相続放棄とは、被相続人(亡くなった方のことです。)の遺産を一切引き継がないことをいいます。
相続放棄をするためには、家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理される必要があります。
相続放棄にはメリットとデメリットがあり、相続放棄をするのがベストの選択かどうかは、それぞれの相続人の置かれている状況によって異なります。
この記事では、相続放棄の手続きやメリット・デメリット、相続放棄を検討すべきケース、相続放棄の注意点などについて、相続にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
目次
相続放棄とは?
「相続放棄」とは、被相続人の遺産を一切引き継がないことをいいます。
相続の対象となる遺産には、プラスの遺産(不動産や預貯金・株式、自動車、時計など)だけでなくマイナスの遺産(借金・ローンなど)が含まれます。
相続放棄をした場合には、マイナスの遺産を含む一切の遺産を引き継ぎません。
相続放棄が認められるためには、相続放棄をする方(「申述人(しんじゅつにん)」といいます。)が家庭裁判所に対する申述(申立て)をして受理される必要があります。
なお、被相続人が亡くなって相続が開始した場合、相続人は次の3つのうちからいずれかの対応を選択することになります。
相続放棄はこれらの3つの選択肢のうちの1つです。
- ① 単純承認:被相続人のプラスの遺産・マイナスの遺産を含む一切の遺産を無条件で相続することをいいます。
- ② 限定承認:被相続人のプラスの遺産がマイナスの遺産を上回る限度で遺産を相続することをいいます。
- ③ 相続放棄:被相続人の遺産を一切引き継がないことをいいます。
相続放棄と財産放棄の違い
「財産放棄」とは、一般的に、遺産分割協議(遺産をどのように分けるかを相続人全員で話し合って決める手続きのことです。)の際に、他の相続人に遺産を引き継がない意思を伝えることをいいます。
「財産放棄」は法律上の用語・制度ではありません。
相続放棄と財産放棄は、遺産を引き継がないという点で似ていますが、以下のような違いがあります。
相続権(相続人の地位)を失うか
「相続放棄」をすると初めから相続人とならなかったものとして扱われ(民法第939条)、相続権(相続人の地位)を失うのに対して、「財産放棄」をしても相続権(相続人の地位)を失うことはありません。
被相続人の債務等を相続するか
「相続放棄」をすると、はじめから相続人にならなかったことになるため被相続人の債務を一切引き継がないのに対して、「財産放棄」をしても相続人の地位を失うことはなく、当然に法定相続分の債務を引き継ぎます。
撤回・取消しをできるか
「相続放棄」は原則として撤回・取消しをすることができないのに対して、「財産放棄」は、遺産分割協議の成立前(他の相続人との合意が成立する前)であれば自由に撤回・取消しをすることができます。
家庭裁判所での手続きは必要か
「相続放棄」は家庭裁判所での手続きが必要であるのに対して、「財産放棄」は家庭裁判所での手続きが不要です。
なお、「財産放棄」をするためには相続人全員で行う遺産分割協議に参加して、他の相続人と合意する(遺産分割協議を成立させる)ことが必要です。
期間制限が定められているか
「相続放棄」については法律で3ヶ月の期間制限が定められている(民法915条)のに対して、「財産放棄」や「遺産分割協議」に関する期間制限は特にありません。
項目 | 相続放棄 | 財産放棄 |
---|---|---|
相続権 | 失う | 失わない |
債務の相続 | 引き継がない | 引き継ぐ |
撤回・取り消し | 不可 | 合意成立までは可 |
家裁での手続 | 必要 | 不要 |
期間制限 | 3ヶ月間 | なし |
相続放棄をできる条件
相続放棄が認められる(申述が受理される)ためには、次の3つの条件をすべて満たすことが必要です。
- ① 被相続人の死後に行われること
- ② 相続放棄の申述が3ヶ月の熟慮期間内にされていること
- ③ ②以外の法定単純承認にあたる事由がないこと
①被相続人の死後に行われること
相続の放棄は被相続人の亡くなった後に行う必要があり、生前に相続放棄をすることはできません。
②相続放棄の申述が3ヶ月の熟慮期間内にされていること
相続放棄の申述は、原則として自分のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります(この3ヶ月の期間を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます)。
熟慮期間を過ぎてから行われた相続放棄の申述は原則として受理されません。
熟慮期間については後ほどくわしく説明します。
③②以外の法定単純承認にあたる事由がないこと
相続放棄が認められるためには、 法定単純承認にあたる事由がないことが必要です。
「 法定単純承認(ほうていたんじゅんしょうにん)」とは、一定の行為をした場合や一定の行為をしなかった場合に、被相続人のすべての遺産を無条件で引き継いだ(単純承認をした)ものとみなあす、という法律上の制度です。
民法第921条は、法定単純承認にあたる事由として、次の3つをあげています。
- ① 相続放棄前に相続財産(遺産)を処分したとき
- ② 熟慮期間内に相続放棄の申述をしなかったとき
- ③ 相続の放棄の受理後に、相続財産(遺産)を隠匿し、または私的に消費したとき
(2)であげた熟慮期間を過ぎることも、法定単純承認にあたる事由の1つです。
相続放棄のメリットとデメリット
相続放棄には次のようなメリット・デメリットがあります。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
借金を引き継がなくてよい
被相続人に借金がある場合には、相続放棄をすることで被相続人の借金を引き継がなくてよくなるというメリットがあります。
被相続人に債務(借金やローン)などのマイナスの遺産がある場合、マイナスの遺産は相続の開始と同時に、法定相続分(民法で定められた割合のことです。)にしたがって当然に相続人に引き継がれます。
相続人は債権者(借金の貸主等のことです。)から返済を求められた場合、法定相続分の借金等を返済しなければなりません。
被相続人から相続したプラスの遺産よりも借金等の方が多い場合には、自分の財産を引き継いだ借金等の返済にあてる必要があります。
相続放棄が認められると一度も相続人にならなかったものとして扱われることになるため、被相続人の借金を返済する必要はありません。
相続トラブルのリスクを低減できる
相続の場面では、遺産の分け方や遺産の取り分をめぐってトラブルになるケースが少なくありません。
相続放棄をする場合には、被相続人の遺産を一切引き継がないことから、基本的には遺産の分け方や取り分について、他の相続人とやりとり(遺産分割協議を含みます。)をする必要がありません。
また、相続放棄の手続きは、他の相続人の同意を得ることなく一人で行うことができます。
そのため、相続放棄をすることによって他の相続人等と関わる機会を減らすことができ、相続トラブルに巻き込まれる可能性を低減できます。
相続手続きの時間と手間がかからない
相続放棄をする場合は、各種の相続手続きにかかる時間と手間がかからないというメリットがあります。
遺産を相続する場合、被相続人が遺言書を残していないときには、相続人全員で遺産分割協議をする必要があり、そのための時間と手間がかかります。
協議がまとまらずに調停や訴訟に発展するケースもあり、そのようなケースではより多くの時間と手間がかかります。
また、相続した遺産について役所や金融機関等で手続きを行う必要がある場合(例えば、不動産を相続した場合には、法務局で相続登記の手続きをする必要があります。)には、そのための時間と手間がかかります。
相続放棄をすることで、相続手続きに時間と手間をかける必要がなくなります。
相続税を負担しなくてよい
相続放棄をした場合には、相続税を負担しなくてよいというメリットがあります。
一定額以上の遺産を相続する場合には、相続税を負担することになります。
現預金の余裕がない場合には、相続した遺産や自分の財産を売却して現預金に換え、相続税を支払わなければならないケースもあります。
相続放棄をする場合には、相続税の課税対象となる遺産がなくなることから、相続税を負担する必要がなくなります。
ただし、「遺産」に含まれなくても相続税がかかるものもあるため、注意が必要です。
例えば、被相続人の生命保険金(死亡保険金)は「遺産」に含まれません(したがって、相続放棄をした場合でも生命保険金を受け取ることはできます。)が、相続税の課税対象にあり、受け取る保険金の額によっては相続税を負担しなければならない可能性があります。
相続放棄のデメリット
プラスの遺産を一切相続できなくなる
相続放棄の大きなデメリットとして、被相続人にプラスの遺産がある場合、そのプラスの遺産を一切相続できなくなることがあげられます。
遺産の一部の相続放棄は認められません。
例えば、借金(マイナスの遺産)だけを放棄し、土地と預金(プラスの遺産)は相続する、ということは認められません。
遺産の中に先祖代々の土地などの替えのきかない遺産が含まれているケースでは、相続人全員が相続放棄をした場合には、その遺産が親族に引き継がれなくなるというデメリットがあります。
他の相続人等に迷惑がかかる可能性がある
相続放棄には、他の相続人や後順位の相続人に迷惑がかかる可能性があるというデメリットがあります。
特に、被相続人にマイナスの遺産がある場合には、相続放棄をすることによって次のような形で迷惑がかかる可能性があります。
相続放棄をした結果、同順位の相続人の返済の負担が増えることがあります。
例えば、被相続人に借金があり、被相続人の長男・長女が相続人になるケースで、2人が単純承認をする(すべての遺産を相続する)場合には、長男・長女がそれぞれ1/2ずつの割合(法定相続分)で被相続人の借金を引き継ぎます。
このケースで、長男が相続放棄をすると、長女がすべての借金を引き継ぐ(返済義務を負う)ことになります。
同順位の相続人全員が相続放棄をすると、後順位の相続人に相続権(借金の返済義務を含みます。)が移動し、後順位の相続人に迷惑がかかる可能性があります。
例えば、被相続人に借金があり、被相続人の妻と長男・長女が相続人になる可能性がある(被相続人の両親も健在)ケースで、被相続人の妻と長男・長女の全員が相続放棄をすると、借金の返済義務は両親(第2順位の相続人)に移動します。
ある日突然、両親が借金の借主から返済を求められるなどして迷惑がかかる可能性があります。
原則として撤回・取消しできない
上で解説した「財産放棄」とは異なり、「相続放棄」は一度受理されると、熟慮期間内であっても原則として撤回・取消しが認められません。
例えば、被相続人のプラスの遺産よりもマイナスの遺産(借金など)のほうが多いと思って相続放棄をしたにもかかわらず、その後新たに高価な遺産が発見されたという場合、相続放棄を撤回することはできません。
相続放棄を検討すべきケース
相続放棄を検討すべきケースとして、以下をあげることができます。
- 被相続人が明らかに債務超過のケース
- 遺産をめぐる相続トラブルを回避したいケース
- 特定の相続人にすべての遺産を集中させたいケース
- 絶対に相続したくない遺産があるケース
被相続人が明らかに債務超過のケース
被相続人に多額の借金・ローン等(マイナスの遺産)があり、明らかに債務超過(マイナスの遺産の金額がプラスの遺産の価値を上回っていることをいいます。)の場合には、相続放棄を検討すべきです。
被相続人が債務超過の場合、遺産を相続した相続人は自分の財産を使って被相続人の借金等を返済する必要があります。
相続放棄をすると、被相続人のマイナスの遺産を含めて一切の遺産を引き継がないことになるため、借金やローンの返済義務がなくなります。
なお、プラスの遺産とマイナスの遺産のどちらが多いかの判断が微妙なケースでは「限定承認」を選択することも考えられますが、限定承認には相続人全員で手続きをしなければならないなどのデメリットがあります。
被相続人が明らかに債務超過のケースでは、相続放棄を検討するのがよいでしょう。
遺産をめぐる相続トラブルを回避したいケース
遺産をめぐる相続トラブルを回避したい場合には、相続放棄を検討すべきです。
相続の場面では、誰がどの遺産をもらうのか、遺産をどのくらいもらうのか、等をめぐってトラブルになることがあります。
このような遺産をめぐる相続トラブルは、感情的になってしまい合理的な判断をすることができず、長期化する傾向にあります。
上で解説したように、相続放棄には、他の相続人等と関わる機会を減らすことで相続トラブルに巻き込まれる可能性を低減できるというメリットがあります。
したがって、相続人同士の関係が悪く相続トラブルにつながる可能性が高いケースでは、相続放棄を検討すべきです。
特定の相続人にすべての遺産を集中させたいケース
特定の相続人にすべての遺産を集中させたいケースでは、相続放棄を検討すべきです。
例えば、被相続人の遺産の大半が事業に関するもの(事業に利用する建物や資産、事業の借金や未払金など)であり、被相続人の事業を引き継ぐ長男にすべての遺産を集中させたいというケースなどがあげられます。
このように、プラスの遺産とマイナスの遺産の両方を一人の相続人に集中させるためには、他の相続人全員が相続放棄することが必要です。
絶対に相続したくない遺産があるケース
被相続人の遺産の中に絶対に相続したくないものが含まれているケースでは、相続放棄を検討すべきです。
例えば、被相続人の遺産の大部分が管理の難しい山林であり、相続人が遠く離れた場所に住んでおり、売却を検討してもなかなか買い手が見つからない、といったケースです。
このようなケースでは、相続人がお互いに遺産を押し付け合ってトラブルになる可能性があることから、相続放棄を検討すべきです。
相続放棄が認められない事例
次のような場合には、相続放棄が認められません。
必要書類が足りない
相続放棄の申述をする際には、裁判所が求める書類を提出する必要があります。
必要書類を提出せず、裁判所から提出を求められてもこれに応じない場合には、相続放棄が認められません。
相続放棄の必要書類については後ほど別途解説します。
熟慮期間を過ぎてしまった
熟慮期間を過ぎてしまった場合、すなわち、自分のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月を過ぎてしまった場合には、原則として相続放棄が認められません。
被相続人である父親が亡くなり、その翌日に死亡の事実を知ったが、「相続放棄の申述は3ヶ月以内にしなければならない」というルールを知らなかったため、相続放棄の申述をせずにいた。父親の死亡から4ヶ月が経った頃、父親の借金の貸主から返済を求められたため、相続放棄の申述をした。
この事例では、相続放棄の申述が3ヶ月の熟慮期間の経過後に行われているため、相続放棄は認められません。
「熟慮期間のルールを知らなかった」は言い訳にならないため、注意が必要です。
法定単純承認が成立した
法定単純承認が成立した場合には、相続放棄が認められない、あるいは認められた相続放棄が無効になります。
すでに説明したように、法定単純承認が成立するのは、熟慮期間を過ぎてしまった場合のほか以下の2つの場合です。
- ① 相続放棄前に相続財産(遺産)を処分した場合
- ② 相続の放棄後に、相続財産(遺産)を隠匿し、または私的に消費した場合
例えば、相続の放棄をする前に、遺産に含まれる預貯金を解約して引き出した場合には、相続財産の「処分」をしたとして法定単純承認が成立し、相続放棄が認められません。
相続放棄の手続き
相続放棄のために必要な書類
相続放棄のために必要な書類は、(1)相続放棄申述書と(2)添付書類です。
相続放棄申述書
相続放棄の申述は、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出して行う必要があります。
「相続放棄申述書」とは、家庭裁判所に対して相続放棄をする意思があることを示すための書類で、
申述人の情報や被相続人の情報、相続放棄をする理由などを記載します。
相続放棄申述書のフォーマットは、裁判所のホームページや当事務所のホームページからダウンロードすることができます。
添付書類
相続放棄申述書の添付書類として、戸籍謄本等の書類を提出する必要があります。
添付書類の内容は、被相続人と申述人の続柄によって異なります。
例えば、被相続人の子どもが相続放棄の申述をする場合には、以下の添付書類を提出する必要があります。
- (a) 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- (b) 相続人(子ども)自身の戸籍謄本(c) 被相続人の死亡の記載のある被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本
相続放棄の書類の提出先
相続放棄の書類は、被相続人の最後の住所を管轄(担当)する家庭裁判所に提出する必要があります。
書類の提出方法には、家庭裁判所の窓口に直接持参して提出する方法のほか、郵送で提出する方法があります。
相続放棄の手続きの流れ
1. 相続の開始を知る
相続放棄の手続きは、自分のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。
2.遺産を調査する
被相続人の遺産を相続するかどうかを判断するために、遺産にどのようなものがあるのかを調査します。
プラスの遺産だけでなくマイナスの遺産も漏れなく洗い出すことが大切です。
3.相続放棄を検討する
遺産の調査結果や他の相続人等との関係をふまえて、①単純承認・②限定承認・③相続放棄のどれを選択するのがよいかを検討します。
4.必要書類等を準備する
相続放棄をすることにした場合には、必要書類等を作成・取得するなどの準備をします。
5.相続放棄の申述をする
家庭裁判所に必要書類等を提出して、相続放棄の申述をします。
6.家庭裁判所からの照会に対して回答する
ほとんどのケースでは、相続の申述から1〜2週間後に家庭裁判所から申述に関する「照会書」が届きます。
この照会書とともに同封されている「回答書」に記入し、期限内に返送します。
7. 相続放申述受理書を受け取る
回答書の内容に問題がなく、申述が無事に受理された場合には、回答書の返送から1〜2週間程度で相続放棄申述受理通知書(相続放棄が受理され、手続きが完了したことを知らせる書類のことです。)が届きます。
相続放棄の期間
相続放棄には期間制限(熟慮期間)があります。
より具体的には、自分のために相続が開始されたことを知った日から3ヶ月以内に相続放棄の申述をする必要があります。
「自分のために相続が開始されたことを知った」とは、①相続が開始されたこと(被相続人が亡くなったこと)のほか、②自分が相続人であること、の2つの事実を知ったことを意味します。
相続放棄の申述をせずに3ヶ月の熟慮期限が過ぎると、相続人は単純承認をしたものとみなされ、一切の遺産を無条件で相続することになります。
したがって、熟慮期間の経過後は基本的に相続放棄をすることができません(申述が受理されません)。
「熟慮期間というルールを知らなかった」は言い訳にならないため、注意しましょう。
また、熟慮期間の経過後になってはじめて被相続人の借金が発覚したような場合でも、相続放棄が認められるためにはやむを得ない特別の事情が必要とされます。
そのような特別の事情が認められない限り、熟慮期間経過後の相続放棄は認められません。
期間の伸長について
相続放棄の申述が3ヶ月の熟慮期間内に間に合わない可能性がある場合には、家庭裁判所に期間の延長の申立てをすることができます。
例えば、被相続人の遺産の数が膨大で遺産の調査が終わらないようなケースでは、期間の延長を申し立てることが考えられます。
延長の申立てを行う場合には、所定の必要書類を準備して家庭裁判所に提出する必要があります。
また、申立ては熟慮期間内に行われることが必要です。
相続放棄に必要な費用
相続放棄に必要な費用は、①実費と専門家の費用の2つに分けられます。
① 実費の内訳は、家庭裁判所に提出する必要書類の取得費用と家庭裁判所に支払う手数料です。
実費の相場は、申述人1人あたり数千円〜5千円前後です。
② 専門家の費用とは、相続放棄を弁護士や司法書士等の専門家に依頼する場合の費用(報酬)のことです。
専門家の費用相場は、どの専門家に依頼するのか、手続きをどの範囲で依頼するのか、によって異なります。
弁護士に依頼する場合の相場は、申述人1人あたり10〜15万円前後です(相続放棄のための必要書類の取得・作成から申述までの一連の手続きを依頼する場合の金額です)。
司法書士に依頼する場合の相場は、申述人1人あたり3万円〜5万円前後です(相続放棄の必要書類の取得・作成を依頼する場合の金額です)。
なお、相続放棄の手続きを自分で行う場合、②の費用はかかりません。
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相続放棄の注意点
相続放棄には4つの注意点があります。
一部の遺産の相続放棄はできない
一部の遺産のみを相続放棄をすることはできません。
相続放棄をすると、プラスの遺産・マイナスの遺産を問わず一切の遺産を相続することができなくなります。
相続放棄をする場合には、事前にメリット・デメリットを十分に検討することが大切です。
相続放棄の撤回・取消しは認められない
相続放棄が受理されると、その後は原則として撤回・取消しが認められません。
例外的に撤回や取消しが認められるのは、騙さたり脅されたりしたために相続放棄をしてしまったような場合に限られます。
相続放棄の受理後に「単純承認をしておけばよかった」あるいは「限定承認をしておけばよかった」、といった後悔をしないためには、遺産の調査をしっかり行い、相続放棄がベストの選択かどうかを的確に判断することが大切です。
法定単純承認に注意する
すでに説明したように、相続放棄の前後に「法定単純承認」にあたる行為をすると、プラスの遺産・マイナスの遺産を問わず一切の遺産を無条件で相続しなければなりません。
法定単純承認にあたるかどうかの判断に迷われる場合には、相続にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
法定単純承認にあたる行為(相続放棄の前後にしてはいけない行為)については、「相続放棄についてのQ&A」で解説していますので、ご確認ください。
相続放棄によるトラブルに注意する
相続放棄をすることによって他の相続人や後順位の相続人に迷惑がかかる場合には、相続放棄をしたことによって関係性が悪化したりトラブルになったりする可能性があります。
相続放棄によるトラブルを避けるためには、相続放棄をすることによって影響を受ける可能性のある相続人等に対して、事前に相続放棄をする予定であることを説明しておくことが大切です。
相続放棄の専門家の選び方
相続放棄の手続きは、相続に強い弁護士に依頼されることを強くおすすめします。
相続放棄手続きを代行できるのは弁護士と司法書士
相続放棄の手続きを代行できるのは弁護士と司法書士のみです。
司法書士は相続放棄申述書・裁判所の照会に対する回答書の作成と添付書類の取得を代行することができます。
行政書士などの他の士業は、相続放棄申述書等の裁判所に提出する書類の作成を代行することができません(代行することは違法です)。
司法書士の対応できる範囲は限定的
司法書士に相続放棄申述書等の作成のみを依頼する場合には、専門家の費用を安く抑えることができますが、その反面、司法書士に相談・依頼できることの範囲はかなり限定的です。
司法書士は、そもそも相続放棄がベストの選択肢であるのかという相談に対してアドバイスをすることが難しいです。
これに対して、弁護士は法律に関する専門家であることから、相続放棄の申述を含む相続に関する手続き全般を代行することができ、相続問題全般に関する法的アドバイスをすることができます。
相続放棄がベストの選択肢であるのかという相談に対しても、それぞれの相続人の置かれている状況を踏まえて、相続法に関する専門知識と経験を元に適切なアドバイスをすることができます。
また、弁護士であれば、他の相続人等とのトラブルを避けるためにはどのように対処したらよいのか、といった相談についてもアドバイスをすることができます。
相続放棄は一切の遺産を引き継がないという重大な効果をもたらすものであり、原則として撤回や取消しは認められません。
後悔のない選択をするためにも、相続放棄について少しでも疑問や不安がある場合には、相続に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
相続に強い弁護士を選ぶことが大切
弁護士の中でも、相続に強い弁護士を選ぶことが大切です。
弁護士にもそれぞれ専門分野があり、相続に強くない弁護士に依頼してしまうと、かえって時間や手間がかかってしまったり、相続放棄が認められなくなったりするなどのリスクがあります。
相続に強い弁護士かどうかは、ホームページ上に相続問題の取扱件数が書いてあるか(数は十分か)、ホームページやブログで相続専門の情報発信をしているか、過去に相続問題を依頼した人の口コミはどうか、等の観点で判断することができます。
相続放棄についてのQ&A
相続放棄は自分でできますか?
専門家に依頼しなければならないという決まりはありません。
ただし、相続放棄を自分でする場合には、(a)相続放棄がベストな選択かどうかを的確に判断できないリスクがある、(b)相続放棄が認められないリスクがある、(c)手間と時間がかかる、(d)相続トラブルにつながるリスクがある、などのデメリットがあります。
相続放棄の手続きについて少しでも疑問や不安がある場合には、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
相続放棄をする前にやってはいけないことは?
相続財産の処分をすると、熟慮期間の経過前であっても、遺産について単純承認をしたものとして扱われ(法定単純承認)、相続放棄をすることができなくなります。
相続財産の「処分」にあたるのは、相続財産の状態や性質を変える行為です。
例えば、遺産の不動産を売却する行為、被相続人の預貯金を引き出して自分の借金の返済に充てる行為、被相続人名義の自動車を自分名義に変更する行為、遺産の建物を取り壊す行為、などは「処分」にあたります。
ただし、被相続人の遺産の中から被相続人の葬儀費用や埋葬費用を支払ったとしても、一般的な金額であれば相続財産の「処分」にはあたらない(法定単純承認にはならない)とされています。
そのほかにも、相続財産の処分にあたるかどうかの判断が分かれる行為があることから、少しでも判断に迷われる場合には、事前に相続に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
相続放棄後にしてはいけないこととは?
- ① 相続財産(遺産)の隠匿(いんとく)
「隠匿」とは、遺産を見つからないように隠す行為、遺産のありかを知っているのにあえて教えない行為などを指します。 - ② 相続財産(遺産)私的な消費
被相続人の遺産を自分の利益のために処分する行為のことを指します。例えば、被相続人の預貯金を引き出して自分の生活費にあてる行為などがこれにあたります。
これらの行為は「法定単純承認」にあたる行為であり、相続放棄が受理された後であっても、上記のいずれかにあたる行為をしてしまうと、相続放棄は無効になり、一切の遺産を無条件で引き継がなければなりません(単純承認をしたものとみなされます)。
相続放棄すると現金はどうなりますか?
相続放棄後に現金を使ってしまうと、法定単純承認が成立し、相続放棄が無効になる可能性があるため、注意が必要です。
被相続人の現金を保管・管理している場合には、できるだけすみやかに他の相続人に引き渡しましょう。
なお、相続放棄をしたことによって他に相続人がいなくなった場合には、現金を含む遺産はすべて「相続財産清算人」が管理することになるため、相続財産管理人に引き渡す必要があります。
被相続人の現金の取扱いについてわからないことがあるときは、相続に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
- 相続放棄とは、被相続人の遺産(プラスの遺産・マイナスの遺産)を一切引き継がないことをいいます。
- 相続放棄をするためには、家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理されることが必要です。
- 相続放棄のメリットとして、借金を返済しなくて済むこと、相続トラブルを回避できること、相続手続きの時間と手間がかからないこと、相続税を負担しなくてよいこと、などをあげることができます。
- 他方、相続放棄のデメリットとしては、プラスの遺産を一切相続できなくなること、他の相続人等に迷惑がかかる可能性があること、原則として撤回・取消しできないこと、などがあります。
- 相続放棄をするのがベストの選択かどうかは、それぞれの相続人の置かれている状況によって異なります。
- 当事務所では、相続に強い弁護士で構成する相続対策専門チームを設置しており、相続放棄に関するご相談をはじめとする相続全般のご相談をうけたまわっています。
相続放棄は一切の遺産を引き継がないという重大な効果をもたらす法律行為であることから、相続放棄を検討される場合には相続に強い弁護士に相談されることを強くおすすめします。
相続放棄以外にも遺産分割協議、遺言書の作成、相続トラブルの解決、相続登記、相続税の申告・節税対策など、幅広いご相談に対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。