サケを頭にのせて泳ぐシャチ、1980年代の不可解な現象の再来か
(CNN) ファッションは気まぐれで、流行は移り変わる。これはシャチにもあてはまるようだ。
1987年、北米北西部の沖合でシャチの群れが数週間にわたり頭に死んだ魚を乗せて、一時的にサケの「帽子」をかぶっていた。ワシントン州のピュージェット湾で最近、「J27(ブラックベリー)」として知られる雄のシャチが頭にサケをのせている様子が撮影された。多くの観察者は当時の流行が復活したと断言した。
サケを頭にのせたシャチの姿は世間をにぎわせたが、シャチや海洋哺乳類の保護団体オルカ・ネットワークによると、「サーモンハット」をかぶったシャチの最近の写真はこれ以外にないという。
写真家のジム・パソラ氏は10月25日、ピュージェット湾のキトサップ半島の先端でJ27がサケを頭にのせている写真を撮影した。このあたりでは「Jポッド」と呼ばれるシャチの集団がサケを狩っており、J27は頭上にサケをのせて水面を泳いでいた。
約10日後、同湾で船上からデータを収集していた科学者の近くに、サケを頭にのせた別のシャチが短時間浮上した。乗船していた研究者の1人で、保護団体ワイルド・オルカの研究責任者を務めるデボラ・ジャイルズ氏が明らかにした。
ジャイルズ氏には、そのシャチがJ27かどうかはわからなかった。シャチの個体を見分ける特徴となる背びれなどが水中にあったためだ。だが同氏は「魚が間違いなく頭にあった」と話す。
フラッシュバック
オルカ・ネットワークの共同設立者で理事長のハワード・ギャレット氏は、魚をのせたJ27の写真について「1987年を思い起こさせるものだった。サザンレジデント(南部定住型)シャチの何頭かが当時、まるで魚を頭にのせて自慢するかのように泳いでいた」と語る。
サザンレジデントシャチは、三つの緊密な家族の集団(Jポッド、Kポッド、Lポッド)で構成されたシャチの単一個体群だ。世界中の海を回遊する大半のシャチとは異なり、群れをなし、毎年夏から秋にかけてピュージェット湾に集まりサケを食べる。
他のシャチは魚やタコ、海洋哺乳類を食べる一方で、サザンレジデントシャチはほぼサケのみ。絶滅危惧種で、三つの群れを合わせても72頭しかいないという。
87年にKポッドにいたメスのシャチがサケを頭にのせて運び始め、ほかのシャチも同じ行動をするようになった。研究者らが2004年12月にバイオロジカル・コンサベーション誌に報告したところによると、この行動は5~6週間かけて他の群れに広がったものの翌年の夏に数回見られた後、まったく見られなくなった。
遊び心か実用か
J27の行動が「サーモンハット」の回帰を示すものではないとしても、シャチが頭上に魚をのせる行動は何を意味するのか。ギャレット氏は一つの説明として、単純な遊び心が挙げられると述べた。10月のほとんどの間、サザンレジデントシャチはピュージェット湾でサケをむさぼり食べた。あまりにも大量の食料にめぐまれたことでシャチは、食べ物で遊ばずにはいられなくなった可能性があるという。
一方でサケを頭にのせることには実用的な目的もあり得る。ジャイルズ氏は、シャチは魚を頭に乗せておいて、後で食べたり、群れの仲間と分け合ったりしていたのかもしれないと指摘する。
シャチは非常に社会性の高い動物で、サザンレジデントシャチは複雑なあいさつの儀式など、社会的なつながりを強化する行動で知られている。サケが豊富なときに死んだサケを一時的に頭にのせておくことは、集団内での絆を強める体験として食べ物を分けることの別の側面である可能性があるという。
ギャレット氏は実際に社会的つながりの強さが1987年の流行の理由になるかもしれないと話す。「シャチのうちの1頭が魚を頭上に投げあげるのは、社会的なイベントだ。それが他の群れに広まったことは驚きではない」