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STUDYお客様事例
古河電気工業株式会社様
<セミナーレポート 前編>古河電工はSAP S/4 HANA導入をいかに成功させたのか
まもなく「2027年問題」を迎えるSAPユーザーはもちろん、これから基幹システム導入や刷新を検討するIT関係者にとって、直近の大規模な基幹システム刷新事例は興味関心の高いテーマだろう。特に近年のシステム刷新プロジェクトには、過去に比べて多種多様なステークホルダーが関与するケースが多い。中でも特徴的なのが、かつて「ユーザーとベンダー」による2社体制でリードするプロジェクトワークが主流だったところに「コンサルタント」が入り込み3社体制になるケースだ。
2022年8月に開催された座談会「古河電工はSAP S/4 HANA導入をいかに成功させたのか」では、古河電気工業株式会社(以下、古河電工)、および導入を支援した富士通株式会社(以下、富士通)、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(以下、ケンブリッジ)の3社より、古河電工SAP導入プロジェクトをリードしたプロジェクトマネージャー(PM)3名をパネリストに迎え、プロジェクト中の様々な難局とその乗り越え方を語ってもらった。
前編では、各PMに本プロジェクトの全体像、複雑さを語ってもらった。
プレゼンター(左から):
内澤雅彦氏(古河電気工業株式会社)
大久保学氏(富士通株式会社)
藤崎亮(ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社)
#01古河電工が思い描く2030年の将来像に向けた仕組みを作る
1884年に創業した古河電工は今や巨大なグローバル複合企業体である。情報通信インフラ、エネルギーインフラ、自動車部品・電池など、全く異なる事業を展開する12の部門があり、製品は合計15万点に及ぶ。これらを包括管理する一つの基幹システムを構築するプロジェクトが「OneFIT-Phase3(”OneFIT”は”One Furukawa IT”の略)」だ。これだけ聞いても、非常に難度の高いプロジェクトだったと分かるだろう。
なぜ古河電工はこのような困難に立ち向かう必要があったのか。古河電工のPMを務めた内澤雅彦氏は、プロジェクトの目標を次のように語る。
「古河電工グループは2030年に向け、現在の業務を標準化・効率化して、徐々に戦略立案力を強化していくことを目標に掲げています。『グループ全体がオペレーショナルな業務からプロフェッショナルな業務へシフトする』ということです。こうした会社の将来へ向けた環境変化に耐えられる仕組みを構築することがOneFIT-Phase3の目標のひとつでした。そしてもうひとつの目標が、プロフェッショナルな業務に欠かせない高度なデータ活用を見据えた仕組みを今から準備しておく、ということでした」(古河電工・内澤氏)
OneFIT-Phase3が始まる以前の古河電工では、様々な業務が部門個別のルールや個人のやり方に依存してブラックボックス化・複雑化しており、組織の変更や分社化、統廃合などを迅速に進めるのが困難な状況だった。IT面においても、システム間連携やコード体系に柔軟性が足りないなどの課題に加え、「技術者の定年退職」という重篤な課題もあったという。
「販売管理システムは運用開始から約40年が経過しており、携わったホスト系技術者の多くが定年退職してしまいました。各工場の生産管理システムも同じです。現在主流のオープン系の技術者ではこうしたシステムの管理は難しく、システムが徐々にブラックボックス化していったのです。社内でもこうしたことへの危機感をずっと感じていたのですが、延命を続けてきてしまった、というのが実情です」(古河電工・内澤氏)
こうした課題を解決するために、OneFIT-Phase3は「部門を超えた業務標準化とそれを支えるSAP S/4 HANAの導入」というゴールを掲げてスタートした。OneFIT-Phase3では、販売、購買、会計・経理領域の標準的なモジュールに加え、TRM/CM(資金管理)、RAR(IFRS対応)、BPC(予算・計画管理基盤)などのモジュールも導入した。製造業向けの特殊な要件に合わせたソリューション「SAP for Mill Products」を採用したのも特徴の一つである。また、クラウド型の調達・購買システムであるSAP Aribaを採用しSAP S/4 HANAと連携する、というアジア初の試みにもチャレンジした。
「業務を標準化するため、SAP S/4 HANAの標準機能をとにかく使い倒すことを目指しましたが、もちろん簡単なことではありませんでした。中でも販売領域の標準化は非常に困難でした。古河電工の事業部門は多岐にわたっており、製品の種類はもちろん数え方の単位すら違うのです。それをSAPの標準機能でどう担保するのか、試行錯誤の連続でした」(古河電工・内澤氏)
古河電工次期基幹システムの全体像
#02「事前準備」と「ワンチーム感」がプロジェクトをけん引した
OneFIT-Phase3は、2018年上期に始まった。最初は古河電工とケンブリッジによる「準備フェーズ」だ。SAP導入パートナー選定を進めながら、「導入パートナーとプロジェクトをロケットスタートさせ、かつ、円滑に進めていくには、何を準備すればよいか」を深く議論し、資料を作成したという。
「導入パートナーさんから『これが知りたい』というリクエストがあった時に、まとまった資料をさっと出せる状態にしておきましょうと言っていました。具体的には現状の業務や課題、プロジェクト立上げの狙い、システムに対する機能要求などをまとめました」(ケンブリッジ・藤崎)
そして富士通を導入パートナーに迎え、2018年下期にプロジェクトは本格的にスタートした。3社はまずシステム化の目標、範囲の明確化などに取り組んだ。事前にこうした取組みのインプットとなる資料がまとまっていたため、プロジェクトは比較的スムーズに立ち上がったという。その後は、要件定義、設計フェーズを2019年上期までに着実にこなしていく。
「プロジェクトスタート当初はベンダーの立場に固執していたのか『どこまでをSAPでカバーするか、これでは決め切れない』と感じるケースもありました。しかし半年間の共同作業の中で、3社間に『お互いに立場を超えてこのプロジェクトを成功させよう』という空気感が徐々に醸成されていったのを感じました。当時はしきりに『領空侵犯しよう』と言っていたのをよく覚えています。その効果もあり、設計フェーズに入った頃には他のプロジェクトよりも圧倒的に速く物事を進められるようになりました。具体的には、約280本ものインタフェースやアドオンの設計、領域をまたいだ仕様整合や課題解決を次々とこなすことができたのです。『これがワンチームということか』と思ったのを覚えています」(富士通・大久保氏)
#03そして本稼働。システム連携はチャレンジの連続だった
2019年下期からは、経理・購買システムの2020年稼働開始を目指し、業務データを利用したシステム連携テストを繰り返した。2020年に入り、新型コロナウイルスの感染拡大によってプロジェクト活動はテレワークに移行したが、すでに3社間でオープンなコミュニケーションスタイルとリスペクトしあえる関係性を構築できていたため、やりづらさは全くなかったという。そして2020年8月、経理・購買システムは予定通り本稼働を開始した。
古河電工次期基幹システムの構築スケジュール
一方、販売システム領域では、2020年下期から約1年4カ月にわたり、マスタ整備やテストに取り組んだ。12の事業部門で使用する品目マスタは合計15万件に及んだ。
「通常のシステム刷新であれば、既存システムに格納されているマスタ情報をもとに、新システムで使うマスタを整備します。しかし今回は、既存の販売システムがホストだったので、いつもどおりのやり方が通用しませんでした。例えば、本来であればマスタに格納されるような情報をホストシステムのプログラムに直書きしているようなケースもありました。そういった事情も踏まえて15万件の品目マスタを構築・整備するのは骨が折れました」(ケンブリッジ・藤崎)
12事業部門の多岐にわたるビジネスシナリオのテストで最も苦労したのは、販売管理システムと周辺領域とのシステム連携だったという。
「販売領域におけるシステム連携は最後まで苦労したポイントです。SAP S/4 HANAから直接連携する1次周辺領域のシステムはマスタが整備されていて連携の確認が容易だったのですが、工場の生産管理システムや関係会社のシステムがある2次周辺領域はデータの型式がバラバラな上、既存の販売システム同様『そもそもマスタがない』といったケースもあり、連携が正しく行われているのか確認することがしばしば困難でした」(ケンブリッジ・藤崎)
さらにOneFIT-Phase3は業務標準化を徹底するために、古河電工だけでなく関係会社や販売代理店など幅広いステークホルダーに対してユーザートレーニングを実施した。マスタ整備、テスト、ユーザートレーニングなどの丁寧で重厚な取り組みによって、2022年1月に販売管理領域は2022年1月に本稼働を迎え、その後の運用も安定しているという。
SAP S/4 HANAとAriba(電子購買システム)の連携もまたOneFIT-Phase3にとって大きなチャレンジだった。
「SAP S/4 HANAとAribaの連携はアジア地域で初の取組みでした。Ariba単体についても日本の富士通に要件定義できる技術者が少なかったことから、メンバーをグローバルでアサインして取り組みました。連携直後は不安定な部分もありましたが、古河電工の経理・購買メンバーにも協力してもらいながら乗り切り、現在は安定稼働しています」(富士通・大久保氏)
#04OneFIT-Phase3 における3つの「くせ者」ポイント
OneFIT-Phase3は、経理・購買システムの構築が24カ月、販売システムの構築には40カ月かかり、延べ400名以上のスタッフが関わった大規模プロジェクトだった。改めて今回のプロジェクトはどこが「くせ者」だったのだろうか。
「OneFIT-Phase3は、プロジェクトの規模感以上にくせ者でした。くせ者のポイントは、3つあります。まず『(1)40年物の販売管理』は、まさにパンドラの箱を開けるに等しいチャレンジでした。次に『(2)12事業部門の壁』は、多様な業務を1つのシステムで賄う必要があり、実装の難度が他のプロジェクトに比べて桁違いでした。さらにOneFIT-Phase3は『(3)IT主導でのプロジェクト推進』だったため、なかなか現場を巻き込めず、品質確保に非常に苦慮しました」(ケンブリッジ・藤崎)
「くせ者」ポイントを掘り下げてみよう。
(1)40年物の販売管理
販売領域のホストシステムの仕様に精通する有識者が定年退職等で次々といなくなったことで、システムの中身がブラックボックス化し、変えたいのに変えられない、無くしたくても無くせない、という状況が永年続いた。工場や関係会社などの周辺領域もホストシステムだったため何を変えたらどこまで影響するか不明で、「怖くて変えられない」状況に拍車をかけた。
(2)12事業部門の壁
多種多様なビジネスを部門制で展開しており、カルチャーや社員のスタンスがまちまちだった。また意思決定者である部門長のプロジェクト参画度合が少なかった。このため、横串の意思決定や全社標準を目指す業務改革が難しかった。
(3)IT主導でのプロジェクト推進
入社当時からずっと1つのシステムだけを使い続けリプレース経験のないユーザーが多く、そもそも「システムを変えたい」「こういう機能が欲しい」という要求が現場に薄かった。同様にシステム導入に携わった経験のあるユーザーも少なかったため、プロジェクトに対して消極的なムードがあったという。そのため、ユーザー側の有識者を十分に揃えられないまま、IT主導でプロジェクトを推進せざるを得なかった。
こうした課題を抱えながらも、なぜOneFIT-Phase3は成功したのだろうか?
後半の座談会パートへ続く。
#05全文掲載版のPDFはこちらから
【ケンブリッジ マーケティングチームより】
「<セミナーレポート>古河電工はSAP S/4 HANA導入をいかに成功させたのか」は分量が多く、本事例ページでは前後編に分けてお届けしています。それでも文字量の都合で掲載できなかったパート(経営層やユーザーの巻き込み方)があります。
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