繰り返されたホメオパシー騒動
またホメオパシーが話題になっている。
今回の発端は、人気ブロガーのイケダハヤトさんがブログでハチ、ムカデに刺された症状がホメオパシーで治ったという友人の「体験談」を紹介したことだ。
イケダさんのもとには「エセ科学に手を出した」「ホメオパシーはありえない」などと批判が殺到した。
それにしても、何度も話題になり、批判が繰り返されるホメオパシー。問題の根はどこにあるのだろうか。
そもそもホメオパシーとは?
ホメオパシーはヨーロッパで誕生した民間療法の一つで、簡単にいえば、治したい症状を引き起こす成分をものすごく薄めて、砂糖粒に染み込ませて、その砂糖を飲むというもの。砂糖粒はレメディと呼ばれている。
その主張通りに作られたものは、科学的になんら意味がないレベルまで、成分を薄めてしまう。そのため、砂糖粒には味覚に作用する甘さ以外は、特に意味もなく、副作用もない。飲んだところで効果はない、というのが多くの科学者、医師の一致した見解だ。
「ホメオパシーに科学的根拠はありません」
効果があると主張する医療関係者がいたとしても、それは極々少数で、かつ科学的なプロセスを踏まえた主張ではないことを理解しておきたい。
「虫刺されであれ、風邪であれ、もっと重度の病気であれホメオパシーに効果はありません。これまでホメオパシーの科学的根拠を調べようと、多くの研究がでています。実際に患者を二群に分けた研究もあります。一方の群にレメディを与え、もう一方の群に偽薬を与えた臨床試験においても差はでませんでした」
BuzzFeed Newsの取材にこう断言するのは、代替医療やニセ科学問題に詳しい、内科医のNATROMさんだ。
科学的な根拠がないことと、「効果」があると信じることは別問題
ペンネームで多くの著作を執筆しており、この問題の専門家だ。なぜ、ホメオパシーをめぐる騒動が繰り返されているのか。NATROMさんの見解はこうだ。
「『ホメオパシーで治った、と本人が思っている』体験があることが事実だからでしょう。私もそこは否定するつもりはありません」
多くの誤解があるが、科学的な根拠がないことと、レメディに「効果」があると信じることはまったく別の話だ。
飴玉でも、信じて飲めば「効果」はでる
「レメディに限らず、単なる飴玉でも効果があると信じて飲めば、風邪なんかでも症状が良くなることがあります。昔は、日本の医師の間でも、実薬を与えたくない場合などに、代わりに乳糖を処方することがありました」
「医学の世界で、『プラセボ効果』と呼ばれるものです。何らかの治療をしたという安心感が症状を和らげることがあるんですね。特に痛みや不安にはプラセボ効果が効きやすいと言われています」
「あとは大きいのは自然治癒。ちょっとした虫刺されなら薬を使わなくても自然に治ります。ホメオパシーの多くは虫刺されや風邪やちょっとした腹痛、軽いけがなどに使われます。いずれも自然に治る疾患です。だから、わざわざ薬を飲むほどでもない症状なら、効いたと感じる人がいることは不思議ではありません」
「慢性的な症状に使われることもあります。慢性的な症状は、体調のいい時と悪いときに波があるもの。飲んだときによくなれば、それは効いたと思うでしょう。こうした効果について、科学的な根拠がないことを理由に頭ごなしに否定する気持ちはありません。この程度なら個人の自由で、と済むことでしょう」
「幸いなことに、レメディは単なる砂糖ですから、病気に作用する効果がないぶん、副作用もない」
しかし、ホメオパシーが原因で新生児の死亡事故も起きた
しかし、と続ける。
「問題はプラセボ効果を超えた効果がある、と喧伝している人たちがいて、それを信じてしまう医療関係者もいるという事実です」
2009年、山口県で起きた新生児の死亡事故。助産師が、ビタミンKシロップ投与という標準的な医療行為をせずに、「代替医療」としてレメディを投与していた。
この事故について、日本医師会は「医療ネグレクト」という言葉を使い、総括している。
助産師が適切な医療へのアクセスを阻害し、結果的に「医療ネグレクト」を生じさせたことが問題であり、他の代替医療についても同様に適切な受療機会を奪うことに問題がある。
NATROMさんは語る。
「標準的な医療行為を怠ったがために起きた、と言えます。大事なのは、医療関係者であっても、標準的な医療を否定する人たちがいるということです。そう考えることは自由ですが、極端な主張は犠牲者を出します」
「ホメオパシーは特に、過去の歴史からいっても反標準医療的な主張と結びつきやすいものです。体験談を紹介するにしても、極めて慎重であるべきでしょう」
イケダさんはどう考えているのか?
イケダさんはどう考えているのか。BuzzFeed Newsの取材に、メールで応じた。
以下、全文を掲載する。
Q:紹介しようと思った経緯
イケダさんの回答:ごく普通に、友人が「信じられないけど、これハチ・ムカデに効いたんだよ」と言っていたので、念のため常備したよ、という話を書いただけですね。
そういうことって、普通にあるじゃないですかw 特にハチ毒・ムカデ毒ってわかりやすい特効薬がないので、試してみる価値があるなと。他にいい薬があれば常備したいですね!
Q:インターネット上での批判について
イケダさん:特に日本のネット界隈において、ホメオパシー=絶対悪となっているのは、純粋に興味深いですよね。海外では割りと一般的だと言いますし。
日本においても、ぼくが住んでいる地域では、ムカデの毒消しに「ムカデの焼酎漬け」とふりかけたりするんですが、これなんか「同じ毒を摂取する」という意味で、ホメオパシーですよね。
ちなみにムカデ焼酎が効くかどうかは知りませんw「海外の民間療法」として、取り入れたい人は勝手に取り入れればいいんじゃない?という程度のものだと思いますが……。
より深掘りすれば、「代替療法」ではなく「補完療法」みたいな感じで使うのは、普通にありなんじゃないかと思いますね。日本における過去の問題も「西洋医学はダメ、自然療法のみOK」というスタンスが原因で発生しているわけですし。
ざっくりいえば、「西洋医学が完璧であるわけでもなし、漢方でも民間療法でもホメオパシーでも、やりたい人は補完的にいろいろ取り入れていけばいいんじゃないの」というスタンスですね。
最後に、ここらへんは話を広げすぎな感もありますが、「受けたい医療を受ける自由」なんて論点もあるでしょうしね。「ホメオパシーやってる」というだけで「あいつは非科学的だ!!」と強烈にバッシングされるのは、純粋に変な話ですからねぇ。
あらためて、大事なポイントはなにか……
再びNATROMさんの話に戻る。
「ホメオパシーは海外では200年以上の歴史がある、民間療法の一つではあります。医師がプラセボとして処方する、ということもあるようです。日本でいえば、漢方に近いかもしれませんね」
「もっとも、漢方は医療的な効果があるものもたくさんありますから、決定的な違いはあります(もちろん、科学的な知見が確立されていない漢方もあります)」
プラセボを処方するのは、原則として医療倫理に反するというのが、NATROMさんの考え方だ。
「先ほど事例にあげた乳糖であれ、レメディであれ、プラセボ効果のみに期待して処方することは、医療倫理として許されない、という考え方が主流になってきました。医師としての説明責任を果たしていないからです」
「昔は末期ガンを本人に告知しないことが普通でした。しかし、それでは患者は自分が受けたい医療を選べません。いまは、丁寧な説明を重視します。本当は効かないものを勧める。これは医師としてとるべき方法ではない、と私は考えています」
あらためて、大事なポイントをまとめておこう。
- ホメオパシーに科学的な根拠はないが、選ぶ自由はある。
- しかし、まったく効かないのではなく、プラセボ効果くらいはある。
- それを超える効果はないので、過大な効果を喧伝する人には注意する。