完璧な少女はなぜ屋上から飛び降りたのか?『白の花実』12月公開

2019年公開のオムニバス映画『21世紀の女の子』の一篇「reborn」を監督し、中編「レイのために」(2019)や短編「木が呼んでいる」(2020)などでその才能が評価されてきた坂本悠花里(別名義 坂本ユカリ)の初の長編作品『白の花実』(しろのかじつ)が、12月26日(金)に新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開される。先日スペインで行われた第73回サンセバスチャン国際映画祭のNewDirectors部門ではクロージング作品として上映され喝采を浴びた。
周囲に馴染めず、転校を繰り返す杏菜が新たな寄宿学校で出会った美しく完璧な少女・莉花は、突然、屋上から飛び降りて命を絶ってしまう。彼女が残した日記のページをめくるたび、莉花の苦悩や怒り、痛み、そして言葉にできなかったある秘密が浮かび上がる。やがて日記から青白く揺れる“鬼火”のような魂が現れ、杏菜の心に静かに入り込み、杏菜は予想外の行動を起こす。
公開されたポスタービジュアルでは、三人の少女が寄り添い、美しさと不穏さを同時にまとった空気を漂わせている。黒い服に身を包み中央に座るのは主人公・杏菜(美絽)。杏菜に寄り添うのはクラスメイトの栞(池端杏慈)。そして、ただ一人、視線を落とし寂しげな表情を浮かべるのが、劇中で突然命を絶つ莉花(蒼戸虹子)だ。「あなたは、あたしの、誰なんだ」というコピーが添えられ、タイトルの横には白い花があしらわれている。オーディションで抜擢された三人は、モデル・CM・ドラマなどジャンルを超えて活躍している。
また、予告編は「ねえ、莉花ってなんで自殺しちゃったんだと思う?」という衝撃的な問いかけから始まる。賛美歌が響く中、制服姿の杏菜、栞、莉花の三人が、キリスト教の寄宿学校で過ごす日々が映し出される。莉花が残した日記を読み進める杏菜の身体に、青白い鬼火のような魂が入り込む。杏菜は栞に「莉花の魂が私の中に入り込んできたんだ」と告げるが、栞はあきれた様子で「は?」と返す。やがて莉花の死と日記の存在によって揺らぐ少女たちの心、そして大人たちとの対立が静かに渦を巻いていく。門脇麦演じる教師・澤井が「そういうのは暴力と言うんです!」と涙ながらに叫ぶ姿も強烈な印象を残す。予告は、「少女たちは“死”に触れて、自分を知る」というナレーションとともに、杏菜が凜とした表情で遠くを見つめるシーンで締めくくられ、新たな未来を予感させる。
なお、2004年に深田恭子と土屋アンナの共演で映画化もされた「下妻物語」などの作家・嶽本野ばらが本作へのコメントを寄せている。(北山郁)
嶽本野ばらコメント全文
果実の中で種子が抱いているのは世界への希望か恐れか?
何にでも染まる筈の白が一点の汚れも拒む時、称賛は非難に変わる。
少女は誠実と残酷の二律背反に折り合いをつけない。
だから彼女達の命は花となり揺れる。