大阪府の吉村洋文知事が、殺菌効果のあるポビドンヨードが含まれたうがい薬で新型コロナウイルスへの感染が少しでも抑えることが期待できると使用を呼びかける記者会見をし、医療関係者から批判を浴びている。
新型コロナの感染予防でうがいが果たす役割は手洗いやマスクと比べて優先順位が低く、検査直前にうがいをしたら喉のぬぐい液や唾液のウイルスのみが殺されて、体内にウイルスはあるのに、正しく判定できない可能性も指摘されている。
既に買い占めする動きも出ており、医療者たちはSNSで口々に批判している。
吉村府知事「うそみたいなほんとの話」
問題の発表は8月4日に開かれた府知事らの記者会見で行われた。
大阪府は、殺菌効果のあるうがい薬でうがいをすると唾液のなかの新型コロナウイルスが減り、人にうつしにくくなる可能性があるとして、本格的な研究を進めることを明らかにした。
NHKの報道などによると、吉村知事は、「うそみたいなほんとの話」として、「うがい薬でうがいをすると新型コロナの陽性者が減っていくのではないかという研究結果が出た」と述べたという。
具体的には、今年6月から先月、宿泊施設で療養していた軽症や無症状の患者、40人余に、ポビドンヨード入りのうがい薬で、1日4回、うがいをしてもらったところ、その他の患者よりも唾液の中のウイルスが減少。
うがいをした患者は4日目に唾液のPCR検査の陽性率が約9%になったのに対し、うがいをしなかった患者は陽性率が40%だったという。今後1000人規模の研究でさらに効果を確かめるとしている。
知事は会見で、症状がある患者や接待を伴う飲食店、医療や介護の従事者らに対し、ポビドンヨードが含まれたうがい薬でうがいするよう呼びかけた。
この会見の報道を受けて、各地でポビドンヨードの入ったうがい薬が売り切れるドラッグストアが続出。この成分の入ったうがい薬を販売する企業の株価が急騰したことも報じられた。
医療従事者、口々に批判
このニュースが流れて、SNSは、「うがい薬で予防」を呼びかけることに対する医療者の批判の声で溢れた。
感染症対策コンサルタントの堀成美さんは、うがい薬以前に、そもそも医療機関ではうがいを予防策としてやっていない、逆に環境を汚染する可能性があると指摘した。
呼吸器内科医のキュート先生は、「唾液なら水うがいだけでも口の中のウイルス陽性率は減るのでしょうし、口は陰性でも鼻腔や気道にはウイルスが残って『偽陰性』の方を増やしてしまうことに繋がります」とツイートした。
うがいした直後に口内からウイルスが消えても、気道や肺、鼻の中にはウイルスが残っている可能性がある。喉のぬぐい液や唾液によるPCR検査で正確な結果が出なくなる悪影響も懸念した。
産婦人科医さんは、メルカリでイソジンが高値で転売されているツイートを引用しながら、「だまされないように。買うだけ無駄です。新型コロナウイルス感染に有効であるという証明はまだされていません」と呼びかけた。
薬剤師の児島悠史さんは、感染予防策としてはうがいよりもむしろ手洗いが重要なこと、うがいをする場合もうがい薬より水道水で十分とされていること、ポビドンヨードは甲状腺機能への副作用もあることなどを指摘した。
通常の風邪の予防策としてはうがいの有効性は認められつつも、水道水によるうがいの方がポビドンヨードを含むうがい薬よりも発症を抑えられたという研究結果もある。
感染対策の専門家である聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは「ポビドンヨードと新型コロナに関する文献に目を通しているのですが、PVP-1のうがいで新型コロナ感染症が治る・予防できると言えるような科学的根拠は今のところ見当たりません」と、根拠が確立された予防法ではないことを指摘した。
新型コロナウイルス感染症の患者を診る都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんは、「ヨード系のうがい薬は、妊婦や甲状腺疾患の方は使用を避けなければなりません」とつぶやいた。
ヨードは甲状腺ホルモンを作る主原料となっている。ところがうがい薬などで体外からヨードが過剰に入って血中濃度が高くなると、肝心の甲状腺ホルモンを作るのを控えてしまう。これによって甲状腺機能が低下する。
妊婦の場合は、胎児の甲状腺機能低下にも影響があるため、妊娠中のヨードの摂取量は制限されている。
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