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「制約を受けることなく、自由にストーリーを語る」TCCF クリエイティブコンテンツフェスタで見えた、台湾のコンテンツ制作

ソフトパワーで世界における存在感を高めてきた台湾が、2020年から開催している文化コンテンツ産業の大型展覧会「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」。今年も11月5日から11月8日の日程で開催された。

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「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」
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  • 鄭心媚(ジェン・シンメイ)氏
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  • 「零日攻撃 ZERO DAY」@ZeroDay Cultural and Creative Company Limited.
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  • 「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」

ソフトパワーで世界における存在感を高めてきた台湾が、2020年から開催している文化コンテンツ産業の大型展覧会「TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ(Taiwan Creative Content Fest)」。今年も11月5日から11月8日の日程で開催され、映画やドラマ、アニメーション、出版、コミックなど、台湾だけでなく世界中からさまざまな業界の関係者が集まり、コラボレーションのチャンスの創出や交流が行われた。

TCCFの柱となるのは、「ピッチング」「マーケット」「フォーラム」の3つのカテゴリー。「ピッチング」は、グローバルに展開できる市場性を備えたIP(知的財産)に世界のバイヤーやパートナー候補と出会う機会を提供する場で、登壇者たちが投資家や業界関係者に向けてプロジェクトをプレゼンテーションした。版権の交渉や商談などを行う「マーケット」には、テレビ局や制作会社、出版社など、文化コンテンツ企業や行政機関などがブースを出展。「フォーラム」は、世界中から業界の第一線で活躍するゲストを招き、それぞれの経験や人気コンテンツの制作の裏話など、最新の情報を共有する場として盛り上がりをみせていた。

今年のプログラムから顕著にうかがえたのは、国際共同製作やグローバルなプロジェクトから経験を取り込もうという台湾の姿勢。たとえば「フォーラム」では、ドラマ版&劇場版『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』の本間かなみプロデューサー、風間太樹監督、タイで同作をリメイクしたNuttapong Mongkolsawas監督が登壇し、人気コミックの実写化や他国でのローカライズについて語った。「ユン食堂」シリーズなどスターの素顔が見られるリアリティショーが人気の韓国の名物プロデューサー、ナ・ヨンソク氏も講演。世界で受けるバラエティ番組づくりのこだわりや考えをシェアした。

人気コミックの実写化や他国でのローカライズについて語った「フォーラム」の様子

力を入れている「ピッチング」は、開催前に開かれた登壇者へのトレーニングの講師に「SHOGUN 将軍」の宮川絵里子プロデューサーを招くなど、世界に通用する感覚を持った人材育成に力を入れている印象を受けた。

グローバル展開を重視すると同時に、課題として力を注いでいるのは、台湾ならではのストーリーを打ち出すことだ。

ピッチング部門に今年初めて設けた「オリジナルストーリー・コンセプト」部門では、「華語である」ということのみを条件に、世界中からストーリーの原案を募集した。国や地域、テーマやジャンルは一切問わず、映画、ドラマ、コミック、ゲーム、舞台など、将来的な展開の形式も自由。台湾が打ち出している、「世界で唯一、華語を使って多様で自由な表現ができる」という強みを生かし、台湾や華語のコンテンツのグローバルなビジネスチャンスを開拓する狙いがある。その結果、米国、英国、マレーシア、タイなどを含め、世界中から821件の応募があったという。

ピッチングの様子

審査を経て選ばれた5つのプロジェクトがTCCFでのプレゼン枠を獲得。サヴァン症候群の刑事が猟奇殺人犯を追う「罪藝絶響」と、幽霊にとりつかれた少年が、霊感の強いもう1人の少年と共にその幽霊の望みをかなえるという「夏日残霊」が金賞を受賞した。

そんな「テーマの制約を受けることなく、自由にストーリーを語ることができる」という台湾の強みが現れたドラマ「零日攻撃 ZERO DAY」が放送待機中だ。

中国との緊張関係が続く台湾。戦争へのカウントダウンが進む中、さまざまな思惑を抱えた人々が、戦争の脅威にどう立ち向かうのかを描く。

「零日攻撃 ZERO DAY」@ZeroDay Cultural and Creative Company Limited.

中国の偵察機が台湾沖に墜落して消失。その捜索と救助を名目に、中国が台湾に向けて大量の軍事力を投入する…。戦争へのカウントダウンが始まった台湾を舞台に、パニックに陥った人々の戦争に対する恐怖新や人間性を描く。

スパイもの、ブラックコメディ、ファンタジー、家族ドラマなど、それぞれ独立したストーリーと異なるジャンルの全10話で構成したアンソロジー形式で、映画賞の受賞歴などがある監督10名がメガホンをとった。日本から高橋一生さん、水川あさみさんが出演していることも話題だ。本作のプロデューサー/脚本コーディネーターを務めた鄭心媚(ジェン・シンメイ)氏にTCCFの会場でインタビューを行った。


鄭心媚(ジェン・シンメイ)氏インタビュー

鄭心媚(ジェン・シンメイ)氏

――「零日攻撃 ZERO DAY」製作のきっかけは?

実はこの作品を書こうと思ってから、既に長い時間がたっています。1949年から中国の脅威は途切れることなく続いており、「戦争が起こるかもしれない」という恐怖がずっと台湾人の心の中にありました。ウクライナとロシアの戦争が始まったあと、急いでこのテーマで脚本を書かなければ、チャンスがないかもしれないと思いました。世界中のメディアで台湾は一番危険な国だと言われていますし、中国軍の戦闘機の領空侵犯も増えており、戦争への緊迫感をより強く感じるようになったからです。

――台湾にもさまざまな立場・意見の人がいるので、放送されると大きな反響があるかと思います。敏感なテーマを扱うことに、恐れはなかったですか?

放送後に限らず、プロジェクトの資金集めから、制作チームの結成やキャスティングなど、あらゆる段階で参加をためらう人は多かったです。でも私は、台湾は自由で民主的だと信じているので、きっと多くの人が私と同様、どんな制限も受けずに、語るべき物語を語るべきだと考えていると思います。

――台湾でも中国の時代劇ドラマなどを観る人が多く、若い人の危機感が薄まっているという話を台湾の友人から聞いたことがあります。

文化の持つ力は重要です。特にドラマや映画は、観た人の世の中に対する認識に影響を与えるので、大量の中国ドラマが入ってくれば、確かに若い人の中国と台湾に対する認識に影響を与えるでしょう。

ですから、なぜ私たちが自分たちの物語を語らなくてはいけないと考えているのかというと、自分たちが語らなければ、アイデンティティを失ってしまうかもしれないからです。

――結果として、2.3億台湾ドル(日本円で約10億円)の資金が集まったそうですね。(台湾文化部による支援のほか、零日文創股フン、TAICCA、中華電信股フン、高雄人が出資)

最初は映像作品にのみ出資してきたファンドをあたりましたが断られたので、範囲を広げて、台湾でTVドラマには出資したことがないけれども、このテーマに関心をもってくれそうなところをあたりました。

――企画の始まりから撮影にとりかかるまで、どのくらいかかりましたか?

約3年です。テーマについて研究するのに、だいたい1年。続けて計画案を作成しはじめ、同時に脚本開発も進めました。脚本開発の途中で資金が調達できたので、撮影もスタートさせたという具合です。

「零日攻撃 ZERO DAY」@ZeroDay Cultural and Creative Company Limited.

――今年の東京国際映画祭併催のコンテンツマーケット「TIFFCOM」で行われた記者会見でも、鄭さんはこのドラマを「エンタメ作品」と強調されていましたね。ストーリーについて、リアリティとエンターテインメント性のバランスはどのように考えましたか?

ドラマの内容はすべて、台湾のリアルな状況から発展させたものです。台湾では中国の侵入者による侵入が進んでおり、さまざまな方法で台湾の人々の恐れを煽っています。そんな“紅色浸透”の脅威に、台湾の人々はいかに向き合うのか? 迫り来る戦争の脅威にどう向き合うのか? それを描いたドラマです。

ただし形式として、さまざまなジャンルの手法を用いることで、おもしろいドラマにしたいという希望がありました。面白くなければ、何を語っても見てもらえないので意味がないですから。

――日本では政治的、社会的テーマ性の強い作品に出演することをためらう俳優が多いです。台湾ではどうですか?

台湾の状況は日本より深刻だと思います。特にこのドラマは政治的テーマも中国との関係も扱っています。台湾の芸能人の中には中国で仕事をしている人もいるので、そういう方々は慎重になるでしょうね。

日本の俳優も含めて、出演を決めてくれた俳優たちは、興味深い希有な内容だと言って、脚本を気に入ってくださいました。高橋一生さんも水川あさみさんも役柄にぴったりで、ご出演いただけてよかったと思っています。台湾の共演者とも、とても相性がよかったと思います。

「零日攻撃 ZERO DAY」@ZeroDay Cultural and Creative Company Limited.

――高橋一生さんが登場するのは、メディア戦争を描く第2話。水川あさみさんが登場するのは、地方の警官が主役のブラックコメディである第5話です。お二人との印象深いエピソードがあれば教えてください。

高橋さんは日本語、中国語、英語のセリフがある役でした。スタッフが中国語のセリフを録音して練習用にお渡したら、高橋さんの役柄は北京に留学していたという設定なので、台湾の方のアクセントではおかしいのではないかと指摘されました。「この役は父親が台湾人だ」という話をしたら納得されたのですが、役柄の背景まで全面的に把握し、ディテールにこだわるプロエッショナルな姿勢に驚きました。

水川さんは高橋さんとタイプが違い、皆をハグしてくれるような、すごくオープンで元気な人。クランクアップの日、撮影で使った木箱をきれいにしてプレゼントしたのですが、使い古した物をそのまま記念に欲しいとおっしゃったことが印象に残っています。

――インターネットでは本作の17分間におよぶ予告映像が公開されています。台湾での反応はいかがでしたか?

大きく2つの意見がありました。こういう作品が存在するからこそ、戦争が現実のものとなった時にどうするべきか考えることができるという声がある一方、今安全に暮らせている台湾にとって、むしろ脅威になるではないかと言う声もありました。台湾国民を脅かしているのではないかと。作品に対する解釈は1人1人違います。私はクリエイターとして、議論されることはいいことだと思っています。

「零日攻撃 ZERO DAY」@ZeroDay Cultural and Creative Company Limited.

『零日攻撃』は2025年5月放送開始予定。日本での放送・配信は現時点で未定となっている。

政治的メッセージの色濃い作品を公的機関が支援することに賛否両論あるのは想像に難くないが、表現することは自由。台湾で最もセンシティブだと言ってもいい題材を扱ったこのドラマが放送後にどんな反響を得るのか、非常に興味深い。


今年のTCCFは過去最高の参加者数を記録。50か国から集まったプロジェクト提案は600件。展示ブースは101に上り、30か国から300人以上の専門家やメディア関係者、バイヤーが参加した。さらに「フォーラム」部門では30人以上のスピーカーが15のトークや講演に登壇した。

TCCFの主催機関である「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー 」(TAICCA、タイカ)は、台湾文化部(文科省に相当)のもと2019年に設立された独立行政法人。台湾文化コンテンツ産業のサポートと国際化の促進を使命としている。


台湾クリエイティブコンテンツフェスタ TCCF 2024
《新田理恵》

新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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