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トランプ新政権で激変するビットコイン市場

~AIが導き出す3つの未来シナリオと投資戦略~

柏村 祐

目次

1.高騰するビットコイン

世界最大の暗号資産であるビットコインが2024年11月21日、円建てで過去最高値となる1,500万円を記録し、市場関係者の注目を集めている。2024年の相場は3月5日に1,000万円の大台を突破して以降、上昇基調を継続している。

この急騰の背景には、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利し、暗号資産に対する政策転換を表明したことがある。具体的には、トランプ氏はSECのゲンスラー委員長の解任を表明し、現政権による「反暗号資産的な取り締まり」の終結を約束した。さらに、内国歳入庁(IRS)が押収したビットコインを国家戦略的な準備金として活用する方針を示すなど、暗号資産に対する規制緩和への期待が市場を押し上げている。

また、2024年1月には、SECがビットコインの現物を裏付け資産とする上場投資信託(ETF)の上場を承認した。この画期的な決定により、従来は暗号資産への投資に慎重だった年金基金や資産運用会社などの機関投資家が、安全性の高い金融商品を通じてビットコイン投資に参入することが可能となった。

さらに、2024年4月には、ビットコインの発行プログラムに組み込まれた「半減期」と呼ばれる仕組みが4度目の発動を迎えた。これは、ビットコインの新規発行量が自動的に半分になる仕組みで、4年ごとに実施される。今回の半減期により、1日あたりの新規発行量は従来の半分となり、大幅に減少した。需要が堅調に推移する中で供給量が減少したことで、希少価値が向上し、構造的な価格上昇要因となっている。

このように、2009年の誕生時に1円以下であったビットコインは、約15年で1,500万倍以上に値上がりする驚異的な成長を遂げており、暗号資産市場の代表的存在として、その価格動向は世界中の投資家から注目を集めている。

本レポートでは、これらの状況を踏まえ、AIによる詳細なデータ分析を行ったうえで、今後のビットコイン価格動向に関する新たな分析アプローチを検討する。

2.AIによるビットコインのシナリオ

以下では、AIによるビットコインの包括的な分析とシナリオ作成を行う。分析においては、大規模言語モデル(LLM)を活用し、トランプ新大統領の発言データ、暗号資産市場の指標、マクロ経済動向を統合的に解析することで、実効性の高い価格予測の導出を図る。

はじめに、AIを用いてトランプ新大統領の暗号資産に関する過去の発言を時系列で整理し、特にビットコインに対する姿勢の変遷と、それが市場に与えた影響について定量的評価を行う。次に、トランプ次期大統領の暗号資産に関する主な発言と政策方針から、複数の価格シナリオを策定する。具体的には、規制緩和の進展度、中央銀行デジタル通貨(CBDC)への対応、機関投資家の参入規模など、多面的な観点からシナリオを構築し、各シナリオにおけるビットコイン価格への影響を検討する。最後に、AIによる市場シミュレーションを通じて、各シナリオの実現確率を算出し、その根拠となる市場要因と価格推移を明らかにする。なお、シナリオ分析においては、過去の大統領選後の価格動向や世界的な金融政策の変化を考慮し、暗号資産市場の特性に適合した実践的な価格予測を提示する。

まず、「トランプ新大統領の暗号資産に関する発言を整理してください」とAIに指示をしたところ、各種の公開情報をもとにした、以下のような取りまとめが示された(図表1)。トランプ氏は2019年時点では暗号資産に否定的な立場を示していたが、現在は大きく方針転換し、積極的な推進派となっている。具体的な政策方針としては、SECのゲンスラー委員長の解任や、現政権による暗号資産規制の緩和を表明している。

また、アメリカを「暗号資産の世界の中心地」とすることを宣言し、IRSが押収したビットコインを国家戦略的な準備金として活用する方針や、ビットコインのマイニングを国内で推進する考えを示している。さらに、トランプ氏は家族とともにWorld Liberty Financialという暗号資産プラットフォームを立ち上げ、息子のドナルドJr.氏とエリック氏が運営を担当し、18歳の息子バロン氏が「DeFi(分散型金融)のビジョナリー」として参加するなど、個人的にも暗号資産ビジネスへの関与を深めている。これらの発言や政策方針は、11月21日のビットコイン価格が1500万円台の最高値を記録するなど、暗号資産市場に大きな影響を与えている。

図表1 トランプ次期大統領の暗号資産に関する主な発言と政策方針
図表1 トランプ次期大統領の暗号資産に関する主な発言と政策方針

次に、AIに対して「トランプ次期大統領の暗号資産に関する主な発言と政策方針から考えられるビットコインの価格に関するシナリオを作成してください」と指示を行った。

その結果AIは、トランプ次期大統領の暗号資産政策下におけるビットコインの価格シナリオとして、以下の3つを提示した(図表2)。第一に、基本シナリオとして、SECのゲンスラー委員長解任による規制緩和や、国内マイニング産業の育成、機関投資家の参入加速などを背景に、2,500万円から3,000万円までの上昇が想定された。第二に、楽観シナリオとして、インフレ対策としての需要増加や、連邦準備制度による部分的認知、DeFiエコシステムの成熟などにより、4,000万円から5,000万円という過去最高値を更新する水準まで上昇する可能性が示された。第三に、慎重シナリオとして、議会での法案成立の遅延や、市場のボラティリティ継続、環境問題への懸念などから、1,500万円から2,000万円の限定的な上昇に留まる可能性も指摘された。

図表2 トランプ政権下でのビットコイン価格シナリオ分析
図表2 トランプ政権下でのビットコイン価格シナリオ分析

最後に、「3つの主要なシナリオの発生確率と価格推移を示してください」とAIに指示をしたところ、各種の公開情報をもとにした、以下のような取りまとめが示された(図表3)。

まず、基本シナリオの発生確率は55%と最も高く、トランプ政権の規制緩和方針が共和党支持基盤と整合的であることや、SECの方針転換による制度的サポート、機関投資家の参入障壁低下などを背景に、2025年第1四半期の2,000万円から、2026年第1四半期には3,000万円まで段階的に上昇すると予測された。つぎに、楽観シナリオの発生確率は25%とされ、包括的な暗号資産推進法案の成立や、インフレ加速によるヘッジ需要、World Liberty Financialの成功などにより、2026年第1四半期には4,500万円から5,000万円という高水準に達する可能性が示された。最後に、慎重シナリオの発生確率は20%と算出され、議会での法案審議の長期化や、ボラティリティの継続、金利高止まりなどを要因として、2026年第1四半期でも2,000万円程度の限定的な上昇に留まると分析された。

図表3 ビットコイン価格シナリオの確率分析と推移予測
図表3 ビットコイン価格シナリオの確率分析と推移予測

以上のように、あくまでAIによる分析だが、トランプ政権下でのビットコイン価格は、3,000万円程度までの上昇が最も実現性が高いことが示された。しかし、この見通しには複数の不確実要素があることも考慮する必要がある。たとえば、今後予定されている中間選挙の結果次第では政権の政策実行力が変化する可能性がある。また、ビットコインのマイニングに関する環境負荷への批判の高まりなども、価格変動要因となり得る。現時点でAIはこれらの要因を分析に織り込むことができない。

3.トランプ時代の暗号資産の可能性

トランプ時代の暗号資産に関するAIの分析には、以下の3つの重要な特徴がある(図表4)。

第一に、トランプ氏の暗号資産に対する姿勢の劇的な転換である。2019年時点では「詐欺的な通貨」と批判していた暗号資産に対し、現在は「アメリカを暗号資産の世界の中心地にする」と宣言するなど、積極的な推進派へと転換している。この方針転換の背景には、World Liberty Financialの設立に見られるように、トランプ一族による暗号資産ビジネスへの本格参入という事業戦略が存在する。

第二に、SECのゲンスラー委員長解任を含む規制緩和方針の明確化である。これは、現政権下で強化された暗号資産規制の見直しを意味し、機関投資家の参入障壁を大幅に低下させる可能性がある。

図表4 トランプ時代の暗号資産動向分析
図表4 トランプ時代の暗号資産動向分析

第三に、ビットコインの国家戦略的活用の可能性である。IRSが押収したビットコインを国家準備金として活用する構想や、国内マイニング産業の育成方針が示されており、これは暗号資産の制度的地位を大きく向上させる要因となる。これらの特徴を総合的に評価すると、トランプ政権下での暗号資産市場は、規制緩和と制度整備の進展を背景に、新たな成長フェーズに入るかもしれない。

特にビットコインについては、ETF承認後の機関投資家マネーの流入に加え、トランプ政権による政策的支援が価格上昇の追い風となる可能性がある。ただし、環境問題への対応や金融システムの安定性確保など、克服すべき課題も存在する。したがって、投資家は政策動向を注視しつつ、中長期的な視点でポジション管理を行うことが重要である。AIの分析では、トランプ政権下でのビットコイン価格について、2026年第1四半期までに3,000万円程度までの上昇を想定する見方が基本シナリオとなっているが、政策実現の不確実性や外部環境の変化によっては、この予測が上下に大きく変動する可能性にも留意が必要である。

マクロ経済環境の変化や地政学リスクの高まりなど、不確実性が増大する中、暗号資産市場は新たな転換点を迎えている。投資にあたっては、暗号資産特有の価格変動リスクや流動性リスク、セキュリティリスクなどを十分に理解したうえで、自己の投資方針や投資リスクの許容度に応じて慎重に判断することが求められるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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