松村北斗、自分の出演歴に“ヘコむ”理由 「魔法をかけられる」名監督への敬意

新海誠監督のアニメーション映画を、『アット・ザ・ベンチ』などの奥山由之監督が実写化した『秒速5センチメートル』(10月10日全国公開)で、映画単独初主演を果たした松村北斗。SixTONESとしての活動はもちろんだが、そうそうたる出演作品歴からも、もはや日本の映像業界を支える若手俳優の1人といっていい。だが、当人は「(自分の)出演歴を見てびっくりします」と意外なことを口にする。松村は、いまの自身への評価をどう考えているのだろうか。
「未熟で足りないところばかりの自分を起用していただき、素晴らしい作品たちを作られたクリエイターや監督さんたちは、本当にすごいと思います」と松村は真顔で切り出す。それは決して謙遜ではなく、本心からそう思っているのだとわかる表情だ。およそ世間の評価からは遠いのだが、そこには彼なりの理論があった。
世間が俳優としての松村の存在に気づいたのは、2021年放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」だろう。真面目で穏やかで爽やかだが芯のある青年役で、上白石萌音の夫&深津絵里の父親という立場も含めて大きな印象を残した。以降、蜷川実花監督の『ホリック xxxHOLiC』(2022)、岩井俊二監督『キリエのうた』(2023)など、名だたる監督の作品でさまざまな表情を見せていく。
さらに、生きづらさを抱えるパニック障害の青年とPMSの女性の交流や、周囲の人々の優しさを、温かな筆致で描いた三宅唱監督の『夜明けのすべて』(2024)では、ダブル主演の上白石萌音とともに、国内外の多くの映画賞を席巻した。『花束みたいな恋をした』(2021)の人気脚本家・坂元裕二と、『わたしの幸せな結婚』(2023)、『ラストマイル』(2024)、ドラマ「海に眠るダイヤモンド」(2024)の塚原あゆ子監督がタッグを組んだ『ファーストキス 1ST KISS』(2025)では、名優・松たか子の夫役。過去と未来、さらにシチュエーションの違いをさまざまに演じ分ける必要のある複雑で、繊細な役柄を見事に体現した。

そして、今作の原作者である新海監督との出会いとなったアニメーション映画『すずめの戸締まり』(2022)では、その低く響く深い声と的確な演技で物語に奥行きを与え、新海監督に絶賛された。今作の実写化の前にも「北斗くんで見たいですね」という言葉を新海監督からかけられており、それは出演の決め手の1つだったという。アニメ版は、主人公・遠野貴樹(とおの・たかき)の18年の人生と幼馴染の篠原明里(しのはら・あかり)への思いを、3つの時代で描いた短編集だが、実写版ではオリジナルの設定を加味し、約2時間の長編に仕立てている。貴樹役は、幼少期を上田悠斗、高校生を青木柚、社会人時代を松村が演じ、明里には、幼少期を白山乃愛、社会人時代を高畑充希がふんした。
「自分に名作を作るだけの力があるかといえば、全くそうではない。それがある意味でのコンプレックスなんです」と松村は思いを吐露する。名作ぞろい、名監督ぞろいの出演歴を「すごいラインナップだなって、ヘコみます。ここまで出演させていただいたのに、まだ自分はこんな感じなのかって。僕はいつになったら1人でちゃんとお芝居ができるんだろうという思いを、毎回感じています」と自身への評価を語った。
「どうしたらもっとあの人みたいにできるのか。そんなことばかり考えています」と言うが、世間から見たら松村がすでにそう思われる立場なのでは? だが「いやいやいや」と強く否定し、「みなさんが知っている(自分が関わった)映画監督たちはすごいんだって話です。僕のいいところをいっぱい出してくださったんだろうし、よくないところは、たぶんひっこめてくださっているんだと思います」と語る。自身が評価されるのは「(諸監督の)魔法をかける力が強いからです。びっくりするくらい、僕は魔法をかけられているんです」と名監督たちに敬意を表した。

特に今作を手がけた奥山由之監督に関しては、「アニメ版をとても大切にリスペクトしつつ、俳優が実際の風景の中にいるように演じられる調整に細かく気を配ってらっしゃいました」とその手腕に感服したことを明かした。「何より貴樹は、各世代によって境遇や声色などが変わります。僕が演じた社会人のパートで、ものすごく追い詰められて、ほかのパートと同じ人に見えるか正直計算しきれてなかったところがあるのですが、確かに同じだと思えるところまで戻ってくるグラデーションは、見ていて本当にびっくりしました」とし、「『なんで?』と思いながら一生懸命その場で理解して演じたことが、あとで『うわ、ちゃんと繋がってる!』と思ったところもありました」と打ち明ける。「全部を見ていたのは奥山さんだから、かなり細部まで神経が行き届いている方なのだなと思いました」
「監督さんを納得させられるような俳優さんがたくさんいる世界で、そういうお芝居ができたら、すごくかっこいいし、楽しいだろうなと思います」と松村は自身の憧れを語る。彼は現状に満足せず、もっと高みを目指しているということだ。魔法は、かけられる側に力がなければ、その輝きは半減するはず。自身が認める“そういう芝居”のために、「松村北斗」という逸材は、この先どんな形になっていくのだろうか。見つめ続けるしかない。(取材・文:早川あゆみ)