、日本全体として損ですよね」
「せっかくのチャンスですから」
「地方は地方で頑張るべきなんですよ」
「実際、まだまだ外国人旅行者は増えていますよね。昨日も倉敷のゲストハウスに泊まったんですが、色んな国の方がいて」
「美観地区の街並みは素晴らしいですよね。岡山にはいいところがたくさんあるんです」
「岡山としてのこれからの目標はなんでしょう?」
「東京オリンピックをピークに、日本へ注目が高まります。最初はやっぱり東京か京都か富士山か、というのがゴールデンルートになります。でも、2回目以降は岡山も十分選択肢になる。だから、もっと岡山に目を向けてもらえるように頑張りたいですね」
「日本国内だけでなく、海外の人にも岡山の魅力を知ってほしいですね。今日はお忙しい中ありがとうございました!」
おわりに
当初の予定では30分間の予定だったインタビュー。しかし「昼食の時間を削るのでいいですよ」という知事のご厚意で、15分延長して終了。最後にジモコロのフリーペーパーもお渡ししてきました。
始まる前はとっても緊張しましたが、気さくな知事の人柄に助けられました。
この記事を読んで、少しでも岡山に興味を持っていただけたら何よりです。
知事も仰っていましたが「意外といいところ」なので!騙されたと思って一度遊びに来ていただければ、「意外といいじゃん」となるはずです。
あと、岡山県は広島県の右側です。それだけでも覚えていただけたら!ではまたー!
写真:藤原慶(Instagram)
イラスト:小野一絵