第145条【時効の援用】
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
目次
【解釈・判例】
1.時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の効果を受ける旨の意思表示をすることである。
2.時効を援用できるのは「当事者」である。消滅時効の場合は、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者も時効を援用することができる。被相続人の占有により取得時効が完成した場合、その共同相続人の1人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる(最判平13.7.10)
3.援用の効果は、援用した者と関係者との間でのみ生ずる(相対効)。例えば、保証人が主たる債務について消滅時効を援用した場合、保証人についてのみ時効の効果が生ずる。
4.時効の援用は、裁判上でも裁判外でも可能である。
【暗記】
時効援用権者の範囲
肯 定 | 否 定 | |
消滅時効 | ① 保証人、物上保証人 ② 抵当不動産の第三取得者 ③ 売買予約の目的不動産の後順位抵当権者及び第三取得者(最判平2.6.5、平4.3.19) ④ 詐害行為取消請求の受益者(最判平10.6.22) ⑤ 譲渡担保権者から目的物を譲り受けた第三者(最判平11.2.26) |
後順位抵当権者(最判平11.10.21) |
取得時効 | ① 賃借権者(最判昭43.10.8) ② 地上権者(最判昭46.11.26) |
土地を時効取得すべき者からの、その土地上の同人所有の建物の賃借人(最判昭44.7.15) |
【問題】
他人の債務のために自己の所有物件に抵当権を設定した物上保証人は、その被担保債権が消滅すると抵当権も消滅するので、被担保債権の消滅時効を援用することができる
【平20-7-イ:○】
【問題】
詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権が消滅すれば、詐害行為取消権の行使による利益喪失を免れることができるので、その債権の消滅時効を援用することができる
【平20-7-エ:○】
【問題】
抵当不動産の第三取得者は抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができるのに対し、抵当不動産の後順位抵当権者は先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない
【平24-6-ア改:○】
【問題】
建物の賃借人は、当該建物の賃貸人による当該建物の敷地の取得時効を援用することができる
【平31-6-イ:×】
【問題】
被相続人の占有によって取得時効が完成した場合に、その共同相続人のうちの一人は、自己の相続人の限度においてのみ取得時効を援用することができる
【平31-6-エ:〇】