真に会社が向き合うべき「プラント型IT」とはなにか
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズでCOOを務める白川克です。
ケンブリッジでは、よく以下のような相談をいただきます。
「なぜITプロジェクトは失敗ばかりするのか?」
「ITのコストはなぜこんなに高いのか?」
「ITの投資計画が毎回ブレる理由は?」
「ITの長期計画の立案方法は?」
「IT人材をどう育てればいいのか?」
こうしたご相談には、以下のように回答することがあります。
「まず『自分の会社でプラント型ITを育てねば』という視点でこれらの問題を考えるべきです。そうすれば、こうした難問を外部に丸投げせずに自分たちで向き合えるようになりますよ」と。
そこで今回は「プラント型IT」と「ツール型IT」というふたつのITの違いを足掛かりに、真に会社が向き合うべきITのありかたをお伝えします。
#01ITを軽視して何十億円を無駄にする人々
いまや会社にとってITは死活的に重要なはずですが、ITエンジニアでない多くの人々は、ITに主体的に関わりを持とうとしない印象があります。業務部門とIT部門を往復するようなキャリアの人は少ないですし、IT部門出身の経営者も少ないのが現状です。場合によっては「ITはビジネスのコアではないので、社外にアウトソースすべし」のような論調もあります。
しかし本当に我々が思っているほど、会社にとってITは重要ではないのでしょうか?
実際には、ITプロジェクトが会社の命運を分けているケースは数多く存在します。基幹系のシステム構築に失敗して何十億円をドブに捨てることになった、合併後のITの統合がうまくいかずに当初の目論見が「絵に描いた餅」になってしまった、など、さまざまな話を聞きます。
ITは間違いなく、会社の業績に大きなインパクトがあります。それだけの重要性があるにも関わらず、多くの企業でITをIT部門やその先のベンダーに丸投げしています。また、ITに関する知識がないと公言することが許容される風潮も見受けられます。
このようなギャップが生まれるのはなぜなのでしょうか?
#02業務に絡むITは「単なるツール」ではない
これらの状況の背景には、多くの人々がITを「単なるツール」として捉えていることがあると考えます。しかし、ITは単なるツールではありません。会社にとってもっと重要なモノです。まず、そこが全ての議論のスタートになります。その認識さえすり合えば、会社とITの話は、かなりの部分で見通しが良くなります。
会社で利用するITには、大きく分けて「ツール型IT」と「プラント型IT」の2つが存在します。多くの人々がイメージするのは「ツール型IT」でしょう。しかし、実際に企業の競争力を左右するのは「プラント型IT」です。
まず、「ツール型IT」とは何か?
典型的なツール型ITは、メールやプリンター複合機を指します。例えば、社員が遠隔でのコミュニケーションをする際に、
(1) 数十年前、主な手段として電報や電話を利用していた。
(2) メールの導入により、時間の制約を受けずに効率的にコミュニケーションが可能となった。
(3) 近年では、Web会議ツールの普及により、リアルタイムでの遠隔地間の議論が容易になった。
というように、その時々で最適な道具を使いこなしていきます。
穴を開けたい時には、お店から電動ドリルを買ってきます。ツール型ITも同じ感覚で、買ってきて便利に活用する情報技術のことです。
他の例として、企業のWebサイト上の会社概要やIRページもツール型ITと言えます。これらのページの制作や更新は、経営者や業務担当者が直接関与することなく、デザイナーや専門の業者に依頼することで、それなりのものに仕上げてくれます。そして、IRページのデザインが多少見づらい場合でも、それが直接企業の競争力に影響を与えるわけではありません。(投資家の心象は悪くなるかもしれませんが、、、)
一方で、会社には、単なる「ツール」としての側面を超えた、あまりに複雑で、会社の業務そのものと深く結びついた「プラント型IT」とでも言うべきITがあります。
「プラント」とは、複雑な工業施設を指します。写真のような石油プラントをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。石油精製産業が「装置産業」と呼ばれるのは、会社の主な資産がプラントであり、プラントを操業して製品を作ることが事業そのものであり、利益の源泉でもあるからです。プラントは単なる道具ではなく、石油の精製プロセスに従い、多くの設備が複合的に組み合わされて構築されます。道具のようにどこからか買ってきた訳ではなく、長い時間をかけて緻密に設計、構築された設備の集合体がプラントです。
実は、会社にとって本当に重要な「業績を左右するIT」をよく観察すると、電動ドリルのようなツールより、はるかにプラントに近い存在と言えます。
典型的なプラント型ITである販売管理システムを例に考えてみましょう。
(1) 営業担当者は、販売管理システムを活用して、見積金額を計算します
(2) 算出された金額での販売が許可されるか、社内での決裁プロセスを経ます
(3) 顧客が期待通りに購入を決定した場合、その受注情報をシステムに登録します
(4) 在庫管理のデータには、該当のお客様への納品予定を明記します
(5) もし必要な在庫が不足している場合、製造部門に製造の指示を出します・・・
といったように、いまや一定以上の規模の企業であれば商品の販売プロセスは完全にITの流れに沿っています。人間が道具としてITを使うというよりは、ITが人の働き方を決めている、と言ってもいいでしょう。その証拠に、営業担当者が不適切な操作を試みた場合、システムは即座にエラーを返し、その操作を制限します。
この現象は、原油がプラントを通過し、さまざまな製品に変化する様子に似ています。業務情報がITの中を流れていくことで、業務が順調に進行し、最終的には商品が顧客に届けられ、お金を受け取り、経理仕分けが記録されるのです。このように、業務と密接に絡み合うITを「プラント型IT」と呼びます。
もちろん、会社の命運を左右するのはツール型ITではなくプラント型ITの方です。業務担当者や経営者のようなエンジニアではない方が影響を受けるのも、プラント型ITの方です。
#03プラント型ITの重要性を認識することからすべては始まる
さて、ひとたび、
◆ 会社には「ツール型IT」と「プラント型IT」の2つのタイプが存在する
◆ 会社の命運を左右するのは「プラント型IT」である
ということを理解できると、ITエンジニアでない方々も「会社でITをどう扱えばいいのか?」について、自分で考え判断ができるようになります。
具体的に言えば、「ツール型IT」は専門家に任せることができるかもしれませんが、「プラント型IT」を外部に完全に委ねるのは適切ではありません。なぜなら、プラント型ITは業務と非常に密接に絡んでいるからです。
プラント型ITについて考えることは、実質的に業務そのものについて考えることと言えます。例えば、M&Aを行ったとしても、プラント型ITの統合が完了しない限り、期待するシナジーは得られないかもしれません。また、プラント型ITの変更や改善を行わなければ、業務の変革は難しいでしょう。さらに、プラント型ITの投資方針は、経営判断そのものです。そして、プラント型ITはIT部門やベンダーの力だけでは育てることができません。
正直に申し上げると、これらのテーマについて深く考え、独自の答えや見解を持っているIT担当者は少ないです。ましてや、業務担当者や経営層で、これらの問題に対する深い知識や経験を持っている人は、さらに少ないでしょう。だからこそ、関係者全員がプラント型ITの重要性を知れば大きな武器になりますし、会社を劇的に変えることもできるのです。
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