一般道での自動運転実用化に向け、歩行者の行動変化を予測し衝突を防止する基本技術を開発
2015年10月14日
株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭)、日立オートモティブシステムズ株式会社(取締役社長兼COO:関 秀明)、クラリオン株式会社(取締役社長兼COO:川本 英利)は、歩行者などの行動変化を予測し、リアルタイムで最適な速度パターンを高速演算することで、安全かつ実用的な速度で衝突を防止する基本技術を開発し、その有効性を実験車にて確認しました。今後、検証を重ねることで技術開発を加速し、自動運転の実用化に貢献していきます。
交通事故の削減、渋滞の解消・緩和、高齢者の移動支援等の社会的課題の解決に向け、自動運転へのニーズが高まっています。日立グループでは、駐車場や高速道路における自動運転に加え、一般道での自動運転実現に貢献する技術の先行研究にも取り組んでいます。
一般道では、通行車両や歩行者等の移動体や様々な障害物を認知し、これらの行動を予測・判断しながら、安全かつ周囲の流れに沿った運転操作が必要であり、高速道路に比べ、自動運転実現に向けた課題はより複雑です。人間が行う高度な認知・判断・操作を含む運転を自動化するためには、移動体や障害物を認知することに加えて、その行動変化予測と、予測に基づいて衝突を防止する運転計画をリアルタイムに実行し、安全かつ実用的な速度で走行することが求められます。
日立グループは、これらの課題を解決するための基本技術を開発し、その有効性を実験車にて確認しました。その特長は以下の通りです。
1. 行動変化予測に基づく速度制御技術
ロボットの移動経路を計画する際に用いられるポテンシャル法*に着目し、移動体と障害物との位置関係から移動体の将来行動を予測し、自車との衝突を防止する基本技術を開発しました。具体的には、歩行者が駐車車両などの障害物を避け、リスクポテンシャルの低い空間へ進路変更する行動変化をモデル化しました。本技術により、歩行者と自車の衝突が予測される場合は、加速度変化を最小化する最適速度パターンで滑らかに減速し、安全性が保たれる場合は、減速せずに実用的な速度を維持することが可能となります。
2. 高速演算技術
自車の周囲に多数の移動体や障害物が存在する状況においては、安全性と実用性の両方を考慮し、衝突確率の低減と快適な速度や加速度の維持を実現する最適速度パターンをリアルタイムに計画することが必要であり、最適値の探索を高速に演算することが求められます。従来は、最適値探索に高い演算負荷がかかるため、短時間での演算が困難であり、衝突確率マップが格納されたメモリへのアクセス速度の向上、および最適値探索の演算回数低減が課題でした。開発した技術では、従来進行方向と道路幅を考慮した衝突確率を2次元マップで表現していましたが、予め自車の計画軌道を固定し、道路幅の情報を省略した1次元マップに置き換えることで、メモリへのアクセス高速化を実現しました。さらに、複数の最適値探索演算の並列処理を組み合わせることで、演算の高速化を図りました。その効果をFPGA(Field Programmable Gate Array)の評価ボードで実機検証し、汎用的な組込みプロセッサによるソフト処理と比較して約200倍に高速化できることを確認しました。これにより最適速度パターンをリアルタイムに計画することが可能になります。
今回開発した技術の有効性を確認するため、実験車による検証を行い、実用的な歩行者通過速度、および良好な乗り心地の基準である加速度(2.2 m/s2以下)、加速度変化(2.0 m/s3以下)を達成しました。
今後は米国ミシガン大学が2015年7月に開設した自動運転車やコネクテッドカーの走行実験プロジェクト「Mcity(エムシティ)」などの走行環境を活用し、実験車による評価検証を重ねていく予定です。
本技術の一部は、東京農工大学(学長:松永是)大学院工学研究院先端機械システム部門ポンサトーン研究室の協力を得て開発したものです。
なお、本成果の一部は、10月14日から16日に北九州国際会議場で開催される自動車技術会秋季大会で技術発表します。
*ポテンシャル法:移動体に対して斥力と引力が発生していると仮定することでポテンシャル場を形成し、ポテンシャル場の勾配から移動体の運動を決定する経路計画方法。